
はじめに:あなただけじゃない「あの感覚」
「明日、友人と会う予定がある——それだけで今日は何も手につかない」
「来週に大切なアポがある。まだ数日あるのに、なぜかずっとそわそわしている」
「旅行を楽しみにしているはずなのに、出発の一週間前から頭がいっぱいになって眠れない」
このような経験に、心当たりはないでしょうか。
「予定があると落ち着かない」という感覚は、決してあなただけが感じている特殊なものではありません。程度の差こそあれ、多くの人が日常的に経験していることです。しかし、その感覚が強すぎると日常生活に支障が出たり、楽しいはずのイベントさえも「憂鬱なもの」に変えてしまうことがあります。
この記事では、心理学の観点から「予定があると落ち着かない」というメカニズムを深く掘り下げ、その原因・特徴・具体的な対処法を徹底的に解説します。「自分はなぜこうなんだろう」という長年の疑問に、科学的な答えを提供できれば幸いです。
第1章:「予定があると落ち着かない」とはどういう状態か

1-1. この感覚の正体
「予定があると落ち着かない」という状態は、心理学的には予期不安(Anticipatory Anxiety)と深く関連しています。予期不安とは、まだ起きていない出来事に対して、前もって不安や緊張を感じる心理反応のことです。
具体的には、以下のような形で現れることが多いです。
- 集中力の低下:手元の作業や勉強が頭に入らない
- 身体的な緊張:肩や首が凝る、胃がムカムカする
- 思考の占有:予定のことが頭から離れず、何度もシミュレーションしてしまう
- 睡眠への影響:寝つきが悪くなる、夜中に目が覚める
- 時間感覚の歪み:「早く終わってほしい」または「その日が来るのが怖い」という二極化した感情
重要なのは、この状態は「楽しみな予定」であっても「嫌な予定」であっても起こりうるという点です。友人との楽しいランチでも、好きなアーティストのコンサートでも、「予定がある」という事実そのものが、ある種の人にとっては精神的な負担になります。
1-2. 「普通の緊張」との違い
誰でも大事な発表の前は緊張するものです。では、「予定があると落ち着かない」という感覚は、「普通の緊張」とどう違うのでしょうか。
普通の緊張・ドキドキ感
- 予定の直前(数時間〜前日)に始まる
- 予定が終われば速やかに解消される
- 日常生活に大きな支障は出ない
- 「楽しみ」という感情と共存している
「落ち着かない」感覚の特徴
- 予定の数日前〜数週間前から始まる
- 他のことに集中できなくなる
- 「楽しみ」よりも「早く終わってほしい」という感情が強い
- 予定がなくなっても、次の予定が気になりだす
後者の場合、単なる「緊張しやすい性格」だけでなく、より深い心理的・神経学的な背景がある可能性があります。
第2章:なぜ「予定があると落ち着かない」のか——心理的原因を深掘り

「予定があると落ち着かない」という感覚の背景には、複数の心理的メカニズムが絡み合っています。それぞれを丁寧に解説します。
2-1. 脳の「未完了タスク」への執着——ツァイガルニク効果
心理学に「ツァイガルニク効果(Zeigarnik Effect)」という概念があります。これは、完了したタスクよりも未完了のタスクのほうが記憶に残りやすく、頭から離れにくいという心理的現象です。1920年代にソ連の心理学者ブルーマ・ツァイガルニクが発見しました。
予定とは、まさに「まだ完了していない未来の出来事」です。脳は未完了の課題を「解決すべき問題」として認識し続けるため、予定が近づくにつれて、それに関連する思考が頭を占領しやすくなります。
日常での例
- 旅行の準備が完全に終わっていないと、何度も持ち物リストを確認したくなる
- 約束の場所や時間を確認済みでも、何度も見直してしまう
- 予定を「心の中でこなしてしまおう」とシミュレーションを繰り返す
これは脳が「準備を完璧にしようとする」防衛本能から来るもので、ある意味では非常に理にかなった心理反応とも言えます。しかし、この傾向が強すぎると、予定の「消化」に過剰なエネルギーを使うことになります。
2-2. コントロール感の喪失と不確実性への恐怖
人間は本質的に、物事を予測・コントロールできている感覚を必要とする生き物です。これを心理学では「コントロール感(Sense of Control)」と呼びます。
予定とは、本質的に「まだ起きていない不確定な未来」です。
- 「当日、うまくできるだろうか」
- 「相手はどんな反応をするだろう」
- 「電車が遅延したらどうしよう」
- 「天気が崩れたらどうしよう」
こうした「もしも」の思考が連鎖することで、コントロール感が失われ、不安感が高まります。特に不確実性に対する耐性が低い人ほど、この傾向は強く出ます。
研究では、「不確実性への不耐性(Intolerance of Uncertainty)」が高い人は、慢性的な不安を抱えやすく、予期不安が日常的な問題になりやすいことが示されています(Dugas et al., 2005)。
2-3. 自己評価の不安——「うまくやれるか」という恐怖
予定に関連した落ち着かなさの大きな原因のひとつが、自己評価への不安です。
「失敗したらどう思われるだろう」「自分が期待に応えられなかったら」という思考パターンは、心理学的に「評価懸念(Evaluation Apprehension)」と呼ばれます。
この感覚は、特に以下のような場面で強くなります。
- 初対面の人と会う予定
- 仕事のプレゼンや面接
- 久しぶりに会う知人との食事
- パフォーマンスを求められる場(スポーツ・音楽・演技など)
自己肯定感が低い人や、完璧主義的な傾向がある人は、この評価懸念が日常的な出来事にも強く反応しやすく、「どんな予定でも落ち着かない」という状態につながりやすいです。
2-4. 過去のネガティブ経験の影響
過去に予定に関連したつらい経験をしていると、脳は「予定=危険」という連合学習(Classical Conditioning)を形成することがあります。
例えば、
- 過去に大勢の前で失敗した経験がある
- 約束をすっぽかしたり、されたりした記憶がある
- パーティーや集まりで強い孤立感・疎外感を感じた経験がある
- 予定当日に体調を崩して迷惑をかけてしまった記憶がある
こうした経験が積み重なると、似たような状況(予定を控えている状況)になるたびに、脳がアラームを鳴らすようになります。これは一種の条件付けによる不安反応です。
2-5. 「今この瞬間」から切り離される感覚
予定があると落ち着かない人の多くは、予定の「準備・心の準備」に多くのエネルギーを使います。その結果、現在の瞬間(今ここ)から意識が離れてしまうことになります。
心理学では、現在の瞬間への注意が散漫になった状態を「マインドワンダリング(Mind Wandering)」と呼びます。マインドワンダリングは、幸福感の低下や不安感の増大と関連することが多くの研究で示されています(Killingsworth & Gilbert, 2010)。
「今、ここで、楽しめない」という感覚が積み重なると、やがて「予定があること=楽しめない状態になること」という認知の歪みが生じてしまいます。
第3章:「予定があると落ち着かない」人の特徴とタイプ

この感覚を特に強く経験しやすい人には、いくつかの共通した特徴・気質・タイプがあります。
3-1. HSP(Highly Sensitive Person)気質の人
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した概念で、生まれつき神経系が敏感で、刺激を深く処理する気質を持つ人たちのことです。人口の約15〜20%がこの気質を持つとされています。
HSP気質の人が予定を前にして落ち着かなくなりやすい理由:
- 深い情報処理:予定に関する情報(場所、人間関係、会話の流れなど)を無意識に深く処理するため、エネルギーを多く消耗する
- 感情の豊かさ:楽しい予定でもネガティブな予定でも、感情的な反応が大きい
- 過剰刺激への恐れ:人混みや騒音、慣れない環境への心理的負担を先読みして不安になる
- 共感性の高さ:「相手はどう感じるか」「場の空気はどうか」を先回りして考えすぎる
HSPの人は、「敏感であること」と「楽しめないこと」の間で葛藤することが多く、「なぜ自分はこんなことで疲れるのか」と自己否定につながりやすいです。
3-2. 不安傾向が高い人(Trait Anxiety)
心理学では不安を、状態不安(State Anxiety:特定の状況で生じる一時的な不安)と特性不安(Trait Anxiety:個人の持続的な不安傾向)に分けて考えます。
特性不安が高い人は、様々な状況で不安を感じやすく、予定を前にした落ち着かなさもより強く・より長く続く傾向があります。
特性不安の高い人の特徴:
- 「最悪の事態」を想定しがち(破局化思考)
- 小さなことでも長く心配する
- 心配することをやめられない
- リラックスすることが苦手
3-3. 完璧主義者(Perfectionist)
完璧主義的な傾向が強い人は、予定を「完璧にこなすべきもの」として捉えるため、予定を前にして以下のような思考パターンが生じやすいです。
- 「完璧に準備しないといけない」→ 準備に終わりがない
- 「少しでもうまくいかなかったら最悪だ」→ 失敗への恐怖が過剰に高まる
- 「相手を失望させてはいけない」→ 他者評価への過剰な敏感さ
完璧主義は、努力や向上心と結びつく一方で、慢性的な不安やバーンアウトのリスクも高いことが研究で示されています。
3-4. ADHD傾向のある人
ADHD(注意欠如・多動症)の人は、時間の感覚や未来の見通しを立てることが苦手な場合があります。これは「時間盲(Time Blindness)」とも呼ばれ、ADHDの第一人者であるラッセル・バークレー博士が提唱した概念です。
ADHD傾向のある人が予定で落ち着かなくなる理由:
- 予定を「今すぐ迫っているもの」と感じる傾向がある(時間感覚の歪み)
- 複数の準備タスクを頭の中で整理しておくことが難しい(ワーキングメモリの弱さ)
- 「予定のことを忘れてしまうのでは」という二次的な不安がある
- 予定当日まで「過覚醒(ハイパーアロウザル)」状態が続くことがある
ADHDの人にとっての「予定があると落ち着かない」は、意志の問題ではなく、神経学的な特性によるものです。
3-5. 内向的(Introvert)な人
内向的な人は、社会的なインタラクションからエネルギーを消耗しやすい気質を持っています(外向的な人は逆にエネルギーを得ます)。
そのため、「人に会う予定」があると、以下のような形で落ち着かなさが生じやすいです。
- 会う前から「どれだけ疲れるか」を先読みして身構える
- 会話の準備・シミュレーションを入念にしすぎる
- 予定後の「回復時間(一人でいる時間)」を確保できるか心配する
内向的であることは気質であり、病気でもなく直すべきものでもありませんが、「なぜ自分は人に会うことがこんなに負担なのか」という自己否定につながりやすい側面もあります。
第4章:「予定があると落ち着かない」ことで生じる日常生活への影響

4-1. 仕事・学業への影響
予定が頭を占領することで、仕事や学業の集中力が著しく低下することがあります。
- 締め切り前なのに、週末の友人との食事のことばかり考えてしまう
- 午後に会議があると、午前中はほとんど仕事が手につかない
- 試験前に、試験への不安で勉強が進まないという悪循環に陥る
これは「認知的資源の枯渇」と呼ばれる現象で、心配事がワーキングメモリ(作業記憶)を占有することで、他のタスクへの処理能力が低下するために起きます。
4-2. 対人関係への影響
予定に関連した落ち着かなさは、対人関係にも影響を与えることがあります。
- 約束を楽しみにできないため、友人関係が億劫に感じる
- 予定をキャンセルしたい衝動が強くなる(「予定を入れなければ落ち着ける」という回避行動)
- 予定をこなすために精一杯で、当日は「楽しんでいる余裕がない」
- 予定後の疲弊感が強く、「また会おう」と言えない
この「回避」のパターンが積み重なると、徐々に社会的なつながりが薄れ、孤立感や孤独感が増すというリスクがあります。
4-3. 身体的健康への影響
慢性的な予期不安は、身体にも影響を及ぼします。
- 睡眠障害:予定前夜に眠れない、または睡眠の質が低下する
- 胃腸症状:緊張による胃痛・腹痛・下痢
- 筋肉の緊張:肩こり・頭痛・顎の緊張
- 免疫機能の低下:慢性的なストレスによる体の防御機能の低下
- 疲労感:精神的エネルギーの消耗による慢性疲労
これらの症状が慢性化すると、心身両面の健康に大きな打撃を与えることになります。
4-4. 楽しみの喪失(喜びを感じにくくなる)
最も深刻な影響のひとつが、「楽しいはずのことが楽しめない」という状態です。
旅行・友人との食事・コンサート——本来ワクワクするはずのイベントも、「予定があると落ち着かない」という感覚が強いと、楽しみよりも心配や緊張が先行し、結果として「楽しめなかった」という残念な経験として終わることがあります。
この状態が続くと、「どうせ楽しめないから、予定を入れるのはやめよう」という思考が強まり、生活の質(QOL)が低下していきます。
第5章:「予定があると落ち着かない」を和らげる10の具体的対処法

対処法①:「心配事」を紙に書き出す(エクスプレッシブ・ライティング)
不安や心配事を頭の中だけで抱えていると、思考がループしやすくなります。これを「ルミネーション(反芻思考)」と言います。
有効な対策:心配していることをすべて紙(またはデジタルノート)に書き出す。
テキサス大学の心理学者ジェームズ・ペネベーカー博士は、感情を言語化して書き出す「エクスプレッシブ・ライティング」が不安・ストレスの軽減に有効であることを多くの研究で示しています。
実践方法:
- 「予定に関して心配していること」をリストアップする
- それぞれについて「実際に起きる可能性はどのくらいか」を考える
- 「もし起きたとしたら、どう対処できるか」を書く
書き出すことで、漠然とした不安が「具体的に対処できる問題」に変わります。
対処法②:「今できることリスト」を作り、実行する
不安の多くは「まだやっていないこと」への焦りから来ています。予定に向けて「今、自分にできることを全部やってしまう」という戦略が有効です。
- 場所・時間・交通手段を確認して手帳に書く
- 当日の服装を前日に決めておく
- 必要な持ち物を事前にリュックに入れておく
「準備が完了した」という感覚は、脳の未完了タスクへの執着(ツァイガルニク効果)を和らげる効果があります。
対処法③:予定に「バッファ」を組み込む
「もし〇〇になったらどうしよう」という不安を和らげるために、あらかじめ余裕(バッファ)を予定に組み込みましょう。
- 集合時間の30分前に到着するよう計画する
- 「当日に最悪起きそうなこと」を1〜2個想定して、事前に解決策を考えておく
- 予定後に「一人で回復する時間」を確保しておく(特に内向的な人)
「最悪の事態でも、ちゃんと対処できる」という感覚が、コントロール感を取り戻させてくれます。
対処法④:マインドフルネス瞑想を取り入れる
「予定があると落ち着かない」の根本には、未来への思考が「今」を奪っているという問題があります。マインドフルネスは、意識を「今この瞬間」に引き戻す練習です。
簡単な実践方法(5分間呼吸法):
- 静かな場所に座り、目を閉じる
- 鼻から4秒かけてゆっくり息を吸う
- 4秒間息を止める
- 口から4秒かけてゆっくり息を吐く
- これを5〜10回繰り返す
この呼吸法は「ボックス呼吸(Box Breathing)」とも呼ばれ、米海軍特殊部隊(Navy SEALs)も採用しているストレス管理技術です。副交感神経を刺激し、緊張状態を鎮める効果があります。

対処法⑤:「予定の比率」を調整する
もし予定が入ると常に落ち着かなくなるなら、そもそも一定期間内に入れる予定の数を減らすことも重要な対処法です。
- 1週間に入れる「外出を伴う予定」の数を決める(例:週に2つまで)
- 予定と予定の間に「何もしない日」を意識的に作る
- 「予定を断る練習」をする(特に社会的プレッシャーで引き受けてしまう人)
「予定が多すぎる」ことが根本的な問題の場合、どんな対処法も対症療法になってしまいます。
対処法⑥:認知の歪みに気づく(認知再構成)
「予定があると落ち着かない」背景には、しばしば認知の歪みが隠れています。以下のような思考パターンに心当たりはないでしょうか。
| 認知の歪み | 例 |
|---|---|
| 破局化思考 | 「うまくいかなかったら最悪だ」 |
| 読心術 | 「相手は絶対に失望するだろう」 |
| 全か無か思考 | 「完璧にできなければ意味がない」 |
| 先読みの誤り | 「絶対に何か悪いことが起きる」 |
これらの歪んだ思考に気づき、より現実的な思考に置き換える「認知再構成」は、認知行動療法(CBT)の中核技術です。
例:
- 歪んだ思考:「うまく話せなかったら、相手は私のことを嫌いになる」
- 現実的な思考:「多少ぎこちなくても、相手も気にしていないことがほとんど。そして相手の評価は私がコントロールできるものではない」
対処法⑦:「当日」ではなく「プロセス」を楽しむ練習
予定に向けての「準備や期待のプロセス」そのものを楽しむ視点を持つことで、「予定=重荷」から「予定=楽しみな旅の一部」へと感覚を変えていくことができます。
- 旅行前なら:旅先のレストランや観光スポットを調べてワクワクする時間を作る
- 友人と会う前なら:「この話を聞いてみたい」「こんな店に連れて行きたい」と楽しいシナリオを描く
「予定当日だけが楽しいものではない」という視点の転換が、予期不安の重さを軽くしてくれます。

対処法⑧:身体を動かしてエネルギーを消費する
不安や緊張は、神経系の「過覚醒状態」によって生じます。この過覚醒状態を解消するのに最も即効性があるのが、身体運動です。
- 30分のウォーキング
- ヨガやストレッチ
- 軽いジョギング
運動はコルチゾール(ストレスホルモン)を消費し、エンドルフィンやセロトニンを分泌させます。「予定の前日に落ち着かない」という場合、その夜に少し身体を動かすだけで、睡眠の質と翌日の気分が大きく変わることがあります。
対処法⑨:「終わった予定」を振り返るノートをつける
「予定があると落ち着かない」人は、予定後に「なんだ、たいしたことなかった」と感じることが多いはずです。その経験を記録に残しておくことで、次の予定への不安を和らげる「証拠」として活用できます。
ノートに書くこと:
- 予定の前にどれくらい不安だったか(10段階で)
- 実際に起きた嫌なこと(あれば)
- 予定後の気分・感想
これを繰り返すと、「自分は不安になりすぎている」「たいていうまくいく」というパターンが見えてきて、予期不安が和らいでいきます。
対処法⑩:信頼できる人に話す・専門家に相談する
感情や不安を言語化して他者に打ち明けることは、心理的な負担を大きく軽減します。
- 信頼できる友人・家族に「予定の前は落ち着かない」ことを話してみる
- オンラインコミュニティで同じ気質の人とつながる(HSPのコミュニティなど)
- 症状が重い場合は、心療内科やカウンセラーへの相談を検討する
「自分だけが異常なのではないか」という孤立感が解消されるだけで、不安感は大きく和らぐことがあります。
第6章:子どもが「予定があると落ち着かない」場合
子どもが予定を前にして極端に落ち着かなくなる場合も、同様の心理的メカニズムが働いています。しかし、子どもの場合はそれを言語化する力が未発達なため、以下のような形で表れることが多いです。
- 前日から「お腹が痛い」「頭が痛い」と訴える
- いつも以上に駄々をこねたり、怒りやすくなる
- 何度も「明日は何時に行くの?」と確認してくる
- 食欲が落ちる
親ができること:
- 「どんな予定か」を事前に丁寧に説明する(情報の不確実性を下げる)
- 「何時に出発して、何時に終わるか」という時間軸を視覚化して見せる
- 「楽しいことがある」という予告をする(例:「終わったら好きなものを食べよう」)
- 子どもの感情を否定せず、「緊張するのは当たり前だよ」と共感する
特定の状況(学校・人混みなど)への強い恐怖や回避が続く場合は、小児科・児童精神科への相談を検討してください。
第7章:専門家への相談が必要なサイン

「予定があると落ち着かない」感覚は、多くの場合、上述の対処法で和らげることができます。しかし、以下のような状態が続く場合は、専門家(心療内科・精神科・公認心理師/臨床心理士)への相談を強くおすすめします。
専門家への相談を検討するべき状態
①日常生活に著しい支障が出ている場合
- 予定のことが原因で、仕事や学業が長期間まともにできない
- 予定を入れることへの恐怖から、社会的な関係を大幅に制限している
- 予定のたびに強いパニック症状(動悸・過呼吸・強い恐怖感)が生じる
②睡眠・食欲・体重への影響が続く場合
- 予定の数週間前から慢性的に眠れない
- 食欲が著しく低下または増大する
- 体重の急激な変化が生じている
③うつ症状が現れている場合
- 何事にも喜びや楽しみを感じなくなった
- 慢性的な気力のなさ・倦怠感がある
- 「消えてしまいたい」という気持ちが生じることがある
④改善策を試みても症状が好転しない場合
- セルフケアや対処法を試みても、数ヶ月以上症状が変わらない
治療の選択肢
専門家による治療の選択肢としては、以下のものが代表的です。
- 認知行動療法(CBT):認知の歪みと行動パターンを修正する、もっとも研究に裏付けられた心理療法
- 暴露反応妨害法:不安を引き起こす状況に段階的に慣れていく行動療法
- EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法):過去のトラウマ体験が根本にある場合に有効
- 薬物療法:SSRIなどの抗不安薬・抗うつ薬(医師の判断のもとで)
「弱さ」や「甘え」ではありません。身体の病気と同様に、心の問題も適切なサポートによって改善できます。
第8章:「予定があると落ち着かない」と上手に共存するために

対処法をすべて試しても、完全に「予定前の落ち着かなさ」がなくなるわけではないかもしれません。特にHSPや不安傾向が高い気質は、生まれ持った特性の一部でもあります。
大切なのは、その特性を「直すべき欠点」として捉えるのではなく、「自分の一部として理解して、うまく付き合う」視点を持つことです。
8-1. 自分の「不安パターン」を知る
- 「どんな予定で特に落ち着かなくなるか」
- 「何日前から始まるか」
- 「どんなことをすると少し楽になるか」
これを把握しておくだけで、不安が来た時に「あ、いつものパターンだ」と客観視できるようになります。これを心理学では「メタ認知」と言い、不安の影響を弱める重要なスキルです。
8-2. 「十分うまくやれた」を認める練習
完璧主義傾向が強い人は、うまくいった予定の後でも「もっとうまくできたはず」と反省しがちです。意識的に「今日は十分うまくやれた」「行って良かった」を言語化し、自分に承認を与える練習をしましょう。
小さな成功体験の積み重ねが、少しずつ「予定=怖いもの」から「予定=乗り越えられるもの」という認識を育てていきます。
8-3. 自分に合ったペースを守る
社会は「積極的に予定を入れる」「社交的であること」を美徳とする傾向がありますが、それが全員に合うわけではありません。
- 内向的な人には、少ない予定・一人の時間が必要です
- HSPの人には、刺激の少ない環境・回復時間が必要です
- 不安傾向が高い人には、ゆっくりとしたペースが必要です
「人と同じペースで生きなければならない」というプレッシャーを手放すことが、長期的な心の健康につながります。
よくある質問(FAQ)

Q1. 予定があると落ち着かないのは病気ですか?
A. 必ずしも病気ではありません。多くの人が経験する自然な心理反応です。ただし、日常生活に著しい支障が出ている場合や、強いパニック症状を伴う場合は、専門家への相談をおすすめします。
Q2. HSPかどうかはどうやってわかりますか?
A. エレイン・アーロン博士が開発した「HSPセルフテスト」がオンラインで公開されています。ただし、自己診断はあくまで参考程度にとどめ、気になる場合は専門家に相談してください。
Q3. 子どもが予定の前に必ず体調不良を訴えます。どうすれば?
A. まずは子どもの不安を否定せず、「緊張しているんだね」と共感することが大切です。予定の内容を丁寧に説明し、時間軸を視覚化してあげましょう。症状が続く場合は小児科・児童精神科にご相談ください。
Q4. 楽しみな予定でも落ち着かないのはなぜですか?
A. 楽しい予定であっても「うまく楽しめるか」「期待通りになるか」という不確実性が不安を生みます。また、HSP気質の人はポジティブな刺激でも神経系が過剰反応することがあります。
Q5. 予定がある日の朝、特に緊張します。即効性のある方法はありますか?
A. ボックス呼吸(4秒吸う・4秒止める・4秒吐く)を5回行うと、副交感神経が優位になり緊張が和らぎます。また、「今日は全力でやるだけ、結果はコントロールできない」と声に出して言うことも有効です。

まとめ:「落ち着かない」は弱さではなく、繊細さのサイン
「予定があると落ち着かない」という感覚は、弱さや性格の悪さの表れではありません。それは、あなたが物事を深く考え、他者を気にかけ、準備を怠らない——そういった繊細さや誠実さの表れでもあります。
この記事で解説してきたように、その背景には予期不安・ツァイガルニク効果・コントロール感の喪失・HSP気質・不安傾向などの、科学的に説明できるメカニズムがあります。
重要なのは、「なぜ自分はこうなのか」を理解した上で、自分に合った対処法を少しずつ取り入れていくことです。
今日からできる3つのこと
- 次の予定について「心配していること」をすべて紙に書き出してみる
- 「今できる準備」を全部やって、「準備完了」のチェックを入れる
- 予定が終わったら、その体験を短くノートに記録する
少しずつ、でも着実に。「予定があっても、今日を楽しめる自分」に近づいていきましょう。
参考文献・参考資料
- Aron, E. N. (1996). The Highly Sensitive Person. Broadway Books.
- Dugas, M. J., et al. (2005). Intolerance of Uncertainty and Problem Orientation in Worry. Cognitive Therapy and Research, 29(5), 553-568.
- Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A Wandering Mind Is an Unhappy Mind. Science, 330(6006), 932.
- Pennebaker, J. W. (1997). Writing About Emotional Experiences as a Therapeutic Process. Psychological Science, 8(3), 162-166.
- Barkley, R. A. (2015). Attention-Deficit Hyperactivity Disorder: A Handbook for Diagnosis and Treatment (4th ed.). Guilford Press.
- 岡野憲一郎(2021)「不安の正体——その心理と治療」PHP研究所
- 長沼睦雄(2020)「HSPの生き方——繊細な人の幸せメソッド」扶桑社

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