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犯罪被害者家族の心理とは?トラウマの実態と回復に向けた支援を徹底解説

被害者家族

ある日突然、家族が犯罪の被害に遭う——。それは決して他人事ではありません。警察庁も、国民の誰もが犯罪被害者やその家族になり得る社会であると指摘しています。犯罪の直接的な被害を受けるのは本人だけではなく、その配偶者や子ども、親、きょうだいといった家族もまた、深い心理的ダメージを受けます。

しかし、犯罪被害者家族が抱える心理は、当事者以外には非常に理解されにくいという現実があります。「もう何年も経ったのだから元気になっているはず」「家族が亡くなったわけではないのだから」といった周囲の何気ない言葉が、当事者をさらに追い詰めてしまうことも少なくありません。

実際、警察庁が公表する犯罪被害者等基本法の前文でも、犯罪等を抑止し安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を負う私たちもまた、犯罪被害者等の声に耳を傾けなければならないと明記されています。それほどまでに、犯罪被害者やその家族への理解と配慮は、社会全体で取り組むべき課題として位置づけられているのです。

この記事では、犯罪被害者家族が経験する心理的影響のメカニズムから、二次被害の実態、家族関係や生活への影響、回復に向けたプロセス、そして公的・民間の支援制度までを、警察庁・内閣府・法テラス・厚生労働省など公的機関が公表する資料を踏まえて体系的に整理しました。ご自身やご家族、あるいは身近な人が犯罪被害に遭われた方、支援に携わる立場の方にとって、正しい理解の一助となれば幸いです。

なお、犯罪被害者家族が経験する心の反応は、人によって、また事件の内容によって大きく異なります。この記事で紹介する内容はあくまで一般的な傾向であり、「こうあるべき」という基準を示すものではないことを、あらかじめお断りしておきます。

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1. 犯罪被害者家族とは — 定義と対象範囲

スマートフォンに映る家族

「犯罪被害者家族」という言葉は日常的に使われますが、法律上も明確に位置づけられています。2004年に成立した犯罪被害者等基本法では、「犯罪被害者等」を「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」と定義しています。ここでいう「犯罪等」とは、刑法上の犯罪だけでなく、それに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為全般を含む、幅広い概念です。

つまり、殺人や傷害、性犯罪、交通犯罪、詐欺、DVやストーカー行為など、あらゆる犯罪被害の当事者本人だけでなく、その配偶者、子ども、親、きょうだいといった家族もまた、法律上「犯罪被害者等」として保護・支援の対象になるということです。

家族が被害者になるパターンは大きく分けて次のように整理できます。

  • 本人が死亡・行方不明になったケース:遺族として、喪失そのものと向き合わなければならない
  • 本人が重傷を負ったケース:介護や看病をしながら、加害者への感情や生活の激変に対処しなければならない
  • 本人が性犯罪や虐待の被害者であるケース:家族自身も強い衝撃を受けながら、本人を支える役割を求められる
  • 家族自身が事件の目撃者・第一発見者であるケース:目撃による強い心理的衝撃(代理受傷)を負う

このように「犯罪被害者家族」とひとくくりにしても、置かれた状況はさまざまです。心理的な反応や必要な支援も、事件の性質や家族内での立場によって大きく異なることを、まず押さえておく必要があります。

1-1 加害者が家族の一員である場合の複雑さ

見過ごされがちですが、DVや児童虐待、高齢者虐待のように、加害者そのものが家族の一員であるケースも数多くあります。この場合、被害者を支えたいという気持ちと、加害者もまた家族であるという事実の間で、他の家族が引き裂かれるような葛藤を抱えることがあります。「加害者を訴えることは家族を壊すことになるのではないか」という迷いから、周囲に助けを求めること自体をためらってしまう方もいます。このようなケースでは、被害者本人だけでなく、家族全体を視野に入れた支援が特に重要になります。

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2. 犯罪が家族に与える心理的影響

悲しむ人

2-1 急性ストレス反応 — 事件直後に起こること

事件の発生直後、多くの家族は強い衝撃(ショック)状態に陥ります。現実感が失われる「離人感」、頭が真っ白になる、逆に妙に冷静に事務的な対応をこなせてしまうなど、反応は人によってさまざまです。これは異常な出来事に対する正常な防衛反応であり、決して「弱さ」や「異常」を意味するものではありません。

この時期には、動悸・不眠・食欲不振・過呼吸といった身体症状が現れることも珍しくありません。強いストレスにさらされた直後の心身の反応は「急性ストレス反応」と呼ばれ、多くの場合は時間の経過とともに徐々に落ち着いていきます。

2-2 PTSD(心的外傷後ストレス障害)

事件から1か月以上経っても、次のような症状が強く続く場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の状態にあると考えられます。

  • 侵入症状:事件の場面が繰り返しフラッシュバックする、悪夢を見る
  • 回避症状:事件を思い出させる場所・人・話題を避けるようになる
  • 認知と気分の陰性の変化:自分や周囲を責め続ける、感情が麻痺したように感じる、楽しみを感じられなくなる
  • 過覚醒症状:些細な物音に過敏に反応する、常に警戒心が抜けない、集中力が続かない

重要なのは、PTSDは被害を直接受けた本人だけでなく、事件の詳細を知った家族や、遺体・現場を目撃した家族にも起こり得るという点です。これは「代理受傷(二次的外傷性ストレス)」と呼ばれ、身近な人の悲惨な体験に触れ続けることで、支える側もまた傷つくという現象です。

2-3 複雑性悲嘆と「あいまいな喪失」

家族が亡くなった、あるいは行方不明になったケースでは、通常の悲嘆(グリーフ)よりも回復が長引きやすい「複雑性悲嘆」と呼ばれる状態に陥ることがあります。事件・事故による突然の死は、病気による看取りとは異なり、心の準備ができないまま大切な人を失うため、喪失を受け入れるプロセスそのものが困難になりやすいのです。

特に行方不明のまま消息がわからないケースでは、家族社会学者ポーリン・ボスが提唱した「あいまいな喪失(ambiguous loss)」という概念が当てはまります。これは、死亡が確認されないために「終わり」を迎えられず、希望と絶望のあいだで宙づりの状態が続く心理状態を指します。葬儀や法要といった区切りの儀式を行えないことも、心理的な整理を難しくする要因になります。

2-4 罪悪感・自責の念

犯罪被害者家族の心理の中でも特徴的なのが、強い罪悪感です。「あのとき一緒にいれば」「もっと注意していれば」「なぜ自分ではなく家族が被害に遭ったのか」といった自責の念にさいなまれる方は少なくありません。

論理的には防ぎようがなかった事件であっても、人は出来事に意味や因果関係を見出そうとする心理的傾向を持っています。その結果、本来責任を負うべきではない家族が、自分自身を責め続けてしまうのです。この罪悪感は、後述する「二次被害」によってさらに強化されてしまうことがあります。

2-5 怒り・不公平感・無力感

「なぜ自分の家族がこんな目に遭わなければならないのか」という強い怒りや不公平感も、典型的な反応の一つです。この怒りは、加害者に向かうこともあれば、警察や司法制度、社会全体、時には支えてくれている周囲の人に向かってしまうこともあります。

また、事件を防げなかった、被害の拡大を止められなかったという無力感は、自己肯定感の低下につながることもあります。これらの感情は、決して「性格の問題」ではなく、理不尽な出来事に対する自然な心理的反応であるという理解が重要です。

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3. 二次被害 — 家族を追い詰めるもうひとつの被害

暴言から守る人

3-1 二次被害とは何か

犯罪被害者家族の心理を理解するうえで欠かせないのが「二次被害」という概念です。二次被害とは、事件そのものによる直接的な被害(一次被害)とは別に、事件後の周囲の対応によって生じる新たな精神的苦痛を指します。全国被害者支援ネットワークをはじめとする被害者支援団体では、多くの被害者・遺族がこの二次被害に苦しんでいると指摘されています。

二次被害の原因は一つではなく、次のように複数の要因が重なり合って生じます。

  • 捜査・司法・医療機関での対応(事情聴取の繰り返し、配慮に欠けた態度)
  • マスコミの過熱した取材・報道、実名報道
  • SNS上での憶測や誹謗中傷
  • 近隣や職場、学校での噂話や好奇の目
  • 周囲からの心ない言葉

これらに共通しているのは、被害者・家族の「人間としての尊厳」を傷つける関わり方になってしまっているという点です。悪意がなくても二次被害は起こり得るというのが、この問題の難しさでもあります。

3-2 周囲の心ない言葉

善意のつもりで発した言葉が、当事者を深く傷つけてしまうことがあります。例えば「早く忘れて元気を出して」「まだくよくよしているの」「他の家族は無事だったのだから良かったじゃない」といった言葉は、励ましのつもりであっても、当事者にとっては自分の悲しみを否定されたように感じられることがあります。

大切なのは、こうした言葉を発した人を責めることではなく、「悲しみに正解の期限はない」「本人にしかわからない痛みがある」という前提を、周囲があらかじめ知っておくことです。

3-3 マスコミ・SNSでの誹謗中傷

重大事件になるほど、マスコミの取材や報道が過熱しやすくなります。自宅への取材、SNSでの実名や住所の拡散、事実と異なる憶測に基づく投稿などにより、家族はプライバシーを奪われ、社会から好奇の目にさらされることになります。一度インターネット上に広まった誤情報は、たとえ後から訂正されても完全には消えず、長期間にわたって当事者を苦しめ続けることもあります。

3-4 捜査・裁判手続きにおける負担

事件の解決のためには、被害者や家族が何度も同じ被害状況を説明しなければならない場面があります。これは捜査上必要な手続きですが、そのたびに被害の記憶を呼び起こすことになり、心理的な負担が積み重なっていきます。また、裁判が長期化する場合、判決が出るまで気持ちの整理がつかない状態が何年も続くこともあります。

3-5 「世界公正仮説」とスティグマ

なぜ、悪意のない人までもが被害者家族を傷つける言動をとってしまうのでしょうか。その背景には、社会心理学でいう「公正世界仮説(世界公正仮説)」が関係していると考えられています。これは「世界は基本的に公正であり、良い行いをする人には良いことが、悪い行いをする人には悪いことが起こる」と信じたい心理的傾向のことです。

この仮説に基づくと、人は「自分がその立場になるはずがない」と思いたいがゆえに、無意識のうちに被害者側に何らかの落ち度を探してしまうことがあります。「隙があったのでは」「もっと注意していれば」といった見方は、被害者や家族をさらに傷つけるスティグマ(偏見の烙印)を生み出す要因になります。この心理メカニズムを社会全体が理解することが、二次被害を減らす第一歩になります。

3-6 家族間で二次被害が生じることもある

見落とされがちですが、二次被害は外部からだけでなく、家族という最も身近な関係の中でも起こり得ます。悲しみの表現方法の違いから、「なぜあなたは平気そうにしていられるのか」「もっと悲しむべきではないか」といった言葉が、家族間で交わされてしまうことがあります。事件をめぐる家族間の不和や、誰かに責任を求めようとする心理が、家庭内の関係悪化や、最悪の場合は家庭崩壊につながる事例も報告されています。家族だからこそ、悲嘆の表れ方に違いがあって当然だという理解が必要です。

4. 心理的影響の時間的経過

悩む男性

犯罪被害者家族の心理は、一つの状態にとどまるわけではなく、時間の経過とともに変化していきます。あくまで一般的な傾向であり、個人差が大きいことを前提に整理すると、次のような段階が見られます。

4-1 急性期(事件直後〜数週間)

強いショック状態、現実感の喪失、身体症状が中心となる時期です。この段階では、複雑な意思決定(裁判への対応、報道対応など)を求められることが多く、心理的な負担と実務的な負担が同時にのしかかります。

4-2 中期(数か月〜1年程度)

周囲の関心が薄れていく一方で、当事者自身の心理的な混乱はむしろ深まることがある時期です。「時間が経てば楽になる」という周囲の期待と、実際の当事者の心理状態にギャップが生じやすく、孤立感が強まりやすいのもこの時期の特徴です。命日や裁判の節目など、特定の日に症状が強く現れる「記念日反応」もこの時期以降によく見られます。

4-3 慢性期・長期化するケース

多くの人は少しずつ日常を取り戻していきますが、一部の方は数年、あるいは何十年経っても強い症状が続くことがあります。これは本人の意志や努力が足りないからではなく、事件の重大性、サポート環境の有無、それまでの人生経験などが複雑に影響し合った結果です。「もう何年も経っているのだから」という周囲の見方が、当事者をさらに追い詰めてしまう典型的な二次被害の一つでもあります。

4-4 事件の種類による違い

心理的な影響の現れ方は、事件の種類によっても異なります。例えば交通犯罪(危険運転致死傷など)による被害では、事故と犯罪の境界が曖昧に感じられ、「これは本当に犯罪と呼んでよいのか」という葛藤を抱える家族もいます。性犯罪の被害では、被害者本人だけでなく家族も強い羞恥心や周囲の目を意識し、誰にも相談できずに孤立を深めてしまう傾向が指摘されています。未解決事件や加害者が特定されない事件では、「いつ解決するかわからない」という先の見えない不安が、心理的な負担を長期化させる要因になります。事件の種類に応じて必要な配慮が異なることも、周囲が理解しておきたいポイントです。

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5. 家族関係・生活への影響

家族の食事

犯罪は、被害を受けた個人だけでなく、家族というシステム全体に影響を及ぼします。

5-1 夫婦・パートナー関係の変化

悲しみや怒りの表し方は人それぞれです。一方が積極的に気持ちを話したいと感じる一方で、もう一方は考えないようにすることで自分を保とうとする、といったすれ違いが起こりやすくなります。悲嘆のプロセスの違いから、夫婦間の溝が深まってしまうケースも報告されています。

5-2 子どもへの影響

子どもがいる家庭では、発達段階に応じてさまざまな反応が現れます。幼い子どもは赤ちゃん返りや夜泣き、腹痛など身体症状として表れることが多く、学童期の子どもは学校での集中力低下や友人関係の変化、思春期の子どもは反抗的な態度や引きこもりといった形で表出することがあります。「子どもだからよくわかっていないだろう」という思い込みは禁物で、子ども自身のペースに合わせたケアが必要です。

5-3 経済的困窮

事件による精神的な打撃から休職・失職に追い込まれたり、治療費や裁判関連の費用がかさんだりすることで、経済的な困窮に陥る家庭もあります。経済的な不安は、心理的な回復をさらに難しくする要因になります。

5-4 きょうだい間の心理的孤立

親が一人の子どもの看病やケアに集中せざるを得ない状況になると、他のきょうだいが「自分は我慢しなければ」と感じ、孤立してしまうことがあります。目立った問題行動がないために、周囲からのケアが後回しにされやすい点にも注意が必要です。

5-5 祖父母など拡大家族への影響

心理的な影響は、同居している核家族の範囲にとどまりません。孫を失った祖父母は、自分の子ども(親)の深い悲しみを目の当たりにしながら、自分自身の喪失感にも向き合わなければならないという、二重の辛さを抱えることがあります。また「自分が先に死ぬべきだったのに」という感覚から、強い自責の念を抱く祖父母も少なくありません。支援の対象を考える際には、こうした拡大家族の存在も視野に入れることが望まれます。

6. 回復に向けたプロセスとレジリエンス

胸に手を当てている女性

犯罪被害者家族の心理的な回復について理解しておきたいのは、「回復=事件を忘れること」ではないという点です。多くの専門家は、回復とは事件の記憶を消し去ることではなく、事件を自分の人生の一部として位置づけながら、再び日常生活を営めるようになっていくプロセスだと捉えています。

心理学者J・ウィリアム・ウォーデンは、悲嘆からの回復には「喪失の事実を受け入れる」「悲嘆の苦痛を経験しつくす」「失った対象のいない環境に適応する」「失った対象を心の中に位置づけながら新たな人生を歩み始める」という課題があると整理しています。これらは順番通りに一直線に進むものではなく、行きつ戻りつしながら少しずつ進んでいくものです。

また近年の心理学では、強いトラウマを経験した人の一部に見られる「心的外傷後成長(PTG:Post-Traumatic Growth)」という現象にも注目が集まっています。これは、辛い経験を通じて人生観や人間関係の捉え方に変化が生じ、結果として人としての成長につながる場合があるという概念です。ただし、これは「辛い経験は良いことだった」と結論づけるためのものではなく、あくまで回復の一つの側面として理解されるべきものです。回復のペースや形は一人ひとり異なり、他人と比較する必要はありません。

6-1 回復は直線的ではない

回復のプロセスは、右肩上がりに一直線で進むわけではありません。落ち着いたと思った矢先に、事件を思い出させる報道や裁判の進展、季節の変化などをきっかけに、再び強い感情が押し寄せることがあります。これは「後退」ではなく、回復の過程で自然に起こる波であると理解しておくことが、当事者自身にとっても、周囲の人にとっても助けになります。

6-2 「支援を受けること」は弱さではない

日本では「人に弱みを見せてはいけない」「家族のことは家族で解決すべき」という価値観が根強く残っている面があります。しかし、犯罪という非日常的な出来事によって生じた心の傷は、本人の意志の力だけで乗り越えられるものではありません。専門的な支援を受けることは、決して弱さの表れではなく、回復に向けた主体的で前向きな選択であるという認識を広げていくことが重要です。

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7. 犯罪被害者家族を支える公的・民間の支援制度

相談

犯罪被害者家族が一人で抱え込む必要はありません。日本には、法律に基づいたさまざまな支援制度が整備されています。

7-1 犯罪被害者等基本法と基本計画

2004年に成立した犯罪被害者等基本法は、犯罪被害者等が「個人の尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」ことを基本理念に掲げ、国や地方公共団体、民間団体が連携して途切れることのない支援を行うことを定めています。この法律に基づき、相談・情報提供、損害賠償請求の援助、給付金制度の充実、保健医療・福祉サービスの提供、二次被害の防止、居住・雇用の安定など、具体的な施策が「犯罪被害者等基本計画」として推進されています。

7-2 警察による支援

警察では、事件担当者が被害者・家族に捜査状況を伝える「被害者連絡制度」や、精神的負担の軽減を目的としたカウンセリングの実施、被害者が自ら選んだ精神科医・臨床心理士等を受診した際の診療料・カウンセリング費用の公費負担制度などを設けています。性犯罪に関する相談は、全国共通番号「#8103(ハートさん)」で、24時間相談を受け付けています。

7-3 犯罪被害給付制度

故意の犯罪行為によって命を落としたり、重い後遺障害を負ったりした場合には、国が給付金を支給する「犯罪被害給付制度」があります。制度の詳細な適用条件は事案によって異なるため、警察の犯罪被害者相談窓口や後述の法テラスに確認することが推奨されます。

7-4 法テラス(日本司法支援センター)の犯罪被害者支援ダイヤル

法テラスでは、犯罪被害に遭った方やその家族向けに「犯罪被害者支援ダイヤル(愛称:なくことないよ)」を設置しています。どこに相談すればよいかわからない場合でも、状況に応じた制度や相談窓口の案内、被害者支援に理解のある弁護士の紹介などを行っています。

7-5 全国被害者支援ネットワークと民間被害者支援センター

公益社団法人全国被害者支援ネットワークは、各都道府県の公益社団法人「被害者支援センター」を統括する組織で、電話相談や直接支援、付き添い支援などを行っています。都道府県ごとに公安委員会から「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を受けたセンターが、地域に根ざした支援を提供しています。

7-6 臨床心理士・公認心理師によるカウンセリング

PTSDや複雑性悲嘆など、専門的なケアが必要な場合には、トラウマケアの知見を持つ臨床心理士・公認心理師・精神科医によるカウンセリングや治療が有効とされています。上記の警察・法テラス・被害者支援センターを経由することで、費用面を含めた専門機関へのアクセスがしやすくなる場合があります。

カウンセリング

7-7 被害者参加制度・損害賠償命令制度

刑事裁判に被害者や遺族が関与できる仕組みとして「被害者参加制度」があります。これは、一定の重大事件について、被害者や家族が刑事裁判に参加し、被告人への質問や意見陳述を行うことができる制度です。裁判の過程に主体的に関わることが、心理的な整理につながる場合がある一方、当事者にとって精神的な負担も伴うため、弁護士など専門家のサポートを受けながら利用を検討することが望まれます。

また、刑事裁判の判決を踏まえて、同じ裁判所で損害賠償請求について判断してもらえる「損害賠償命令制度」も整備されています。あわせて、示談交渉や損害賠償請求の際の弁護士費用等を援助する制度もあるため、経済的な負担を理由にためらう前に、法テラスなどの窓口で確認してみることをおすすめします。

7-8 犯罪被害者週間・犯罪被害者月間

政府は、犯罪被害者等基本法が成立した12月1日を最終日とする1週間(11月25日〜12月1日)を「犯罪被害者週間」と定め、全国で集中的な啓発活動を行っています。近年は取り組みがさらに拡充され、11月1日から12月1日までを「犯罪被害者等支援広報啓発強化期間(犯罪被害者月間)」として、より長い期間にわたり社会全体の理解を広げる活動が行われています。この期間には、遺族による講演会や、地域の被害者支援センターによるパネル展示など、当事者の声に触れられる機会が全国各地で設けられています。こうした機会を通じて、犯罪被害者家族の心理について社会の理解が少しずつ広がっていくことが期待されています。

主な相談窓口一覧

窓口名電話番号対応時間
法テラス犯罪被害者支援ダイヤル(なくことないよ)0120-079-714平日9時〜21時、土曜9時〜17時
性犯罪被害相談電話(ハートさん)#810324時間(通話料無料)
よりそいホットライン0120-279-338(岩手・宮城・福島は0120-279-226)24時間(通話料無料)
各都道府県の被害者支援センター全国被害者支援ネットワーク公式サイトで検索可センターにより異なる

※電話番号や受付時間は変更される場合があります。ご利用の際は各運営団体の最新の公式情報をあわせてご確認ください。

8. 周囲の人ができるサポート — 家族・友人・職場ができること

話す女性

犯罪被害者家族を支えるのは、専門機関だけではありません。身近な人の関わり方も、当事者の回復に大きな影響を与えます。

  • まずは聴くことに徹する:アドバイスや励ましよりも、当事者のペースで話を聞く「傾聴」の姿勢が基本です。話したくない時は無理に聞き出さないことも大切です。
  • 「頑張って」「早く元気になって」を避ける:当事者はすでに精一杯頑張っていることがほとんどです。回復を急かす言葉は、かえってプレッシャーになります。
  • 日常生活を具体的に支える:食事の差し入れや家事の手伝いなど、具体的な行動によるサポートは、言葉以上に支えになることがあります。
  • 詮索しない:事件の詳細を根掘り葉掘り聞くことは、二次被害につながります。当事者が話したい範囲を尊重しましょう。
  • 専門機関につなぐ:身近な人だけで抱え込まず、必要に応じて前述の相談窓口の情報をさりげなく伝えることも、大きな助けになります。
  • 長期的な視点を持つ:事件から時間が経っても、記念日反応など心理的な波が続くことを理解し、継続的に気にかけることが重要です。

職場においては、業務内容の一時的な調整や、休暇取得への配慮、プライバシーへの配慮(周囲への事件の詳細を無断で共有しないなど)も、二次被害を防ぐ重要なサポートになります。

8-1 支える人自身のセルフケアも大切

犯罪被害者家族を支える立場にある人(配偶者、他の家族、友人など)自身が、支援疲れから心身の不調をきたす「共感疲労」に陥ることも少なくありません。支える側が「自分がしっかりしなければ」と気を張り続けた結果、支える側自身が孤立し、体調を崩してしまうケースも見られます。

支援する人自身も、自分の感情を無視せず、必要であれば前述の相談窓口や周囲の人に頼ってよいということを、忘れないでいただきたいと思います。支える人が倒れてしまっては、本来支えたい相手を支え続けることもできなくなってしまいます。

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9. 犯罪被害者家族の心理を「知っておくこと」の意義

ここまで見てきたように、犯罪被害者家族の心理は複雑で、時間の経過とともに変化し続けるものです。専門的な支援体制が整っている一方で、実際に当事者を最も長く、最も近くで支えるのは、家族や友人、職場の同僚といった身近な人たちです。

だからこそ、犯罪被害に遭ってから対応方法を調べるのではなく、平時から「もし身近な人が犯罪被害者家族になったら、どのように関わればよいか」を知っておくことには大きな意味があります。この記事で紹介したような二次被害の仕組みや、心理的反応の個人差についての理解が社会に広がれば広がるほど、犯罪被害者家族が孤立せずに済む社会に近づいていくはずです。

10. よくある質問(FAQ)

質問・疑問

Q1. 犯罪被害者家族は必ずPTSDになるのですか?

A. いいえ、必ずしもそうとは限りません。事件の性質や本人の置かれた状況、周囲のサポートの有無などによって心理的な反応は大きく異なります。強い症状が1か月以上続き、日常生活に支障が出ている場合は、無理をせず専門機関に相談することが推奨されます。

Q2. 二次被害を防ぐために、周囲の人が最も気をつけるべきことは何ですか?

A. 「励まそう」「早く元気になってほしい」という善意であっても、回復を急かす言葉や詮索は当事者を傷つけることがあります。まずは判断や助言を挟まず、当事者のペースを尊重して話を聴く姿勢が基本です。

Q3. お金をかけずに相談できる窓口はありますか?

A. あります。法テラスの犯罪被害者支援ダイヤル(0120-079-714)、警察の性犯罪被害相談電話(#8103)、各都道府県の被害者支援センターなどは、いずれも無料で利用できる相談窓口です。

Q4. 子どもがいる家庭で特に気をつけることは?

A. 子どもは発達段階によって反応の表れ方が異なります。「わかっていないだろう」と決めつけず、子どものペースに合わせて気持ちを表現できる環境を整えること、必要であれば子ども専門の心理支援につなげることが大切です。

Q5. 事件から何年も経ってから心理的な不調が出ることはありますか?

A. あります。命日や裁判の判決日など、事件に関連する特定の時期に症状が強く出る「記念日反応」のように、長い年月を経てから心理的な波が訪れることは珍しくありません。時間の経過だけで「もう大丈夫なはず」と判断しないことが重要です。

Q6. 被害者本人ではなく、家族である自分が相談窓口を利用してもよいのでしょうか?

A. もちろん利用できます。犯罪被害者等基本法における「犯罪被害者等」には、被害者本人の家族・遺族も含まれています。法テラスや被害者支援センターは、家族からの相談も広く受け付けています。

Q7. マスコミの取材にどう対応すればよいかわかりません。

A. 取材への対応義務はなく、応じるかどうか、どこまで話すかは当事者・家族が自由に決めてよいものです。対応に迷う場合は、一人で判断せず、警察の担当者や弁護士、被害者支援センターに事前に相談することをおすすめします。

Q8. 職場や学校に事件のことをどう伝えればよいか悩んでいます。

A. 伝える範囲やタイミングに正解はありません。必要な配慮を受けるために最低限伝える、詳細は伏せて信頼できる担当者一人にのみ伝えるなど、当事者が安心できる形を選んで構いません。被害者支援センターでは、こうした調整に関する相談にも応じています。

Q9. 犯罪被害者家族への接し方について、社会全体で学べる機会はありますか?

A. あります。毎年11月25日から12月1日の「犯罪被害者週間」(近年は11月1日からの「犯罪被害者月間」に拡充)には、全国で講演会やパネル展示などの啓発事業が実施されています。お住まいの自治体や警察のウェブサイトで、関連イベントの情報を確認することができます。

朝日・夜明け

まとめ

犯罪被害者家族の心理は、急性ストレス反応やPTSD、複雑性悲嘆、罪悪感、怒りなど、多層的で時間とともに変化していくものです。さらに深刻なのは、事件そのものだけでなく、捜査・司法手続きやマスコミ報道、周囲の心ない言葉によって生じる「二次被害」が、回復の道のりをさらに困難にしているという実態です。

一方で、日本には犯罪被害者等基本法を土台として、警察・法テラス・被害者支援センター・医療機関などが連携する支援体制が整備されています。「誰かに頼ることは弱さではない」という理解を、当事者本人だけでなく、周囲の人や社会全体が共有していくことが、犯罪被害者家族の回復を支える大きな力になります。

もしこの記事を読んでいる方ご自身、あるいは身近な方が犯罪被害に伴う心理的な辛さを抱えていらっしゃる場合は、一人で抱え込まず、記事内で紹介した法テラスの犯罪被害者支援ダイヤルや、お住まいの地域の被害者支援センターなど、専門の相談窓口へ連絡することをおすすめします。心の不調が強く、生きることが辛いと感じるような場合には、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間対応)などの相談窓口もあわせてご活用ください。

犯罪被害者家族の心理を理解することは、当事者自身の助けになるだけでなく、いつか自分自身や身近な人が同じ立場になったときのための備えでもあります。この記事が、そうした理解を少しずつ広げていくきっかけになれば幸いです。

参考・出典

本記事は、以下の公的機関・団体が公表している情報をもとに構成しています(2026年8月時点)。

  • 警察庁「犯罪被害者等施策」「犯罪被害者週間・犯罪被害者月間」:犯罪被害者等基本法の内容や、警察による被害者連絡制度・カウンセリング公費負担制度等の情報を参照
  • 内閣府男女共同参画局「性犯罪・性暴力被害者への支援」:ワンストップ支援センターや性犯罪被害相談電話に関する情報を参照
  • 法テラス(日本司法支援センター)「犯罪被害者支援業務」:犯罪被害者支援ダイヤルの連絡先・受付時間等を参照
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「犯罪被害者等基本法」:基本法に基づく施策の全体像を参照
  • 公益社団法人全国被害者支援ネットワーク:二次被害の定義や、各都道府県の被害者支援センターに関する情報を参照
  • 一般社団法人社会的包摂サポートセンター「よりそいホットライン」:相談窓口の連絡先・対応時間を参照
  • 高知県・千葉犯罪被害者支援センター等、各地の被害者支援センターが公表する二次被害に関する解説

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