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本音がわからない・本音が言えない原因は?心理メカニズムと今日からできる対策10選

窓際で本を読む人

「どうしたい?」と聞かれて、答えに詰まってしまった。

本当は嫌だったのに、笑顔で「大丈夫です」と言ってしまった。

そもそも、自分が何を感じているのか、何を望んでいるのかがわからない。

もしあなたがこんな経験に心当たりがあるなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。

「本音がわからない」「本音が言えない」という悩みは、決して珍しいものではありません。 周囲に気を配れる人、責任感の強い人、まわりの期待に応えてきた人ほど、無意識のうちに自分の気持ちを後回しにする習慣が身につき、ある日ふと「自分の本音って何だろう」と立ち止まることがあります。

この記事では、心理学の知見をもとに、次の内容をわかりやすく解説します。

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1. 「本音がわからない」と「本音が言えない」は別の悩み

悩んでいる女性

まず最初に、よく混同される2つの悩みを整理しておきましょう。同じ「本音の悩み」でも、原因や有効な対策が少し異なるためです。

本音とは?心理学的には「感情・欲求・価値観」の3つの層

一般に「本音」とは、建前に対して、取り繕わない本当の気持ちを指す言葉です。ただ、心理学的に整理すると、本音は次の3つの層から成り立っていると考えるとわかりやすくなります。

層内容例
感情その場で湧いてくる気持ち悲しい、腹が立つ、うれしい、不安だ
欲求こうしたい・こうしてほしいという願い休みたい、認めてほしい、断りたい
価値観自分にとって大切にしたいこと誠実でいたい、家族を優先したい

「本音がわからない」という悩みは、この3つのうちどれかが見えなくなっている状態です。たとえば「何も感じない」なら感情の層、「何がしたいのかわからない」なら欲求の層、「何を大切にして生きたいのかわからない」なら価値観の層で、つまずいているのかもしれません。

2つの悩み、3つのタイプ

タイプ状態主な課題
A:本音が言えない気持ちは自覚しているが、口に出せない恐れ・不安・伝え方のスキル
B:本音がわからない自分の気持ちそのものが自覚できない感情への気づき・言語化
C:両方わからないし、わかっても言えない「知る」→「伝える」を順番に

実際には、AとBが重なっているCタイプの方がとても多いです。長いあいだ「言えない」状態が続くと、気持ちを感じ取ること自体を無意識に避けるようになり、やがて「わからない」状態へ進んでいくことがあるためです。

この記事の対策も、まず「知る」(Bの対策)→次に「伝える」(Aの対策) の順番で構成しています。

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2. こんなサインはありませんか?セルフチェック

チェックリスト

次の項目のうち、当てはまるものにチェックしてみてください。診断ではなく、自分の傾向に気づくための目安として使ってください。

【チェックA】本音が「言えない」サイン

  • 頼まれごとを断ると、罪悪感や不安が強く湧く
  • 会話の中で、相手の顔色や機嫌をつい最優先で気にしてしまう
  • 「どちらでもいいよ」「なんでもいいよ」が口ぐせになっている
  • 本当は不満があるのに、笑ってやり過ごすことが多い
  • 意見を言ったあとで「言わなければよかった」と後悔しがち
  • 溜め込んだ末に、突然爆発したり、急に関係を切りたくなったりする
  • 「こんなことを言ったら迷惑かも」と考えて、相談できない

【チェックB】本音が「わからない」サイン

  • 「あなたはどうしたい?」と聞かれると、頭が真っ白になる
  • 自分の好き嫌いを、すぐに答えられない
  • うれしい・悲しいといった感情が、以前よりわかりにくくなった
  • 何かを決めるとき、「みんなはどうするか」「正解は何か」を先に探す
  • 自分の気持ちより、「こうあるべき」が先に浮かぶ
  • 理由のわからない疲れや、体のだるさ・頭痛・胃の不調が続く
  • 趣味や楽しみが何なのか、思い出せない

結果の見方

  • Aの項目が多い:気持ちは感じているが、伝えることへの恐れが強いタイプ。第4章・対策⑥〜⑩が特に役立ちます。
  • Bの項目が多い:気持ちを感じ取る回路が弱まっているタイプ。第5章・対策①〜⑤が特に役立ちます。
  • 両方多い:Cタイプ。焦らず、対策①から順番に進めてみてください。

なお、Bの項目のうち「感情がほとんど湧かない」「何を見ても楽しくない状態が2週間以上続く」といった状態は、疲労やストレス、うつ状態などが関係している可能性もあります。その場合は、第11章をご覧のうえ、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

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3. 日本で「本音が言えない」が起こりやすい社会的背景

意識・前意識・無意識・氷山

本音が言えない・わからない悩みは、個人の性格だけで説明できるものではありません。背景には、私たちが暮らす社会や文化の影響もあります。ここでは代表的な3つを紹介します。ただし、これはあくまで傾向であり、すべての日本人に当てはまるわけではない点にご注意ください。

「本音と建前」を使い分ける文化

日本では、場の調和を保つために、本心とは別に「建前」を使い分けることが、社会的なマナーとして肯定されてきた側面があります。相手を傷つけない配慮や、角を立てない工夫としては、建前は大切な知恵でもあります。

問題になるのは、建前を使い続けるうちに「本音がどこにあるのか自分でもわからなくなる」 ケースです。建前そのものが悪いのではなく、「使い分けている」感覚を失い、本音を置き去りにしてしまうことが負担につながります。

「空気を読む」「察する」ことが求められやすい

文化人類学者のエドワード・ホールは、コミュニケーションの文化を「高コンテキスト文化」と「低コンテキスト文化」に分けて論じました。高コンテキスト文化では、言葉にされない文脈や雰囲気から意図を読み取ることが重視されます。日本は一般に、この高コンテキスト寄りと言われます。

この環境では、「言わなくても察してもらえる」ことが理想とされがちです。その結果、自分から気持ちを言葉にする機会や練習が少なくなり、「言葉にしないのが当たり前」「察してくれない相手が悪い」と「察してほしいのに言えない」の間で苦しくなることがあります。

「迷惑をかけない」ことが重んじられる

精神科医の土居健郎は著書『「甘え」の構造』で、日本人の心理を理解する鍵として「甘え」という概念を挙げました。相手に受け入れてもらえることを前提に頼る感覚である一方、それが満たされにくいと、遠慮や気兼ねが強まりやすいという見方もできます。

「人に迷惑をかけてはいけない」と教えられて育った人ほど、「自分の希望を伝えること=迷惑をかけること」 と無意識に結びつけてしまい、本音を飲み込みやすくなります。


4. 本音が言えない7つの原因と心理

鏡と女性

ここからは、本音が言えない原因を7つに整理して見ていきます。自分に当てはまるものを見つけることが、対策の第一歩になります。(複数当てはまる方がほとんどです)

原因①:嫌われること・拒絶されることへの強い不安

もっとも多い原因が、「本音を言ったら嫌われるのではないか」という不安です。

人間は社会的な生き物であり、集団から排除されることは、かつて生存に直結するリスクでした。心理学者のナオミ・アイゼンバーガーらの研究では、仲間外れにされるといった社会的な痛みの処理に、身体的な痛みと重なる脳の領域が関わっていることが示唆されています。つまり、「嫌われたくない」という感覚は、弱さではなく、人間に備わった自然な反応でもあるのです。

ただし、この不安が強すぎると、「少しでも反対意見を言ったら関係が壊れる」といった極端な予測につながり、本音を一切言えなくなってしまいます。

想定ケース(読者のお悩みを元にした架空の事例です) 30代の会社員Aさんは、同僚からの頼まれごとを断れず、毎日のように残業しています。「断ったら冷たい人だと思われる」と感じており、実際に断った経験はほとんどありません。しかし、実際には同僚は「忙しければ断ってもらって構わない」と考えているかもしれません。不安の中の「予測」と、現実の相手の気持ちは、必ずしも一致しないのです。

原因②:「いい人でいなければ」という自己イメージ

「優しい人」「頼りになる人」「手のかからない人」。こうした役割を長く演じてきた人は、その役割に反する気持ち(怒り、不満、わがまま)を「出してはいけないもの」 と感じやすくなります。

とくに「いい子だったね」「あなたがいてくれて助かる」と褒められた経験が多い人ほど、「本音=いい人の枠からはみ出すもの」として、無意識に封じ込めることがあります。

原因③:過去に本音を否定された・傷ついた経験

過去に次のような経験があると、「本音を言うと嫌なことが起こる」という学習が心に残ります。

  • 子どものころ、気持ちを伝えたら怒られた、無視された、笑われた
  • 意見を言って、職場で冷たい反応をされた
  • 打ち明けた悩みを「そんなことで悩むな」と否定された
  • 本音を言ったことでケンカになり、関係が壊れた

この学習は、大人になっても無意識の「ブレーキ」として働きます。「また同じことが起こるかも」という予感が、状況が違っていても自動的に作動するのです。

不安な女性・落ち込んでいる女性

原因④:相手の反応を悪い方向に予測しすぎる(認知の歪み)

認知療法の創始者アーロン・ベックは、気分の落ち込みや不安に関わる「認知の歪み(考え方のクセ)」を整理しました。本音が言えない人には、とくに次のクセがよく見られます。

認知の歪み本音が言えないときの例
心の読みすぎ「きっと相手は不快に思う」と、確認せずに決めつける
破局視(悪い方向への飛躍)「一度断ったら、もう誘われなくなる」
全か無か思考「本音を言う=関係が終わる」と極端に考える
感情的決めつけ「怖いから、きっと危険なことだ」と感情を事実とみなす

こうした思考は、一瞬で浮かび、本人には「事実」のように感じられます。「これは考え方のクセかもしれない」と気づくだけでも、距離を取りやすくなります。

原因⑤:対立・衝突を「悪いこと」と捉えている

「ケンカはよくない」「波風を立てたくない」という価値観そのものは、決して悪いものではありません。しかし、これが強すぎると、意見の違い=対立=悪いことと結びつき、違和感や不満を一切表に出せなくなります。

実際には、意見の違いを丁寧に伝え合うことは、関係を深めるきっかけにもなります。対立を避けることで一時的な平穏は保てても、不満が蓄積すると、のちに大きな衝突や関係の断絶につながることがあります。

原因⑥:伝え方のスキルを学んだことがない

意外と見落とされがちなのが、「そもそも伝え方を学んだことがない」 という原因です。

学校や家庭で、「相手を傷つけずに、自分の気持ちを率直に伝える方法」を教わる機会は多くありません。そのため、本音を言う=「攻撃する」か「我慢する」かの二択だと思い込んでしまう人が少なくありません。

臨床心理学では、自分も相手も大切にしながら率直に伝える自己表現を「アサーション」 と呼びます。日本では、臨床心理学者の平木典子氏がアサーション・トレーニングの普及に大きく貢献してきました。アサーションは、生まれつきの才能ではなく、練習で身につくスキルです。対策⑦〜⑨で具体的な方法をご紹介します。

原因⑦:本音を言いにくい環境にいる(心理的安全性の低さ)

最後に、個人ではなく環境側に原因があるケースです。

ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、「このチームでは、意見や疑問を述べても罰せられたり、恥をかかされたりしない」という共有された信念を「心理的安全性」 と呼び、1999年の研究で、チームの学習行動との関連を示しました。

心理的安全性の低い環境、たとえば次のような場では、誰でも本音は言いにくくなります。

  • 意見を言うと否定される、嫌味を言われる職場
  • 上下関係が厳しく、意見が通らない組織
  • 感情的に怒る人がいて、顔色をうかがう家庭
  • 相手が支配的で、反論すると責められる関係(モラルハラスメントなど)

この場合、「自分が弱いから言えない」のではなく、「言えない環境だから言えない」 と捉えることが大切です。身の安全や尊厳が脅かされていると感じる場合は、本記事の対策よりも、環境から離れる・第三者に相談することを優先してください(第9章・第11章参照)。

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5. 本音がわからなくなる6つの原因

窓の外を眺める男性

次は、「言えない」ではなく「そもそも自分の本音がわからない」 状態の原因です。

原因①:感情を抑え込み続けた結果、感じ取りにくくなる

心理学者ジェームズ・グロスらは、感情の調整方法を研究し、「表出抑制(感じた感情を表に出さないようにすること)」 を日常的に多用する人は、ポジティブな感情の経験が少なく、人間関係の満足度も低い傾向があることを報告しています(Gross & John, 2003)。

感情を押し殺す習慣が長く続くと、感情を感じ取るセンサー自体が鈍くなることがあります。最初は「見ないふり」だったものが、やがて「そもそも見えない」に変わるのです。

原因②:他人軸で生きてきた

「親が喜ぶ進路」「職場で評価される行動」「友人に嫌われない選択」。このように、判断基準の中心が「他人の期待・評価」 になっていると、「自分はどうしたいか」を問う機会が減っていきます。

その結果、人に合わせることは得意でも、自分の好みや希望を聞かれると、答えを出す練習不足のために戸惑ってしまいます。

原因③:「べき思考」が欲求を上書きしている

「社会人なら〜すべき」「親なら〜すべき」「長女だから〜すべき」。こうした「べき」が強いと、「〜したい」という欲求が浮かんでも、すぐに「そんなことを思ってはいけない」と打ち消してしまいます。

打ち消しが一瞬で行われるため、本人は「そもそも何も思っていなかった」ように感じることもあります。

原因④:気持ちを言葉にする経験・語彙が少ない

感情には、「嫌だ」「つらい」だけではなく、「がっかり」「焦り」「寂しさ」「あきらめ」「引っかかり」など、無数のグラデーションがあります。しかし、感情を表す言葉の持ち合わせが少ないと、すべてが「なんかモヤモヤする」「疲れた」でひとまとめになってしまいます。

また、自分の感情を自覚し言葉にすることが難しい傾向を、心理学では「アレキシサイミア(失感情症・失感情言語化症)」 と呼びます。1970年代に精神科医のシフネオスらが提唱した概念で、一般人口の1割程度に見られるとする報告もあります。診断名ではなく「傾向」を指す概念で、程度には個人差があり、支援や練習によって気づきやすくなることもあります。

原因⑤:疲労・ストレス・心の不調

強いストレスや過労が続くと、感情や意欲が湧きにくくなることがあります。うつ状態や燃え尽き(バーンアウト)では、「何をしても楽しくない」「何も感じない」「何をしたいかわからない」といった状態が見られることがあります。

この場合、本音がわからないのは「心のクセ」だけでなく、心身のエネルギーが落ちているサインかもしれません。休養と専門家の力が必要なケースもあります(第11章参照)。

原因⑥:体験と自己イメージのズレ(自己不一致)

来談者中心療法で知られるカール・ロジャーズは、「実際の体験」と「自分はこういう人間だという自己イメージ」にズレがある状態を「自己不一致」 と呼びました。

たとえば、「私は人を恨まない優しい人間だ」という自己イメージが強いと、誰かに怒りを感じても、その感情を「自分のものではない」として認めにくくなります。ズレが大きいほど、体験(本音)は意識から締め出されやすくなります。


6. 本音を放置するとどうなる?起こりうる6つのこと

身体症状

本音が言えない・わからない状態が長く続くと、次のようなことが起こる可能性があります。これらは誰にでも必ず起こるわけではありませんが、知っておくことで、早めの対策につながります。

① 慢性的なストレスと疲労

感情を抑え続けることは、心のエネルギーを絶えず消耗させます。「何もしていないのに疲れる」「休日も気が休まらない」といった慢性的な疲労感につながることがあります。

② 心身の不調

ストレスが長引くと、頭痛、肩こり、胃腸の不調、不眠、動悸など、体の症状として現れることもあります。気持ちを言葉にできない分、体が代わりに訴えているような状態です。

③ 溜め込んだあとの「爆発」や「突然の関係断絶」

少しずつ蓄積した不満は、あるとき限界を超え、突然感情的に爆発したり、急に連絡を絶ったり、仕事や関係を投げ出したくなったりします。周囲からは「突然どうして?」と見え、本人も後悔や自己嫌悪を抱えやすくなります。

④ 人間関係の表面化・孤独感

本音を出さないと、人間関係は安全ではあるものの、浅く、表面的になりがちです。周囲に囲まれているのに、「誰にも本当の自分を知ってもらえていない」という孤独感を抱えることがあります。

⑤ 自分で決める感覚(自己決定感)の低下

「自分の意思で選んだ」という感覚が育ちにくく、人生が「流されている」ように感じやすくなります。進路・仕事・結婚など大切な決断のたびに、強い迷いや後悔につながることも。

⑥ 「利用されやすい」立場に置かれやすくなる

断らない・主張しない人は、悪意がなくても、周囲の都合に合わせる役割を担わされやすくなります。残念ながら、中には、断らないことを前提に頼ってくる人もいます。

「本音をすべて言う」ことがゴールではありません

大切な注意点があります。ここまで読んで、「じゃあ、思ったことを全部ストレートに言えばいいのか」と感じた方がいるかもしれません。それは違います。

目指すのは、「自分の本音を自分が把握していて、伝える相手・タイミング・言い方を選べる状態」です。何でも言うことと、本音を大切にすることは別のことです。建前を使うこと自体も、悪いことではありません。

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7. 本音がわからない・言えない人の対策10選

階段を上る人

ここからが本題です。対策は、次の2段階で構成しています。

  • 【知る編】対策①〜⑤:自分の本音に気づく・取り戻す
  • 【伝える編】対策⑥〜⑩:本音を安全に、少しずつ伝える

まずは「知る編」から始めるのがおすすめです。自分の本音がわからないまま「伝える」練習をしても、伝える中身がないからです。

始める前の3つの心構え

  1. 本音は「見つける」もの。最初からわからなくて当然です。 何年も蓋をしてきた気持ちは、すぐには出てきません。
  2. いきなり人に言わなくて大丈夫。 まずはノートの中や心の中で、本音を認めることから始めます。
  3. 全部でなくていい。10%でいい。 小さな一歩を積み重ねるほうが、結果的に続きます。

【知る編】本音に気づく5つの対策

対策①:「感情日記(3行ノート)」で気持ちに名前をつける

もっとも手軽で、効果が期待できる方法です。

心理学者のマシュー・リーバーマンらの研究(2007年)では、感情を言葉にする(ラベリングする)ことで、不快な感情に関わる脳の扁桃体の反応が弱まることが示されました。感情に名前をつけることには、気持ちを落ち着かせ、自分の状態を客観視しやすくする働きがあると考えられています。

やり方(1日3分)

  1. 寝る前に、その日あった出来事を1つだけ選ぶ
  2. 次の3行を書く
① 何があった?(事実):例)会議で意見を求められなかった
② どんな気持ち?(感情):例)がっかり、少しさみしい、モヤモヤ
③ 本当はどうしてほしかった?(欲求):例)一言、意見を聞いてほしかった

コツ

  • 感情は「嫌だった」だけでなく、できるだけ細かい言葉で。「がっかり」「焦り」「悔しい」「ほっとした」「引っかかる」など。
  • 間違っていてもOK。「たぶん〜かも」で十分です。
  • 書いた内容を、評価・否定しない(「こんなことで落ち込む自分はダメ」はつけない)。

感情を表す言葉が思い浮かばないときは、「感情の一覧表(感情ワード集)」をスマホに保存して眺めるのも有効です。

対策②:「体の感覚」から本音の手がかりを探る

頭では「わからない」ときでも、体は反応していることがあります。哲学者・心理学者のユージン・ジェンドリンは、はっきりした言葉になる前の、体で感じる漠然とした感覚を**「フェルトセンス」** と呼び、それに注意を向ける方法(フォーカシング)を体系化しました。

やり方(1〜2分)

  1. 静かな場所で、ゆっくり息を吐く
  2. 「今、体のどこに何を感じるか」を観察する(胸のあたりが重い、肩に力が入っている、のどが詰まる、お腹が冷たい…)
  3. その感覚に、「もし言葉をつけるなら?」と問いかける
  4. 浮かんだ言葉(「不安」「怒り」「悲しい」「疲れ」)を、そのまま受け取る

日常での活用例

  • 誰かの誘いを受けたとき、「胸が軽くなるか、重くなるか」 を確かめる
  • 返事をする前に、一呼吸おいて体の反応を見る

体の反応は、頭の「べき」よりも正直なことがあります。

ヨガ

対策③:「べき」を「たい」に翻訳する

「べき思考」の強い人には、「〜すべき」を「〜したい/したくない」に翻訳する練習が有効です。

「べき」の声翻訳してみる
頼まれたら引き受けるべき私は、本当は引き受けたい?たくない?
親には感謝すべき私は、感謝したい気持ちもあるけれど、疲れている気持ちもある
怒ってはいけない私は今、怒っている。それは「大切にされたい」から

ポイント:「べき」を消そうとするのではなく、「べき」の裏にある「本当の気持ち」を見つけにいくイメージです。「べき」の裏側には、多くの場合、「たい/たくない」「怖い」「わかってほしい」といった切実な本音が隠れています。

対策④:「制約を外す質問」で欲求を引き出す

「どうしたい?」という質問に答えにくいときは、「条件を外す」質問に変えてみましょう。現実的な制約(お金、時間、相手の都合、世間体)を外すと、本音が出やすくなります。

使える質問リスト

  • もし、誰にも気を遣わなくていいとしたら、何をしたい?
  • もし、失敗しても大丈夫だとしたら、どうする?
  • もし、1週間まるごと自由に使えるとしたら?
  • もし、お金の心配がなかったら?
  • 5年後の自分から、今の自分にアドバイスがあるとしたら?
  • 今の状況で、「これだけは嫌だ」 と思うことは何?

最後の質問は特におすすめです。「やりたいこと」より「嫌なこと」のほうが見つけやすい人が多いためです。「嫌なこと」から消去法で、本音の輪郭が見えてきます。

対策⑤:小さな選択を「自分で決める」練習を積む

本音を取り戻すには、日常の小さな選択で「自分の希望」を使う練習が欠かせません。

今日からできる例

  • ランチのメニューを、「みんなと同じ」ではなく「食べたいもの」で選ぶ
  • 「どれでもいい」と言いそうになったら、3秒だけ考えて、どちらかを選ぶ
  • 休日の予定を、「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」から先に1つ入れる
  • 着る服、飲み物、BGMなど、誰にも影響しない選択から始める

最初は「選べない」「どっちでもいい」が出てきても、問題ありません。 「どちらかというと、こっち」でも立派な本音です。この小さな積み重ねが、「自分の好みがわかる」→「希望を伝えられる」という土台になります。

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【伝える編】本音を安全に伝える5つの対策

対策⑥:「100%」ではなく「10%の本音」から伝える

本音を言う=「全部をぶちまける」ではありません。まず10%、ほんの少しだけ伝えるところから始めます。

10%の本音の例

いつもの返事10%の本音を足した返事
「大丈夫です」「大丈夫です。ただ、少し疲れ気味で」
「どこでもいいよ」「どこでもいいけど、強いて言えば和食かな」
「いいよ」「いいよ。今日はちょっと早めに帰りたいんだけど、それでもよければ」
「特にないです」「まだまとまっていないんですが、少し気になる点があります」

「0か100か」ではなく、1%、5%、10%と少しずつ増やすことで、「本音を言っても大丈夫だった」という成功体験が積み重なります。この成功体験が、先ほど見た「過去の学習(本音を言うと嫌なことが起こる)」を、少しずつ書き換えていきます。

対策⑦:「Iメッセージ」で、責めずに気持ちを伝える

本音を伝えるときに有効なのが、「私(I)」を主語にして伝える方法です。心理学者トマス・ゴードンが提唱した「Iメッセージ」として知られています。

タイプ例受け取る側の印象
Youメッセージ(あなたが主語)「あなたはいつも遅い」責められた、と感じて防衛的になりやすい
Iメッセージ(私が主語)「遅れると、私は心配になるんだ」相手の行動より、自分の気持ちが伝わる

基本の型

「(事実)のとき、私は(気持ち)になる。だから(お願い)してもらえると助かる」

例

  • 「返信がないと、私は少し不安になる。だから、一言だけでも連絡をもらえると安心できるな」
  • 「急な依頼が重なると、私は焦ってしまう。可能なら、前日までに声をかけてもらえると助かります」

相手を変えようとするのではなく、自分の気持ちと希望を「情報として共有する」 イメージです。

対策⑧:「クッション言葉」と「保留」で、言いやすくする

その場ですぐに答えられなくても、問題ありません。「保留する」ことも、立派な自己表現です。

保留のフレーズ

  • 「少し考えさせてください。明日の午前までにお返事します」
  • 「今すぐには答えられないので、持ち帰ってもいいですか?」
  • 「自分の予定を確認してから、改めて連絡します」

クッション言葉の例

  • 「せっかくのお誘いなのですが、…」
  • 「お力になりたいのですが、…」
  • 「もしよければ、少しだけ私の意見を言ってもいいですか?」
  • 「うまく言えないかもしれませんが、…」

クッション言葉は、本音を薄めるのではなく、本音を相手に届きやすくする「包み紙」 です。「断る」「反対する」場面でも、相手への敬意を示しつつ、率直に伝えられます。

対策⑨:「DESC法」で、言いにくい本音を整理して伝える

職場など、少し言いにくい内容を伝えたいときは、アサーションの代表的な技法であるDESC(デスク)法が役に立ちます。

ステップ内容例(業務量が多すぎるとき)
D(Describe)描写する客観的な事実を述べる「今週は、A案件とB案件の締切が重なっています」
E(Express)表現する自分の気持ち・状況を伝える「すべてを期限内に仕上げるのは、難しいと感じています」
S(Specify)提案する具体的なお願い・提案をする「B案件の締切を2日延ばしてもらうか、他の人にサポートをお願いできないでしょうか」
C(Choose)選択する相手の返事に応じた選択肢を考える「難しければ、A案件を優先して進めます」

DESC法のポイントは、感情的になりすぎず、事実と提案を中心に伝えることです。本音を伝えることに慣れていない人にとって、「型」があるだけで、ぐっと言いやすくなります。

対策⑩:「安全な人」「安全な場所」で、先に壁打ちする

いきなり利害関係のある相手(上司・パートナー・親)に本音を言うのはハードルが高いものです。まず、利害関係のない「安全な相手」で、本音を言葉にする練習をしましょう。

安全な相手・場所の例

  • 信頼できる友人(聞いてくれる・否定しない人)
  • 家族のうち、受け止めてくれる人
  • カウンセラー・心理士などの専門家
  • 同じ悩みをもつ人のコミュニティ・自助グループ
  • 日記やメモ(誰にも見せなくてよい「紙の壁打ち」)

相談のコツ

  • はじめに「アドバイスはいらなくて、ただ聞いてほしい」と伝える
  • 「うまくまとまってないんだけど」と前置きして、まとまっていなくていいことを共有する

安全な場で「本音を言っても大丈夫だった」という体験を重ねることが、より難しい場面での勇気の土台になります。専門家への相談は、第11章で詳しくご紹介します。


10の対策の早見表

#対策目的所要時間難易度
①感情日記(3行ノート)感情に名前をつける3分/日★☆☆
②体の感覚に注目する言葉になる前の本音を探る1〜2分★☆☆
③「べき」を「たい」に翻訳欲求を取り戻す随時★★☆
④制約を外す質問本当の希望を引き出す5分★☆☆
⑤小さな選択の練習自己決定感を育てる随時★☆☆
⑥10%の本音から伝える成功体験をつくる随時★★☆
⑦Iメッセージ責めずに伝える随時★★☆
⑧クッション言葉と保留即答のプレッシャーを減らす随時★☆☆
⑨DESC法言いにくい内容を整理して伝える準備5〜10分★★★
⑩安全な人で壁打ち本音を言う安心感を育てる随時★★☆
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8. シーン別|本音の伝え方と言い換え例

職場・恋愛・家族

同じ「本音を伝える」でも、相手や状況によって、適した伝え方は変わります。ここでは4つのシーンで、実際に使いやすい言い換え例をご紹介します。

職場で本音を言いたいとき(上司・同僚・部下)

職場では、「角を立てない」と「伝えるべきことを伝える」のバランスが難しいものです。なお、接客業など、自分の感情を職務として管理することが求められる仕事を、社会学者アーリー・ホックシールドは「感情労働」 と呼びました。感情をコントロールし続ける仕事ほど、本音との距離が開きやすいことは知っておきたいポイントです。

場面言いにくい本音言い換え例
仕事を頼まれ、手一杯「無理です」「現在A案件で手一杯なので、お引き受けする場合は、どちらかの期限を調整させていただけますか?」
上司の方針に疑問「それは違うと思います」「一点だけ確認させてください。私の理解では〜なのですが、懸念している点があります」
残業を断りたい「帰りたいです」「本日は〇時に退社する予定でして。明日の午前中であれば対応できます」
ミスを指摘したい「ミスですよ」「念のため確認なのですが、この数字は〜で合っていますか?」
体調がすぐれない「大丈夫です(実は限界)」「少し疲れがたまっているようで。今週は業務の優先順位を一緒に整理させてもらえませんか?」

ポイント:職場では、「感情」よりも「事実+提案」 を中心にすると、本音が伝わりやすくなります(DESC法が有効です)。

恋愛・パートナーに本音を言いたいとき

親密な関係ほど、「嫌われたくない」「重いと思われたくない」という気持ちが強くなり、本音を飲み込みやすくなります。しかし、本音を伝え合えない関係は、長い目で見るとすれ違いや我慢の積み重ねになりがちです。

場面言いにくい本音言い換え例
寂しい「もっと会いたい」「最近会えてなくて、ちょっと寂しいなと思ってた。今度の週末、少しでも会えたらうれしいな」
不満がある「いつも約束を守らない」「約束の時間に遅れると、私は不安になるんだ。遅れそうなときは、一言連絡もらえると助かる」
予定を断りたい「行きたくない」「誘ってくれてありがとう。今週は少し疲れていて、家でゆっくりしたいんだ。来週なら行けるよ」
気持ちの温度差「私のこと、ちゃんと好き?」「最近、気持ちが少し見えなくて不安になることがある。あなたは今、どう感じてる?」

ポイント:「責める」より「私はこう感じている」を主語に。そして、相手にも気持ちを聞くことで、一方的な主張にならず、対話になります。

家族(親・義家族)に本音を言いたいとき

家族は、「言わなくてもわかるはず」「迷惑をかけたくない」「親不孝だと思われたくない」 といった、特別な感情が絡みやすい関係です。

場面言いにくい本音言い換え例
干渉がつらい「口出ししないで」「心配してくれているのはわかってる。ただ、この件は自分で決めたいと思っているんだ」
帰省がしんどい「行きたくない」「会いたい気持ちはあるんだけど、今回は仕事が立て込んでいて。日帰りで寄る形でもいいかな?」
義実家との付き合い「正直、負担です」「お気遣いありがとうございます。実は、日程が重なると私が疲れてしまうので、年に〇回くらいに調整できると助かります」
親の期待への違和感「期待に応えられない」「期待してくれていることは感じてる。でも、私は〜という道を選びたいと思っているんだ」

ポイント:家族には、「感謝・理解」→「自分の気持ち」→「お願い」の順番で伝えると、受け取ってもらいやすくなります。ただし、相手が受け入れてくれなくても、「伝えた」こと自体に意味がある場合もあります。

友人・ママ友に本音を言いたいとき

友人関係では、「関係を壊したくない」気持ちから、不満や違和感を飲み込み続けた結果、突然距離を置くパターンが起きやすいです。

場面言いにくい本音言い換え例
誘いを断りたい「行きたくない」「誘ってくれてうれしい!今回は都合がつかないんだけど、また誘ってね」
お金の貸し借り「貸したくない」「ごめん、お金の貸し借りは、友達とはしないようにしているんだ」
グチが多くてつらい「聞き疲れた」「話を聞くのは全然いいんだけど、今日は私も少し余裕がなくて。また今度、ゆっくり聞かせてもらってもいい?」
LINEの頻度「すぐ返せない」「返信が遅れることもあるけど、無視してるわけじゃないから気にしないでね」

9. うまくいかないときの考え方と、環境を変える選択肢

歩く女性

対策を試しても、うまくいかない日もあります。ここでは、つまずいたときの考え方と、環境側に問題がある場合の選択肢をお伝えします。

相手が不機嫌になった・否定された場合

勇気を出して本音を伝えたのに、相手が嫌な顔をした、否定された。そんなときは、「やっぱり言わなければよかった」と思いがちです。しかし、次の2点を思い出してください。

1. 相手の反応は、相手の感情・事情による部分も大きい

あなたの伝え方に配慮があったとしても、相手が受け止められないことはあります。アドラー心理学で知られる「課題の分離」の考え方では、相手がどう受け止めるかは、相手の課題です。あなたが責任を負いすぎる必要はありません。

2. 伝えたこと自体が、一歩前進

反応が悪かったとしても、「本音を伝えられた」という事実は、あなたにとって大きな一歩です。結果ではなく、プロセスを評価することが、継続のコツです。

伝え方を見直すポイント

もちろん、伝え方に改善の余地がある場合もあります。次の点を振り返ってみましょう。

  • 感情的になっているときに伝えていなかったか(タイミング)
  • 他の人がいる前で伝えていなかったか(場所)
  • 相手を責める言い方(Youメッセージ)になっていなかったか(言い方)
  • 一度に多くのことを伝えすぎなかったか(量)

「もう少し、こうしてみよう」と調整することで、次回の結果が変わることがあります。

「本音を言えない環境」からの距離の取り方

どれだけ工夫しても、本音を言うことが危険だったり、そのたびに否定・攻撃されたりする環境があります。そうした場合は、「伝え方を磨く」よりも「環境を調整する」ほうが優先です。

選択肢の例

  • 物理的・心理的な距離をとる:連絡頻度を減らす、会う回数を調整する
  • 第三者に入ってもらう:上司の上長、人事・相談窓口、家族・友人など
  • 配置転換・部署異動を相談する:職場の産業医・人事への相談
  • 転職・転居を視野に入れる:選択肢として持っておくだけでも、心理的な余裕が生まれる
  • 専門機関に相談する:カウンセラー、公的な相談窓口(第11章)

こんなときは、安全を最優先にしてください

次のような関係・環境にいる場合は、本音を伝える練習よりも、自分の安全を守ることが最優先です。

  • 暴力を振るわれた、あるいは振るわれそうで怖い
  • 日常的に怒鳴られる・人格を否定される・行動を監視される
  • 反論すると、無視される・脅される・責められる
  • 「自分が悪い」と思い込まされている感覚がある

これらは、ドメスティック・バイオレンス(DV)やモラルハラスメント、パワーハラスメントなどに当てはまる可能性があります。一人で抱え込まず、お住まいの地域の配偶者暴力相談支援センター、警察の相談窓口、職場のハラスメント相談窓口、各種の公的相談窓口などに相談してください(最新の連絡先は各公式サイトでご確認ください)。

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10. 相手の本音がわからないときは?

悩んでいる男性

検索される方の中には、「自分の本音」ではなく、「相手の本音がわからない」ことで悩んでいる方もいらっしゃると思います。ここでは簡単に、考え方のポイントをお伝えします。

前提:人の本音は、読み取れないことのほうが多い

どれだけ観察しても、相手の頭の中を正確に読むことはできません。「相手の本音がわからない」と悩む状態は、実は「心の読みすぎ」(認知の歪み)の入り口になっていることもあります。

本音に近づく3つのヒント

1. 言葉より「行動」を見る 言葉は建前でも、行動(時間の使い方、継続性、優先順位) には本音が表れやすいと言われます。ただし、行動も一つの手がかりに過ぎず、決めつけは禁物です。

2. 「確認する」質問をする 推測で悩むより、シンプルに聞くのが近道です。

  • 「今の話、どう感じた?」(オープンクエスチョン)
  • 「もし違っていたらごめんね。〜だと感じているのかなと思って」
  • 「私に遠慮していることはない?」

3. 本音を話しやすい「場」をつくる 相手が本音を言えないのは、あなたとの間に「言いにくさ」があるからかもしれません。

  • 話を最後まで聞き、すぐに否定・解決しようとしない
  • 先に自分の本音を少し開示する(自己開示は、相手の自己開示を促しやすいとされています)
  • 「何を言っても大丈夫」という雰囲気を意識する

相手の本音がわからないときの近道は、自分が先に「本音を話しやすい人」になることかもしれません。


11. 専門家に相談したほうがいいサインと相談先

カウンセリング

セルフケアで改善することも多い一方で、一人で頑張りすぎないことも、同じくらい大切です。次のような場合は、専門家への相談を検討してください。

相談を検討したいサイン

  • 気分の落ち込み、何をしても楽しめない状態が2週間以上続いている
  • 眠れない、食欲がない、体が重いなど、睡眠・食事・体調に変化がある
  • 仕事・学業・家事など、日常生活に支障が出ている
  • 感情が急に爆発してしまい、自分でコントロールできない
  • 自分の感情がほとんど感じられず、現実感が薄い感覚がある
  • 過去のつらい出来事が頭から離れない・突然よみがえる
  • 「消えてしまいたい」「死にたい」といった考えが浮かぶ

主な相談先

相談先特徴・向いているケース
心療内科・精神科眠れない、気分の落ち込みが続くなど、医学的な評価・治療が必要かもしれないとき
カウンセリング(公認心理師・臨床心理士)本音がわからない、人間関係のパターンを整理したい、じっくり話を聞いてほしいとき
職場の産業医・保健師・EAP(従業員支援プログラム)職場のストレスが原因のとき。会社に制度がある場合も
精神保健福祉センター・保健所公的な相談窓口。費用の心配があるとき、どこに相談してよいかわからないとき
厚生労働省「まもろうよこころ」などの情報サイト相談窓口の一覧を探したいとき
電話・SNS相談(よりそいホットライン、いのちの電話など)夜間・休日など、今すぐ誰かに話を聞いてほしいとき

カウンセリングは「重症の人だけが行くところ」ではない

「カウンセリングに行くほどではない」と感じる方は多いですが、「自分の気持ちがわからない」「本音が言えない」という悩みは、まさにカウンセリングで扱いやすいテーマの一つです。

カウンセリングでは、評価や否定をされることなく、自分の気持ちを言葉にしていく練習ができます。「本音を言っても大丈夫だった」という体験を、安全な環境でできることが大きな価値です。

相談先を選ぶときのポイント

  • 資格・経歴が明記されているか(公認心理師、臨床心理士など)
  • 料金・時間・キャンセル規定が事前に示されているか
  • 相性を大切に。合わないと感じたら、変えてもよい
  • 初回は「お試し」のつもりでOK。無理に続ける必要はありません
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12. よくある質問(FAQ)

質問・疑問

Q1. 本音がわからないのは、病気ですか?

A. 必ずしも病気とは限りません。 感情を抑える習慣、他人軸の生き方、疲労やストレスなどが原因で、一時的に自分の気持ちが見えにくくなることは、多くの人に起こります。

ただし、気分の落ち込みや意欲の低下、不眠・食欲不振などが2週間以上続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、うつ状態など別の要因が関わっている可能性もあります。その場合は、心療内科・精神科などの専門機関にご相談ください。

Q2. 本音を言うと嫌われそうで怖いです。どうすればいいですか?

A. 「怖い」と感じるのは自然なことです。 無理に怖さを消そうとせず、「怖いけれど、10%だけ伝えてみる」ことから始めてみてください(対策⑥)。

また、「嫌われるかもしれない」という予測は、認知の歪み(心の読みすぎ・破局視)の可能性もあります。実際に伝えてみたら、相手が意外と受け止めてくれたというケースは少なくありません。まずは、安全な相手(信頼できる友人やカウンセラー)から練習するのがおすすめです。

Q3. 「本音と建前」を使い分けるのは、悪いことですか?

A. 悪いことではありません。 場面に応じた配慮や礼儀として、建前は社会生活に必要な側面もあります。

大切なのは、「建前を使っている」と自分で気づいていることです。本音を自覚したうえで、あえて伝えないのと、本音がわからないまま合わせ続けるのとでは、心の負担が大きく異なります。

Q4. 大人になってからでも、本音を言えるようになりますか?

A. なれます。 本音を感じ取る力や、伝えるスキル(アサーションなど)は、年齢に関係なく練習で身につけられるものです。

時間はかかるかもしれませんが、日常の小さな場面で少しずつ練習を重ねることで、「前よりも自分の気持ちがわかる」「前よりも言いやすくなった」と感じる人は少なくありません。

Q5. 本音を伝えたら、相手が怒ってしまいました。失敗でしょうか?

A. 失敗とは限りません。 相手が怒る背景には、相手自身の事情や、これまで「あなたが本音を言わないこと」に慣れていたことなどもあります。

まずは、伝え方(タイミング・言い方・場所)に改善点がなかったかを振り返りつつ、「伝えられた自分」を認めてあげてください。繰り返し攻撃される、人格を否定されるような場合は、関係そのものを見直すことも検討しましょう(第9章)。

Q6. 本音が言えない性格は、生まれつきですか?

A. 気質(生まれつきの傾向)も影響しますが、多くは環境や経験によって育まれた「習慣」の側面が大きいと考えられています。 たとえば、慎重で感受性の強い気質の人が、本音を受け止めてもらえない環境で育つと、本音を言わない習慣が強まりやすくなります。

習慣であるならば、新しい経験を重ねることで、少しずつ変えていくことができます。

Q7. 本音を知るのに、どのくらい時間がかかりますか?

A. 個人差が大きく、一概には言えません。 感情日記などを続けて、数週間〜数か月で「以前よりも気持ちがわかるようになった」と感じる方もいれば、長い期間をかけて少しずつ変化する方もいます。

大切なのは、期間ではなく、「昨日より少し自分の気持ちに気づけた」という小さな変化に目を向けることです。

カフェ・窓ぎわ

13. まとめ|本音は「見つけて、少しずつ伝える」でいい

ここまで、本音がわからない・言えない原因と心理、そして対策を詳しく見てきました。最後に、この記事の内容をまとめます。

この記事のまとめ

  • 「本音が言えない」と「本音がわからない」は別の悩みであり、両方が重なるタイプも多い。
  • 本音が言えない主な原因は、嫌われる不安、いい人でいなければという思い込み、過去の経験、認知の歪み、対立への恐れ、伝え方のスキル不足、心理的安全性の低い環境の7つ。
  • 本音がわからなくなる主な原因は、感情の抑え込み、他人軸、べき思考、言語化の経験不足、疲労・ストレス、自己不一致の6つ。
  • 放置すると、慢性的なストレス、心身の不調、突然の爆発、孤独感などにつながることがある。ただし、本音を全部言うことがゴールではない。
  • 対策は、【知る】感情日記、体の感覚、「べき」の翻訳、制約を外す質問、小さな選択 → 【伝える】10%の本音、Iメッセージ、クッション言葉と保留、DESC法、安全な人での壁打ちの順で。
  • 環境が危険な場合や、つらさが続く場合は、一人で抱えず、専門家・公的窓口に相談する。

今日からできる「最初の一歩」

ここまで読んで、「やることが多くて大変そう」と感じた方もいるかもしれません。大丈夫です。全部やる必要はありません。 今日は、次の3つのうち、どれか1つだけ選んでみてください。

  1. 今夜、感情日記を3行だけ書く(対策①)
  2. 今日のランチを、「食べたいもの」で選ぶ(対策⑤)
  3. 「大丈夫です」と言いそうになったら、10%だけ本音を足してみる(対策⑥)

本音がわからない、言えないという悩みは、あなたがこれまで、周りの人を大切にし、場の空気を守ってきた証でもあります。その優しさや気配りは、これからも大切な強みです。

そこに、「自分の気持ちも大切にする」という視点を、少しずつ加えていきましょう。あなたの本音は、あなたが思っているよりも、ずっと価値のあるものです。


14. 参考文献

【論文】

  • Eisenberger, N. I., Lieberman, M. D., & Williams, K. D. (2003). Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302(5643), 290–292.
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
  • Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348–362.
  • Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428.
  • Sifneos, P. E. (1973). The prevalence of “alexithymic” characteristics in psychosomatic patients. Psychotherapy and Psychosomatics, 22(2–6), 255–262.

【書籍】

  • Beck, A. T. (1976). Cognitive Therapy and the Emotional Disorders. International Universities Press.
  • Gendlin, E. T. (1978). Focusing. Everest House.
  • Gordon, T. (1970). Parent Effectiveness Training. Peter H. Wyden.
  • Hall, E. T. (1976). Beyond Culture. Anchor Press.
  • Hochschild, A. R. (1983). The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. University of California Press.
  • Rogers, C. R. (1951). Client-Centered Therapy. Houghton Mifflin.
  • 土居健郎(1971)『「甘え」の構造』弘文堂
  • 平木典子『アサーション・トレーニング―さわやかな〈自己表現〉のために』(日本・精神技術研究所/金子書房)

【公的情報(最新の連絡先・窓口は公式サイトでご確認ください)】

  • 厚生労働省「まもろうよこころ」
  • 一般社団法人社会的包摂サポートセンター「よりそいホットライン」
  • 一般社団法人日本いのちの電話連盟「いのちの電話」

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