あなたの隣に潜む「見えない」犯罪組織の恐怖
2023年、日本中を震撼させた一連の広域強盗事件。フィリピンから「ルフィ」と名乗る指示役が、日本の若者たちをSNSで募り、残虐な犯行を実行させたこの事件は、私たちの社会に根深く、そして巧妙に広がる新たな犯罪の形を浮き彫りにしました。
彼らは、暴力団のように明確な組織図や縄張りを持つわけではありません。SNSを通じて集まり、目的を達成すれば霧のように消えていく。その正体不明さ、匿名性の高さから、警察庁は彼らを「トクリュウ（匿名・流動型犯罪グループ）」と名付け、最重要課題として対策に乗り出しています。
「自分は大丈夫」「うちの子供に限って」
そう思うかもしれません。しかし、トクリュウが仕掛ける罠は、驚くほど身近に存在します。TwitterやInstagramのDMに届く「高額報酬」「簡単な作業」「即日現金」といった甘い誘い文句。それらは、経済的な不安や社会的な孤立感を抱える若者たちの心を巧みに突き、一度足を踏み入れると抜け出せない犯罪の沼へと引きずり込む入り口なのです。
この記事では、謎に包まれた「トクリュウ」の正体を解き明かすとともに、「犯罪心理学」の観点から、なぜごく普通の若者が実行犯になってしまうのか、そして彼らを駒として冷酷に操る指示役はどのような心理状態にあるのかを、徹底的に深掘りしていきます。
これは、遠い世界のニュースではありません。あなたや、あなたの愛する家族が、被害者にも加害者にもなりうる現代日本の深刻な問題です。この記事を読み終えたとき、あなたはトクリュウの本当の恐ろしさを理解し、自分と大切な人を守るための具体的な知識を手にしているはずです。
↓↓↓↓↓
第1章 謎に包まれた犯罪組織「トクリュウ」とは何か？
まず、「トクリュウ」とは一体何者なのでしょうか。その定義、特徴、そして従来の犯罪組織との違いを詳しく見ていきましょう。
「トクリュウ」の定義と警察庁の危機感
「トクリュウ」とは、警察庁が2022年以降に使い始めた用語で、「匿名・流動型犯罪グループ」の略称です。その名の通り、以下の2つの大きな特徴を持っています。
- 匿名性: SNSや「テレグラム」のような秘匿性の高い通信アプリを利用してメンバーを募集し、指示を出します。互いの素性をほとんど知らず、「アカウント名」や「コードネーム」で呼び合うため、指示役の正体にたどり着くのが非常に困難です。
- 流動性: 犯罪ごとにメンバーが集められ、犯行が終われば解散します。特定のリーダーをトップとした固定的な組織ではなく、目的に応じて離合集散を繰り返すため、組織の全体像を掴むことが難しいのです。
警察庁がわざわざ新しい呼称を設けた背景には、これまでの暴力団対策とは全く異なるアプローチが必要だという強烈な危機感があります。彼らは、従来の組織犯罪の枠組みでは捉えきれない、新しいタイプの脅威なのです。
暴力団とは似て非なる存在 – 組織構造の違い
トクリュウと従来の暴力団との最大の違いは、その組織構造にあります。
- 暴力団（ピラミッド型）:
- 組長を頂点とし、若頭、舎弟頭、組員といった明確な階級が存在する「ピラミッド型組織」です。
- 「盃事」などの儀式を通じて強固な主従関係を結び、組織への忠誠が求められます。
- 「シノギ」と呼ばれる資金獲得活動は、縄張り内の風俗店や飲食店からの「みかじめ料」徴収や、違法薬物の売買など、比較的限定的でした。
- トクリュウ（ネットワーク型）:
- 特定のリーダーを頂点としない、緩やかにつながる「ネットワーク型組織」です。
- 指示役、メンバー募集役（リクルーター）、実行役、個人情報や犯行ツールを調達する「道具屋」など、役割が細分化・分業化されています。
- メンバー間の関係は金銭のみで繋がっていることが多く、忠誠心よりも実利が優先されます。用済みになれば、実行役は容赦なく切り捨てられます。これを「トカゲの尻尾切り」と呼びます。
このネットワーク構造こそが、トクリュウの厄介さの根源です。実行役を逮捕しても、その上には別のリクルーターがいて、さらにその上には正体不明の指示役がいます。まるで巨大なクモの巣のように張り巡らされた関係性を解明するのは、非常に困難な捜査を要するのです。
トクリュウの分業システムと巧妙な手口
トクリュウは、極めて合理的な分業システムで犯罪を実行します。
- 指示役（主犯格）: 「ルフィ」「キム」などと名乗り、海外の拠点など、警察の捜査が及びにくい場所から全体を統括します。ターゲットの選定、犯行計画の立案、実行役への具体的な指示をテレグラムなどで行います。彼らは決して現場に姿を現しません。
- リクルーター（募集役）: SNS上で「闇バイト」「高額報酬」「裏仕事」などのキーワードを使い、金に困っている若者などを巧みに勧誘します。実行役を集める専門の役割です。
- 実行役（通称：プレイヤー、叩き屋）: 実際に特殊詐欺の電話をかけたり（かけ子）、現金を受け取りに行ったり（受け子）、強盗に押し入ったりする役割です。最もリスクが高く、逮捕される可能性が一番高い「使い捨ての駒」です。
- 道具屋・情報屋: 犯行に使用する他人名義のスマートフォン（飛ばし携帯）や銀行口座、ターゲットとなる名簿（個人情報）などを調達し、グループに供給します。
彼らが行う犯罪は多岐にわたりますが、代表的なものは「特殊詐欺」と「強盗」です。
- 特殊詐欺: 警察官や金融機関の職員になりすまし、「あなたの口座が犯罪に利用されている」などと嘘をつき、キャッシュカードをだまし取ったり、暗証番号を聞き出したりします。被害者の不安や善意につけこむ卑劣な犯罪です。
- 強盗: 事前にリサーチした資産家の家などに押し入り、金品を奪います。近年では、単なる窃盗にとどまらず、家人を拘束・暴行する凶悪なケース（強盗致傷、強盗殺人）が増加しており、社会に大きな不安を与えています。
これらの犯罪は、すべて匿名性の高いツールと巧妙な分業システムによって支えられているのです。
↓↓↓↓↓
第2章 【犯罪心理学】なぜ若者は「闇バイト」に手を染めるのか？実行犯の心理
トクリュウの実行役として逮捕されるのは、驚くほど「普通」の若者たちです。学生、フリーター、会社員など、特別な前科もない人々が、なぜ一線を越えてしまうのでしょうか。そこには、現代社会が抱える問題と、人間の普遍的な心理的弱点が複雑に絡み合っています。
甘い罠への第一歩 – 闇バイトへの入り口
すべての始まりは、SNSに溢れる「甘い誘い」です。
- 「＃闇バイト」「＃裏仕事」「＃高額報酬」「＃即日現金」
- 「叩き（強盗）で100万」「受け（受け子）で10万」
- 「リスクなし」「簡単な作業です」
このようなハッシュタグや文言に、なぜ惹かれてしまうのでしょうか。犯罪心理学では、いくつかの要因が指摘されています。
① 金銭的困窮と焦り
奨学金の返済、消費者金融からの借金、ギャンブルで作った負債、あるいは単に「もっと贅沢したい」という欲求。強い金銭的プレッシャーは、人間の正常な判断力を著しく低下させます。特に、返済期限が迫っているなどの切羽詰まった状況では、「怪しい」と頭では分かっていても、「これしかない」という思考に陥りやすくなります（トンネル視野）。
② 社会からの孤立感と承認欲求
友人や家族との関係が希薄で、誰にも悩みを相談できない。社会に自分の居場所がないと感じる。こうした孤立感は、SNS上の見知らぬ相手からの「君を必要としている」「一緒に稼ごう」といった言葉に、本来感じるべきでない「仲間意識」や「承認」を感じさせてしまいます。リクルーターは、こうした心の隙間に巧みに入り込んでくるのです。
③ 楽観主義バイアスと正常性バイアス
「自分だけは捕まらないだろう」「ニュースで見るような事件は他人事だ」。多くの人は、自分にとって都合の悪い情報を過小評価する傾向があります（楽観主義バイアス）。また、目の前に異常な事態が起きても、「大したことはないはずだ」と思い込もうとする心理（正常性バイアス）も働きます。これらの認知バイアスが、「ちょっとだけなら大丈夫」という危険な判断を後押ししてしまうのです。
罪悪感を麻痺させる「認知の歪み」
一度、闇バイトに関わると、次に彼らを待っているのは「罪悪感」との戦いです。しかし、トクリュウのシステムは、この罪悪感を巧みに麻痺させるように設計されています。
① 責任の分散と転嫁
「自分は指示された通りに荷物を受け取っただけ」「電話をかけただけ」。役割が細分化されているため、自分の行為が犯罪全体のどの部分を担っているのかが見えにくくなります。これにより、「悪いのは自分ではなく、指示を出したヤツだ」と責任を転嫁し、自分の罪の重さを矮小化（わいしょうか）してしまうのです。これは、集団で何かを行う際に個人の責任感が薄れる「傍観者効果」にも似た心理メカニズムです。
② 被害者の非人間化
特殊詐欺では、実行犯が被害者と直接顔を合わせることは稀です。電話口で聞こえる声や、名簿に書かれた名前と住所は、生身の人間としての実感を伴いません。相手を単なる「ターゲット」「金づる」と見なすことで、その人の人生を破壊しているという現実から目を背け、罪悪感を感じにくくします。これを心理学では「非人間化」と呼びます。
③ 言葉の言い換え（ユーフェミズム）
トクリュウの世界では、犯罪行為を直接的な言葉で表現しません。
- 強盗 → 「タタキ」
- 受け子 → 「受け」
- 警察 → 「察」
- 現金 → 「ブツ」
このような隠語を使うことで、自分たちの行為を「ただの仕事」であるかのように錯覚させ、犯罪であるという現実感を薄める効果があります。これは、自らの行為を正当化するための心理的な防衛機制の一種です。
一度入ったら抜け出せない恐怖のメカニズム
「やっぱり怖いから辞めたい」。そう思ったときには、もう手遅れです。トクリュウは、応募者が抜け出せないように、周到な罠を仕掛けています。
① 個人情報の掌握と脅迫
闇バイトに応募する際、ほとんどの場合、身分証明書（運転免許証やマイナンバーカード）の写真、顔写真（時には裸の写真）、実家の住所、家族構成などの詳細な個人情報を提出させられます。
そして、辞めたいと申し出ると、
「お前の顔も家も全部わかってるぞ」
「学校や会社にバラすぞ」
「家族に何かあってもいいのか」
といった脅迫が始まります。この恐怖により、若者たちは警察に相談することもできず、従わざるを得ない状況に追い込まれます。
② サンクコスト効果（埋没費用の罠）
一度でも犯行に加担してしまうと、「もう後戻りできない」「ここまでやってしまったのだから、最後までやるしかない」という心理が働きます。これは「サンクコスト効果」と呼ばれるもので、それまでに費やした時間や労力、そして犯してしまった罪の重さが、辞めるという決断を鈍らせるのです。「ここで辞めたら、これまでのリスクが無駄になる」という非合理的な思考に囚われてしまいます。
③ 成功体験と報酬による強化
最初の犯行が成功し、約束通りの報酬（たとえ少額でも）が手に入ると、「思ったより簡単だ」「これで借金が返せる」という歪んだ成功体験が生まれます。この報酬が、恐怖や罪悪感を上回り、次の犯行への心理的ハードルを下げてしまうのです。これは、行動が報酬によって強化される「オペラント条件づけ」と呼ばれる心理学の原理そのものです。
これらの心理的メカニズムが複合的に作用し、若者たちはまるでアリ地獄のように、犯罪の沼から抜け出せなくなっていくのです。
↓↓↓↓↓
第3章 【犯罪心理学】冷酷な支配者「指示役」の心理とは？
実行犯が「恐怖」と「認知の歪み」に支配された存在だとすれば、彼らを操る指示役はどのような心理の持ち主なのでしょうか。彼らの思考回路は、常人には理解しがたい、冷酷さと合理性に満ちています。
実行犯を「駒」としか見ない思考
指示役にとって、SNSで集めた若者たちは、目的を達成するための「道具」であり「駒」に過ぎません。そこには、人間に対する共感や情は一切存在しません。
- 共感性の欠如: 他人が苦しんだり、悲しんだりすることに対して、何も感じません。実行犯が逮捕されようが、被害者が全財産を失い絶望しようが、彼らの心は動きません。関心があるのは、自分の利益だけです。
- 道具的攻撃性: 彼らの暴力や脅迫は、怒りや憎しみといった感情から来るものではありません。実行犯を従わせ、計画を確実に遂行させるための、極めて合理的な「手段」として使われます。感情を排した冷徹な判断ができるからこそ、効果的な脅しが可能になるのです。
この「他人をモノとして扱う」能力は、彼らが安全な場所から多数の人間を操り、大規模な犯罪を組織できる根源的な要因と言えます。
サイコパシー・反社会性パーソナリティ障害との関連
指示役の心理を分析する上で、「サイコパシー（精神病質）」や「反社会性パーソナリティ障害」という概念は避けて通れません。これらは同一ではありませんが、多くの共通点を持っています。
【サイコパシーの特徴】
- 情動・対人関係の欠如: 良心の呵責や罪悪感がない、共感性の欠如、他人を巧みに操る、自己中心的で誇大的。
- 衝動的・反社会的な行動: 刺激を求める傾向、無責任さ、衝動性、少年期の素行問題。
特に、指示役の行動は「情動・対人関係の欠如」という特徴と強く合致します。彼らは、表面的には口達者で魅力的（表面的魅力）に見えることもあり、人を惹きつけ、信用させることに長けています。この能力を悪用し、リクルーターや実行犯を巧みに手なずけるのです。
ただし、すべての指示役が臨床的にサイコパスと診断されるわけではありません。しかし、彼らの行動様式や思考パターンには、サイコパシー的な特性が色濃く見られることは、多くの専門家が指摘するところです。
高い計画性と歪んだ万能感
トクリュウの犯罪は、決して行き当たりばったりではありません。そこには、驚くほど緻密な計画性とリスク管理能力が見られます。
- テクノロジーへの精通: 匿名性の高い通信アプリの利用、海外サーバーを経由した通信、暗号資産（仮想通貨）を利用した資金洗浄（マネーロンダリング）など、最新のIT技術を駆使して捜査の網をかいくぐります。
- 徹底したリスク分散: 指示役自身は決して現場に近づかず、海外など物理的に隔離された場所から指示を出します。実行役を「トカゲの尻尾切り」で切り捨てることで、組織の中枢に捜査が及ぶのを防ぎます。
- 情報収集能力: SNSや闇サイトを通じて、脆弱な若者や金に困っている人間を見つけ出す能力、資産家の情報を収集する能力に長けています。
こうした成功体験を積み重ねることで、彼らの心の中には「自分は絶対に捕まらない」「警察は無能だ」という、現実離れした歪んだ万能感が形成されていきます。この万能感が、さらに大胆で凶悪な犯罪計画へと彼らを駆り立てるのです。
指示役はどのような人物なのか？
では、指示役は一体どこから現れるのでしょうか。その経歴は様々ですが、いくつかの類型が考えられます。
- 元半グレ・暴力団関係者: 従来の犯罪組織で培ったノウハウや人脈を持ちながらも、暴対法などの規制を嫌い、より自由で匿名性の高いトクリュウという形態に移行した者たち。
- IT知識に長けたインテリ層: 高いITスキルを持ちながら、それを社会貢献ではなく自己の利益のために悪用する者たち。特殊詐欺やサイバー犯罪のシステム構築などを担うことが多いです。
- 海外に拠点を持つ犯罪者: 日本国内の法律や捜査が及びにくいことを利用し、海外から犯罪を指揮する者たち。「ルフィ」事件はその典型例です。
彼らは、それぞれが持つスキル（暴力、知能、人脈）をネットワーク上で結びつけ、一人では成し得ない大規模な犯罪を組織しているのです。
第4章 被害に遭わないために・加害者にならないために
トクリュウの脅威は、もはや他人事ではありません。この章では、私たちが具体的に何をすべきか、「被害者にならないため」「加害者にならないため」の両面から考えていきます。
特殊詐欺・強盗から身を守るための具体的な対策（個人・家庭向け）
まず、被害者にならないための対策です。基本的なことですが、徹底することが重要です。
【特殊詐欺対策】
- 留守番電話の常時設定: 在宅中でも留守番電話に設定し、相手の声を確認してから電話に出る。犯人は録音されることを嫌うため、これだけで多くの詐欺電話を防げます。
- 知らない番号には出ない・かけ直さない: 非通知や知らない番号からの電話には、絶対に出ないようにしましょう。
- 「お金」「カード」「暗証番号」は禁句: 電話でこれらの単語が出てきたら、100%詐欺です。家族や警察官を名乗っていても、すぐに電話を切りましょう。
- 家族で合言葉を決めておく: 「ペットの名前は？」「昨日の夕食は？」など、本人しか知らない合言葉を決めておき、電話で必ず確認する習慣をつけましょう。
【強盗対策】
- 防犯設備の強化: 玄関や窓の鍵を二重ロックにする、防犯フィルムを貼る、センサーライトや防犯カメラを設置するなど、物理的に侵入しにくい家にするのが最も効果的です。
- 訪問者には安易にドアを開けない: インターホンで相手をしっかり確認し、少しでも怪しいと感じたらドアを開けず、警察に通報しましょう。宅配業者を装うケースも多発しています。
- 在宅がわかるサインを出しすぎない: 表札に家族全員の名前を書かない、SNSに長期不在の予定を書き込まないなど、個人情報や生活パターンが外部に漏れないように注意しましょう。
- 地域の防犯意識を高める: 近隣住民と日頃からコミュニケーションを取り、不審者情報などを共有することも重要です。
↓↓↓↓↓
若者を闇バイトから守るために社会・家庭ができること
次に、大切な子供や若者を加害者（実行犯）にさせないための対策です。こちらは、より根本的なアプローチが求められます。
① SNSリテラシー教育の徹底
「知らない人からのDMは無視する」「うまい話には必ず裏がある」といった基本的なことから、個人情報を安易にネットに晒す危険性、闇バイトの具体的な手口とリスクまで、学校や家庭で繰り返し教育することが不可欠です。言葉だけでなく、実際の事件を例に出して、その悲惨な結末を具体的に教える必要があります。
② 金銭教育の重要性
なぜお金が必要なのか、どうやって稼ぐのか、借金はどれほど怖いものなのか。お金に関する正しい知識と価値観を身につけさせることは、安易な金銭的誘惑に負けないための土台となります。お小遣いの管理やアルバートなどを通じて、労働の対価としてお金を得ることの大切さを実感させることも有効です。
③ 孤立させない環境づくり
最も重要なのが、「相談できる関係性」を築いておくことです。若者が金銭的な悩みや人間関係のトラブルを抱えたとき、叱責するのではなく、まず「話してくれてありがとう」と受け止め、一緒に解決策を考える姿勢が求められます。家庭が「安全な基地」であるという信頼感が、彼らを危険な道から守る最大の防波堤になります。
④ 貧困や格差への社会的アプローチ
奨学金制度の拡充、若者向けの公的な貸付制度や生活支援、再チャレンジ可能な社会の構築など、若者が経済的な理由で追い詰められないようにするための社会全体のセーフティネットを強化していくことも、根本的な解決には欠かせません。
もし関わってしまったら？勇気を出して相談を！
もし、あなた自身やあなたの家族が、すでに闇バイトに関わってしまっていると気づいたら。恐怖心から誰にも言えず、一人で抱え込んでしまうのが一番危険です。脅迫されていても、解決の道は必ずあります。勇気を出して、以下の窓口に相談してください。
- 警察相談専用電話：#9110
- 緊急の事件・事故ではないけれど、警察に相談したいことがある場合に利用できる全国共通の番号です。匿名での相談も可能です。身の危険を感じる場合は、迷わず110番に通報してください。
- 法テラス（日本司法支援センター）
- 国によって設立された公的な法人で、法的トラブルに関する情報提供や、経済的に余裕のない方への無料法律相談、弁護士費用の立替えなどを行っています。
- 各都道府県の弁護士会
- 多くの弁護士会が、無料または安価な法律相談会を実施しています。闇バイトからの離脱や、脅迫への対処について、法的な観点から具体的なアドバイスをもらえます。
- NPO法人など民間の支援団体
- 若者の自立支援や、犯罪からの更生をサポートする民間の団体も存在します。警察や弁護士には話しにくいことでも、親身に相談に乗ってくれる場合があります。
「自首すれば刑が軽くなる可能性がある」「弁護士が間に入ることで、組織からの直接的な脅迫を防げる場合がある」。一人で悩まず、必ず専門家を頼ってください。未来を諦める必要は絶対にありません。
↓↓↓↓↓
第5章 トクリュウとの闘い – 警察の捜査と今後の課題
凶悪化・巧妙化するトクリュウに対し、警察はどのように立ち向かっているのでしょうか。その最前線と、今後の課題について見ていきます。
警察庁による対策の強化と専門組織の発足
警察庁は、トクリュウを暴力団と並ぶ「治安上の重大な脅威」と位置づけ、対策を大幅に強化しています。
- 合同捜査本部の設置: 都道府県警の垣根を越えた広域事件に対しては、関係する警察が合同で捜査本部を設置し、情報を一元化して対応しています。
- サイバー犯罪対策の強化: 警視庁の「サイバー犯罪対策課」など、専門部署がSNSの監視や通信の解析を進めています。匿名性の高いツールから指示役の痕跡を追う、非常に高度な捜査が行われています。
- 「匿名・流動型犯罪グループ対策室」の設置: 2023年、警察庁は省庁横断的な対策を推進するため、この専門部署を新設しました。情報分析の集約、新たな捜査手法の開発、関係機関との連携強化などを担っています。
国際的な捜査協力の重要性
「ルフィ」事件が示したように、指示役が海外にいるケースは、国内の捜査だけでは限界があります。そのため、国際刑事警察機構（ICPO）を通じた国際手配や、相手国との犯罪人引渡し条約、捜査共助条約に基づく連携が不可欠です。
フィリピンからの容疑者強制送還は、こうした国際協力が結実した例です。今後、トクリュウがさらに拠点を多様化させる可能性を考えると、各国との連携強化はますます重要になります。
根本的な解決への長い道のり
トクリュウとの闘いは、単に犯人を逮捕するだけでは終わりません。その根底にある社会問題に目を向けなければ、同じような犯罪は何度でも繰り返されます。
- 犯罪収益の剥奪: 犯罪で得た利益を、マネーロンダリングなどを通じて徹底的に追跡し、剥奪すること（アセット・フォージチャー）が重要です。「犯罪は割に合わない」と知らしめることが、最大の抑止力になります。
- 実行犯の更生支援: 逮捕された若者たちが、社会復帰し、再び犯罪に手を染めることのないよう、刑務所内での教育プログラムや、出所後の就労支援・居場所づくりといった息の長いサポートが必要です。
- 格差と孤立の解消: 本稿で繰り返し述べてきたように、若者が経済的困窮や社会的孤立から闇バイトに手を出すという構造がある限り、トクリュウの「駒」は生まれ続けます。教育、福祉、雇用の各分野で、社会全体のセーフティネットを再構築していくことが、最も本質的な対策と言えるでしょう。
この問題は、警察だけの問題ではなく、立法、行政、教育機関、そして私たち市民一人ひとりが当事者意識を持って取り組むべき課題なのです。
まとめ 見えない敵を知り、社会全体で立ち向かう
「トクリュウ」という、姿形のない、しかし確実に私たちの社会を蝕む犯罪の脅威。その実態は、SNSという身近なツールを悪用し、人間の心理的弱点を知り尽くした、極めて巧妙で冷酷なシステムです。
この記事では、犯罪心理学の視点から、実行犯となる若者が抱える「金銭的困窮」「孤立感」「認知の歪み」、そして一度関わると抜け出せない「恐怖のメカニズム」を解き明かしました。同時に、彼らを操る指示役の「共感性の欠如」「サイコパシー的傾向」「歪んだ万能感」といった、常軌を逸した心理状態にも迫りました。
重要なのは、この問題を「特殊な人たちの話」で終わらせないことです。
甘い誘い文句は、誰のスマートフォンにも届く可能性があります。
経済的な不安や孤独は、誰の心にも忍び寄る可能性があります。
トクリュウという見えない敵から、自分と大切な人を守るために、私たちは以下のことを心に刻むべきです。
- 知ること: 闇バイトの手口、危険性を正しく理解する。知らないことは、最大の弱点です。
- 疑うこと: 「うまい話」「簡単な仕事」は絶対にないと、常に警戒心を持つ。
- 話すこと: 悩みや不安を一人で抱え込まず、家族や友人、公的な窓口に相談する。社会との繋がりが、最強の盾になります。
- 備えること: 防犯対策を徹底し、犯罪者が狙いにくい環境を作る。
そして、社会全体としては、若者が安易に犯罪に手を染めなくても生きていけるよう、経済的・精神的なセーフティネットを構築していく必要があります。
トクリュウとの闘いは、私たち一人ひとりの意識と行動から始まります。この記事が、その一助となることを心から願っています。
↓↓↓↓↓
↓↓↓↓↓
コメント