速読が「うまくできない」のはあなたの才能のせいではな
「本を速く読めるようになりたい」
そう思って速読の本を買ったり、ネットでやり方を検索したりした経験はありませんか？
しかし、多くの人が直面するのは「やってみたけれど、うまくできない」「文字を目で追うだけになって、内容が全く頭に入らない」という現実です。結局、以前と同じようなゆっくりとした読み方に戻ってしまい、「自分には速読の才能がないんだ」と諦めてしまう。これは非常にもったいないことです。
はっきり言います。速読がうまくできないのは、あなたの頭が悪いからでも、才能がないからでもありません。 原因は、「脳の使い方の癖」を修正できていないことと、「間違ったやり方」で無理やりスピードを上げようとしていることにあります。
速読は「魔法」ではありません。自転車に乗るのと同じで、正しい手順で練習すれば誰でも習得可能な「技術」です。
この記事では、速読教室に通っても挫折した経験を持つ筆者が、脳科学的なアプローチを含めた「本当に効果が出る速読のやり方」を徹底解説します。小手先のテクニックではなく、一生使える「脳のOS」をアップデートする方法を学びましょう。
おすすめ第1章：なぜ速読が「うまくできない」のか？3つの大きな壁
速読の具体的なトレーニングに入る前に、まず「なぜ今までできなかったのか」というボトルネックを特定する必要があります。多くの人が速読につまずく原因は、大きく分けて以下の3つに集約されます。
1. 脳内音読（黙読）の呪縛
私たちが小学校で文字を習ったとき、まずは「音読」から入りました。その名残で、大人になっても頭の中で文字を音声化して読んでしまう癖（Subvocalization）が抜けていません。
- 目に入る → 頭の中で声に出す → 理解する
このプロセスを経ている限り、読書スピードは「自分が話すスピード」の上限（1分間に400〜600文字程度）に縛られます。速読がうまくできない人の9割は、無理やり目を速く動かそうとしつつ、脳内では一生懸命「音声化」しようとしているため、脳がパニックを起こして理解不能に陥っているのです。
2. 「返り読み」の習慣
文章を読んでいる途中で、「あれ？今のどういう意味だっけ？」と無意識に数行前に視線を戻してしまう動き。これを「返り読み（Regression）」と呼びます。
特に日本語は構造上、最後まで読まないと意味が確定しない文も多いため、慎重な人ほどこの返り読みを頻繁に行います。一歩進んで二歩下がるような読み方をしていては、当然スピードは上がりません。速読ができない人は、この「視線の逆走」を無意識に行っています。
3. 完璧主義というメンタルブロック
「本に書いてあることは、一言一句すべて理解し、記憶しなければならない」
この思い込みが、速読の最大の敵です。
速読がうまい人は、本のすべての文字を平等に扱っていません。重要な部分はじっくり、そうでない部分はさらっと流すという「ギアチェンジ」を行っています。「うまくできない」と悩む人は、すべての文字を全力疾走で拾おうとして、すぐに疲弊してしまうのです。
おすすめ
第2章：速読に対する「誤解」を解く
具体的なやり方を学ぶ前に、速読に対する誤ったイメージをリセットしましょう。ここを勘違いしていると、いつまで経っても「できた気がしない」というジレンマに陥ります。
「写真のように記憶する」は一部の特殊能力
テレビなどで、パラパラとページをめくるだけで内容を全て暗記する「写真記憶（フォトグラフィック・メモリー）」のような速読を見たことがあるかもしれません。しかし、あれはごく一部の特異体質、あるいは特殊な訓練を極めたケースです。
私たちが目指すべき現実的な速読は、「通常の3倍〜5倍の速度（1分間に1500〜3000文字）で読み、要点をしっかり掴むこと」です。魔法のような超能力を目指すのをやめると、肩の力が抜けてトレーニング効果が上がります。
理解度100%を目指してはいけない
ゆっくり読んでも、本の内容を100%記憶している人は稀です。通常、読書後の記憶定着率は10〜20%程度と言われています。
速読を始めたばかりの頃は、理解度が一時的に60〜70%に落ちる感覚があるかもしれません。しかし、それで良いのです。「ゆっくり1回読む」よりも「速く3回読む」ほうが、結果的に記憶の定着率は高まります。
「1回で完璧に」ではなく「回数を重ねて深く」というマインドセットに切り替えましょう。
速読＝飛ばし読みではない
「速読＝重要なところだけを拾って、あとは飛ばすこと」と教えているメソッドもありますが、これは厳密には「スキミング（拾い読み）」という別の技術です。
本記事で解説する王道の速読は、「全ての文字を目に入れつつ、脳の処理速度を上げて理解していく」方法です。飛ばし読みだと、著者の論理展開やニュアンスを見落とす可能性がありますが、正統派の速読なら小説や専門書でも味わいながら速く読むことが可能になります。
おすすめ
第3章：速読を始める前の「環境」と「準備」
スポーツをする前に準備運動が必要なように、速読にも準備が必要です。いきなり本を開いて目を動かすのではなく、まずは「見るための目」と「環境」を整えましょう。
周辺視野を広げる目のストレッチ
現代人はスマホやPCの画面を凝視し続けているため、視野が極端に狭くなっています（中心視）。速読では、文字を「点」ではなく「面」で捉える必要があるため、周辺視野（中心以外のぼんやり見える範囲）を活性化させる必要があります。
【3分でできる視野拡大ストレッチ】
- 顔を正面に向け、両手の人差し指を目の前（30cmくらい）に立てます。
- 視線は正面を向いたまま、両指をゆっくりと左右に広げていきます。
- 視線を動かさず、「指がギリギリ見える範囲」まで広げたら、そこで10秒キープ。
- 同様に、上下、斜めにも指を動かし、視野の限界を脳に認識させます。
これを行うだけで、ページ全体がふっと明るく見えるようになります。
呼吸と姿勢で脳のパフォーマンスを変える
猫背で呼吸が浅い状態では、脳に十分な酸素が行き渡らず、情報処理能力が低下します。
椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばし、本と目の距離を30〜40cm程度離してください。本を机に置くよりも、書見台（ブックスタンド）を使って45度くらいの角度をつけると、首の負担が減り、眼球移動がスムーズになります。
今の読書速度（wpm）を計測する方法
トレーニングの成果を実感するために、現在の実力を数値化しておきましょう。読書速度は「wpm（words per minute：1分間に読める文字数）」で表します。
- 読んだことのない一般的なビジネス書や新書を用意します。
- タイマーを1分にセットし、普通に読みます。
- 1分経ったらそこでストップし、読んだ行数 × 1行の文字数で計算します。
- 一般的な日本人の平均：400〜600文字/分
- 速読初級レベル：1,000〜1,500文字/分
- 上級レベル：2,000文字以上/分
まずは、今の自分がどの位置にいるかを知ることからスタートです。
第4章：【実践編・初級】「脳内音読」を消すトレーニング
ここからは具体的なトレーニングに入ります。最初のステップにして最大の難関が、第1章で触れた「脳内音読（頭の中での読み上げ）」を消すことです。
完全に消すことは難しいですが、意識的に抑えることで、読書スピードは劇的に向上します。
メソッド1：「見る」という感覚を掴む
まず、文字を「読む」のではなく「見る」という感覚にスイッチします。
- すでに読んだことがある、簡単な本を用意します。
- 理解しようとせず、ただ文字を「図形」として眺めるつもりで、すごいスピードでページをめくっていきます（1ページ2秒程度）。
- これを本の最初から最後まで行います。
この練習の目的は、内容理解ではありません。「脳内音読が追いつかないスピードで情報が入ってくる」という状況に、脳を慣れさせることです。「高速道路効果」と同じで、速い刺激に慣れた後だと、通常の速読スピードがゆっくりに感じられるようになります。
メソッド2：指ガイド読書（ペーシング）
視線のふらつき（返り読み）を防ぎ、一定のリズムで読むために、指を使います。
- 利き手の人差し指を、読んでいる行の下に添えます。
- 「自分の読める限界より少し速いスピード」で、指を右へ滑らせます。
- 絶対に指の動きを止めず、視線は指先に集中します。
- 理解できなくても戻らず、指に合わせてどんどん進みます。
ポイントは「指が眼球を引っ張る」イメージです。最初は内容が3割くらいしか入ってこないと思いますが、我慢して続けてください。指の動きによって強制的に「返り読み」が封じられ、脳が「このスピードで処理しなきゃいけないのか！」と覚醒し始めます。
メソッド3：BGMや雑音を利用する（並列処理トレーニング）
脳内音読を消すための荒療治として、「別の音を聴きながら読む」という方法があります。
- 歌詞のないアップテンポな曲（ジャズやクラシック、テクノなど）を聴く。
- 指で机をトントンと一定のリズムで叩きながら読む。
脳の聴覚野をBGMやリズム処理に使わせてしまうことで、「文字を音声化する余裕」を脳から奪う作戦です。これにより、視覚野だけを使って文字情報を処理せざるを得ない状況を作り出します。
最初は集中できないと感じるでしょうが、「音楽を聴きながら、内容は目で追えている」という状態になれば、脳内音読から脱却しつつある証拠です。
おすすめ第5章：【実践編・中級】視点移動のスピードアップ
脳内音読の癖が抜け、文字を「見る」感覚が掴めてきたら、次は物理的な「眼球の動き」を最適化します。
速読がうまくできない人の多くは、目の動きに無駄があります。これを最小限に抑えるのが中級レベルの課題です。
眼球の「跳躍」と「固定」を知る
私たちの目は、実は流れるように文字を追っているわけではありません。
「移動（サッカード）」→「停止（フィックス）」→「移動」という動きを繰り返しています。そして重要なのは、脳が情報を処理できるのは、目が「停止」している瞬間だけだということです。
- 遅い人：一文字ごとに停止している（1行で20〜30回停止）。
- 速い人：数文字〜単語ごとに停止している（1行で3〜5回停止）。
つまり、視点移動のスピードアップとは、「停止する回数を減らすこと」と同義です。
トレーニング：3点凝視法
1行あたりの視点の停止回数を強制的に減らすトレーニングです。
- ページの1行を「左端・真ん中・右端」の3つのブロックに分けます。
- 「ポン・ポン・ポン」というリズムで、その3点だけを見て視線を移動させます。
- 間の文字は、はっきりと見ようとせず、周辺視野でなんとなく捉える感覚でOKです。
慣れてきたら、「2点（左右）」に減らします。究極的には、行の真ん中を見るだけで左右まで捉えるのが理想ですが、まずは3点から始めて、目の可動域とリズムを鍛えましょう。
視線の「折り返しロス」をなくす
横書きの本を読む際、行の右端まで読んでから、次の行の左端に戻る瞬間に大きなタイムロスが発生します。
これを防ぐには、「行の最初と最後の2〜3文字は見ない（脳内で補完する）」というテクニックが有効です。
- 通常の読み方：左端の1文字目から → 右端の最後の文字まで
- 速読の視線：左端から3文字目あたり → 右端から3文字目あたり
視野が広がっていれば、端の文字は視界の隅に入っています。視線の移動距離を短縮することで、眼球の疲労を減らし、スピードを持続させることができます。
第6章：【実践編・上級】チャンキング（かたまり読み）の極意
ここからが速読の真骨頂です。文字を一つずつ追うのではなく、意味のまとまり（チャンク）ごとに写真を撮るように取り込む技術、それが「チャンキング」です。
単語ではなく「イメージ」で捉える
例えば、「りんご」という文字を見たとき、「り・ん・ご」と読みますか？ それとも、瞬時に赤い果物の映像が浮かびますか？ おそらく後者のはずです。
これを文章全体に応用します。
- 「彼は / 全力で / 走った」
この文章を3つのブロックで捉え、瞬時に脳内で映像化します。
速読がうまくできない人は、助詞（て・に・を・は）にこだわりすぎです。意味を構成する「名詞」と「動詞」だけをピックアップして繋ぎ合わせれば、内容は9割理解できます。
縦書き本での「コラム読み」
周辺視野を使った高度なテクニックです。
新聞のコラムのように、数行をまとめて一つのブロックとして認識する方法です。
- 視線は行の上から下へ動かすのではなく、ページの「中心」を縦に貫くように動かします。
- 中心を見ながら、その左右にある行を「面」として捉えます。
最初は「何が書いてあるかさっぱりわからない」と感じるでしょう。ですが、これは「読む」のではなく「検索する」感覚に近いです。「重要なキーワードが飛び込んでくるのを待つ」というスタンスで練習を続けると、脳が必要な情報だけをキャッチするようになります。
おすすめ第7章：理解度を落とさない「要約力」の鍛え方
「速く読めたけど、中身を覚えていない」
これが速読挫折者の最大の悩みです。スピードと理解度を両立させるためには、読み方の「戦略」を変える必要があります。
1冊を3回に分けて読む「サンドイッチ読書」
1回で完璧に読もうとするから失敗します。目的を変えて3回読みましょう。
- プレビュー（下読み）：3分
- 目次、まえがき、あとがき、各章の見出しだけを読みます。
- 「この本には何が書いてあるのか」「自分は何を知りたいのか」という全体像（地図）を頭に入れます。これだけで、本文を読む際の理解度が段違いに上がります。
- スキミング（高速読み）：15分〜30分
- ここで初めて本文に入りますが、全部は読みません。
- 「太字」「重要そうなキーワード」を中心に、第4〜6章の技術を使って高速で目を動かします。
- 「ここは重要だ」と思った箇所には、ドッグイヤー（ページの角を折る）や付箋を貼っておきます。
- ディープリーディング（復習）：必要な時間だけ
- ステップ2で気になった箇所だけを、ゆっくり熟読します。
- 不要な部分は大胆にカットします。
読後1分の「出力」が記憶を定着させる
脳は「入力した情報」ではなく「出力（使った）情報」を重要だと判断し、記憶に残します。
本を閉じたら、すぐに以下のことを行ってください。
- A4用紙やスマホのメモに、覚えているキーワードを3つ書き出す。
- 「要するにこういうこと」と一言で要約する。
- 誰かに話すつもりでエアプレゼンをする。
読書時間の最後の5分をこの「出力」に充てるだけで、ダラダラと1時間読むよりも遥かに深く記憶に残ります。
おすすめ第8章：どうしてもできない人へ。ツールとアプリの活用術
ここまでのトレーニングを試しても「やっぱり自分には無理だ」「目が疲れて続かない」という方もいるでしょう。
そんな時は、現代のテクノロジーを頼りましょう。ツールを使うことは逃げではありません。
RSVP（Rapid Serial Visual Presentation）ツールの活用
スマホやPCの画面上の定位置に、文字を高速で次々に表示させる技術です。眼球移動を強制的にゼロにできるため、誰でも物理的な限界を超えた速度で読む体験ができます。
- おすすめアプリ：Kindleの読み上げ機能の倍速再生、または「Spritz」系の技術を使った速読アプリ。
オーディオブックで「聴覚速読」
視覚的な速読が苦手なら、耳からの情報処理速度を上げるのも一つの手です。
Amazon Audibleなどで、再生速度を2.5倍〜3.5倍にして聴いてみてください。
最初は早口言葉にしか聞こえませんが、慣れると脳の言語処理エリアが活性化され、結果的に目で文字を追うスピードも向上するという相乗効果があります。
第9章：ジャンル別速読のコツ（ビジネス書・小説・参考書）
すべての本を同じ速度で読む必要はありません。本の種類によって「ギア」を変えるのが、真の速読マスターです。
ビジネス書・実用書
- 目的：情報の取得。
- 読み方：最も速読に適しています。「はじめに」と「目次」を熟読し、自分に必要な章だけをピックアップ。事例や体験談などのエピソード部分は飛ばし、**「結論」と「ノウハウ」**だけを抽出します。
- 目標速度：2000文字/分〜
小説・エッセイ
- 目的：ストーリーや情景の追体験、感情の揺れ。
- 読み方：基本的に速読は推奨しませんが、情景描写やあまり動きのない場面はペースを上げ、会話文やクライマックスはゆっくり読むという「緩急」をつけると、映画を見るような感覚で楽しめます。
- 目標速度：1000〜2000文字/分（可変）
参考書・専門書・資格試験
- 目的：体系的な理解と暗記。
- 読み方：1回目は高速で全体を把握し（わからない単語があっても止まらない）、2回目、3回目と繰り返しながら徐々に解像度を上げていく「塗り重ね法」が有効です。最初からじっくり読むと、後半で前の内容を忘れてしまいます。
- 目標速度：変則的（周回を重ねるごとに速くなる）
【まとめ】速読は「技術」。一生モノのスキルを身につけよう
ここまで、速読の「やり方」と「できない原因」について解説してきました。
最後に改めてお伝えしたいのは、「速読は、才能ではなく技術（スキル）である」ということです。
自転車に乗る練習を思い出してください。最初は転んでばかりで「自分には無理だ」と思ったかもしれません。でも、一度乗れるようになれば、意識しなくてもバランスを取れるようになります。速読も全く同じです。
- 脳内音読を止める（減らす）
- 眼球の動きをスムーズにする
- 視野を広げてかたまりで捉える
- 完璧主義を捨てて、反復する
このステップを焦らず実践すれば、必ず今よりも速く、そして深く本を読めるようになります。
読書スピードが2倍になれば、同じ時間で2倍の知識を得ることも、余った時間を大切な人との時間に充てることもできます。速読というスキルは、あなたの人生の時間を増やす「時間投資」そのものです。
「うまくできない」と悩んでいた時期は今日で終わりです。まずは今手元にある本を開き、指を使って、いつもより少し速いスピードでページをめくってみてください。新しい読書の世界が、そこから始まります。
コメント