
はじめに
「いじめっ子は、大人になってから痛い目を見るのだろうか」「いじめ加害者には、いずれ因果応報が訪れるのだろうか」――いじめ被害を経験した方はもちろん、わが子の加害が発覚して動揺している保護者、教育現場で子どもたちと向き合う教師の方々まで、多くの人がこうした疑問を一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。
インターネット上には「いじめ加害者の末路」「いじめっ子はその後不幸になる」といった刺激的な言説が数多く存在します。しかし、感情的な願望や都市伝説的な噂と、実際の心理学・社会学研究が明らかにしている事実とは、必ずしも一致するわけではありません。
本記事では、欧米を中心に積み重ねられてきた長期追跡調査(縦断研究)や、発達心理学・臨床心理学の知見をもとに、以下の3つの問いに正面から向き合います。
- いじめ加害者は、どのような生育歴を経て加害行動に至るのか
- いじめ加害者には、どのような心理的特徴が共通して見られるのか
- いじめ加害者のその後の人生には、本当に因果応報と呼べるような結果が訪れるのか
なお本記事は、特定の個人を断罪したり、「いじめっ子は一生不幸になるべきだ」という応報感情を煽ったりすることを目的とするものではありません。あくまで研究知見に基づき、加害行動がなぜ生まれ、その後どのような人生の軌跡をたどりやすいのかを冷静に整理し、再発防止と当事者の回復に役立つ視点を提供することを目指しています。
おすすめ1. いじめ加害者とは何か――定義と実態を確認する

「いじめ加害者」と一言でいっても、その実態は一様ではありません。文部科学省の定義では、いじめは「一定の人間関係にある者から、心理的・物理的な影響を与える行為を受けたことにより、対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」とされ、加害・被害の関係は固定的ではなく、立場が入れ替わったり、同時に両方の役割を担ったりするケースも少なくありません。
心理学の研究では、いじめに関わる子どもを大きく次のように分類することがあります。
- 純粋な加害者(Bully):継続的に他者へ攻撃的行動をとるが、自身が被害を受けた経験は少ないタイプ
- 加害・被害者(Bully-Victim):過去にいじめられた経験があり、その後加害側に転じるタイプ
- 追随者・傍観者からの加担者:中心的な首謀者ではないが、集団心理の中で加害行為に加わるタイプ
このうち、特にその後の人生への影響が大きいとされているのが「加害・被害者」タイプです。被害経験と加害経験の両方を持つ子どもは、いずれか一方のみの子どもよりも、抑うつ・不安・対人関係の困難などを抱えやすいという報告が、複数の研究で繰り返し示されています。
おすすめ2. いじめ加害者の生育歴的特徴――何が加害行動の土壌になるのか

いじめ加害行動は、ある日突然子どもの内面に生まれるものではなく、多くの場合、生育環境の中で少しずつ形成されていくと考えられています。ここでは、研究で繰り返し指摘されている生育歴上の要因を整理します。
2-1. 家庭内の温かさの欠如と一貫しないしつけ
複数のメタ分析(多数の研究結果を統合的に分析する手法)では、親からの温かさの欠如・敵意的な態度・一貫性を欠いたしつけが、子どものいじめ加害を含む攻撃的行動のリスクを、小〜中程度の確率で高めることが示されています。これは「絶対にいじめっ子になる」というほど強い関連ではありませんが、無視できない傾向として繰り返し確認されている知見です。
特に、親の感情が不安定で、ある日は厳しく叱るかと思えば、別の日は同じ行動を放置するといった「予測できないしつけ」は、子どもが他者の感情を読み取り、自分の行動を調整する力(自己統制力)を育みにくくする要因として指摘されています。
2-2. 家庭内暴力・体罰的養育環境への曝露
家庭内で配偶者間暴力(DV)が日常的に存在する環境、あるいは体罰や心理的虐待を経験している子どもは、いじめの加害・被害いずれの立場にもなりやすいという、一貫した研究結果が報告されています。これは「世代間連鎖(intergenerational transmission of violence)」と呼ばれる理論で説明されることが多く、家庭内で暴力を「対人関係における問題解決の手段」として学習した子どもが、学校という別の対人関係の場でも同様の手段を用いてしまう、という構造です。
実際、いじめ加害者を14歳時点で特定し、その後32歳まで追跡したイギリスの著名な縦断研究(ケンブリッジ非行発達研究)では、かつて加害者だった人物の子どもも、再び学校でいじめ加害に関わる傾向が見られたと報告されています。これは、いじめ加害という行動パターンが、一世代では終わらず、家庭という単位で受け継がれやすい可能性を示唆する重要な知見です。
2-3. 被害体験から加害へ――「いじめられっ子」が「いじめっ子」になるとき
意外に思われるかもしれませんが、いじめ加害者の中には、過去に自分自身が深刻ないじめや仲間外れを経験している子どもが一定数含まれます。これは前述の「加害・被害者(Bully-Victim)」タイプに該当し、心理学的には以下のようなメカニズムが指摘されています。
- 被害経験によって「自分の身を守るには、先に相手より優位に立つしかない」という認知が形成される
- 自分が受けた痛みを処理しきれず、より弱い立場の他者に向けて発散してしまう(感情の置き換え)
- 集団内での序列を強く意識するようになり、「やられる側」から「やる側」に回ることで安心感を得ようとする
このタイプの加害者は、単純な加害者タイプよりも精神的な不安定さを抱えていることが多く、その後の人生でも抑うつや希死念慮のリスクが相対的に高いという報告があります。つまり「加害者だから苦しんでいない」とは限らず、加害の背景に深い傷つきが存在するケースが少なからずあるのです。
2-4. 発達特性・気質的要因
家庭環境だけでなく、衝動性のコントロールが苦手、報酬への感度が高い(刺激を強く求めやすい)といった気質的・神経発達的な特性も、攻撃的行動のリスク要因として研究されています。ただし、こうした特性を持つ子どもの全員がいじめ加害に至るわけではなく、特性と環境要因が重なり合ったときにリスクが高まる、という「相互作用モデル」で理解されることが一般的です。発達特性そのものを「加害の原因」と単純に断定することは避けるべきだという点は、専門家の間でも強調されています。
おすすめ3. いじめ加害者に共通する心理的特徴

生育歴によって形成された土台の上に、いじめ加害者にはいくつかの共通した心理的特徴が見られることが、多くの研究で報告されています。
3-1. 共感性の働きにくさ(ただし「ゼロ」ではない)
加害者には、他者の痛みを想像する力(認知的共感)や、他者の感情に巻き込まれて自分も辛くなる感覚(情動的共感)が働きにくい傾向があるとされます。ただし近年の研究では、加害者が「相手の気持ちが全く分からない」わけではなく、むしろ「相手がどうすれば一番傷つくかを正確に理解した上で、あえてそれを行っている」ケースもあることが指摘されています。これは「冷たい認知的共感」とも呼ばれ、共感性の欠如というより、共感の使い方が攻撃のために歪んでいる状態と捉えることができます。
3-2. 自己肯定感は「低い」とは限らない
かつては「いじめっ子は内心、自信がなく不安定だからこそ他者を攻撃する」という説が広く信じられてきました。しかし、いじめ研究の第一人者として知られるノルウェーの心理学者ダン・オルヴェウス(Dan Olweus)は、この通説に異を唱えています。オルヴェウスの研究によれば、加害者の自己肯定感は平均的、あるいはむしろ平均より高いケースも多く、いじめ行動は「不安の裏返し」というより、目的を持った、報酬を伴う行動として行われている側面が強いことが示されています。
つまり、加害者の多くは「自分に自信がないから人をいじめる」のではなく、「いじめることで、仲間内での地位や注目、支配感といった“報酬”を得られるからいじめる」という、より戦略的・目的志向的な心理で動いている可能性が高いのです。この知見は、加害者像を単純化しすぎないために重要なポイントといえます。
3-3. 支配欲求とパワーバランスの利用
いじめは、対等な対人関係の中で起こる単発的な対立とは異なり、力の不均衡(パワーインバランス)を前提とした、反復的・意図的な行為であるという点が、いじめ研究における重要な定義の核心です。加害者は、相手が反撃しにくい状況、周囲が守ってくれない状況、同情を集めにくい状況を選んで行動する傾向があることが指摘されています。これは偶発的な衝動というより、ある種の「割に合う計算」に基づいた行動であるとも解釈できます。
3-4. 集団心理・同調圧力との関係
加害行動は、必ずしも一人の「悪い子」によって主導されるわけではありません。集団の中では、直接の首謀者だけでなく、それに同調する追随者、見て見ぬふりをする傍観者が存在し、これら全体の力学によっていじめが維持・拡大されていきます。傍観者の沈黙は、加害者にとって「自分の行動が許容されている」というメッセージとして機能してしまうことが、社会心理学の集団力学研究で繰り返し示されています。
3-5. 認知の歪み(正当化思考)
加害者にしばしば見られるのが、「相手にも原因がある」「これは“いじり”であって“いじめ”ではない」「みんなもやっている」といった、自分の行動を正当化する認知の歪みです。心理学ではこれを「中和の技術(techniques of neutralization)」と呼ぶことがあり、非行・犯罪心理学の領域でも広く研究されている概念です。この正当化思考が強固であるほど、加害者本人が自分の行為の問題性に気づきにくく、結果として更生や行動変容が遅れる傾向があります。
4. いじめ加害者のその後の人生――研究データから見える実態

ここからが、本記事の核心となるテーマです。いじめ加害者は、大人になってから実際にどのような人生を歩む傾向があるのでしょうか。複数の縦断研究(同じ対象者を長期間追跡する調査)から見えてきたデータを紹介します。
4-1. 犯罪歴との関連――オルヴェウスの追跡調査
最も広く引用されている知見のひとつが、前述のダン・オルヴェウスによるスウェーデンでの追跡調査です。中学生時代(日本でいう中学1年〜3年に相当する学年)に教師や同級生から「加害者」と判定された男子生徒を、24歳になるまで追跡したところ、次のような結果が報告されています。
- 加害者と判定された男子のおよそ6割が、24歳までに少なくとも1件の有罪判決(犯罪記録)を受けていた
- そのうち35〜40%は、3件以上の有罪判決を受けていた(これは「再犯を繰り返す、比較的重い犯罪歴」を意味します)
- 一方、加害者にも被害者にも該当しなかった「対照群」の男子で、3件以上の有罪判決を受けていたのは約1割にとどまった
- つまり、加害者群は対照群と比較して、重い再犯歴を持つ確率がおよそ4倍に達していた
このデータは、いじめ加害という行動が、決して「子ども時代だけの一過性の問題」ではなく、対人関係における支配的・攻撃的なパターンとして、その後の人生にも持ち越されやすいことを示しています。別の研究でも、学校でいじめ加害に関わっていた人物が、成人後の暴力犯罪の記録を持つ確率が高いという、同様の傾向が複数の国で確認されています。
4-2. 反社会的行動の継続
犯罪記録という極端な指標だけでなく、より広い意味での反社会的行動――万引きなどの軽微な非行、学校の無断欠席(不登校とは異なる、規範からの逸脱としての欠席)、器物損壊、警察沙汰となるトラブルへの関与なども、加害者群でより高い頻度で見られることが報告されています。これは、いじめという行動が、社会のルールや他者の権利を軽視する、より広範な行動傾向の一部として現れている可能性を示唆しています。
4-3. 物質使用(飲酒・薬物)のリスク
近年のスペインでの成人を対象とした遡及的研究(過去を振り返って回答してもらう調査手法)では、子ども時代に加害者であったと自己申告した成人は、何も経験していない対照群と比べて、アルコールやその他の物質の使用傾向がやや高い結果が示されています。すべての加害経験者が依存症になるわけでは決してありませんが、ストレス対処の方法として物質に頼りやすい傾向がある可能性が指摘されています。
4-4. 対人関係・パートナーシップへの影響
いじめ加害の中核には「力による対人関係のコントロール」というパターンがあります。このパターンが青年期・成人期に持ち越された場合、恋愛関係やパートナーシップにおいても、相手を支配しようとする行動として現れるリスクが懸念されています。先述のケンブリッジ研究では、かつての加害者が、自身の子どもの世代でも再び加害に関わる傾向が報告されており、これは家庭内における力の使い方のパターンが、世代を超えて継承されうることを示す重要な知見です。
4-5. 精神的健康への影響――加害者も無傷ではない
「いじめ加害者は平気な顔で大人になり、何の苦しみも味わわない」というイメージを持つ方は少なくありません。しかし実際には、特に前述の「加害・被害者」タイプにおいて、成人後の抑うつ・不安障害・自尊感情の低下などのリスクが、対照群より高いことが報告されています。加害行為そのものが「心の強さ」の証ではなく、むしろ未解決の心理的な傷つきや、対人関係スキルの未発達を背景に持つ場合があるという視点は、加害者支援や再発防止を考えるうえで欠かせません。
おすすめ5. 「因果応報」は本当にあるのか――心理学・社会学的に検証する

ここまで紹介してきたデータを踏まえて、本題である「因果応報」について、感情論ではなく学術的な視点から整理していきます。
5-1. 因果応報思想とは何か
「因果応報」とは、もともと仏教用語で、「良い行いには良い結果が、悪い行いには悪い結果が、いずれ巡ってくる」という考え方を指します。日常会話では、悪事を働いた人物がのちに不幸な目に遭うことを指して使われることが一般的です。この考え方は、被害を受けた側が「正義はいつか果たされるはずだ」と信じることで心の安定を保つための、重要な心理的機能を果たしている側面があります。
5-2. 研究データが示す「自業自得」の一面
前章で紹介した犯罪歴・反社会的行動・対人関係上の困難に関するデータは、ある意味で「因果応報」的な構造を裏付けているように見えます。力によって他者を支配するという行動パターンを、子ども時代に学習し続けた人物が、大人になってもそのパターンを手放せず、結果として社会的な信頼を失ったり、法的なトラブルに巻き込まれたりする確率が高くなる――これは超自然的な「天罰」ではなく、行動パターンの一貫性が、長期的な人生の結果に影響を与えるという、極めて心理学的に説明可能な現象です。
つまり「因果応報」という言葉が指し示す現象の少なくとも一部は、神秘的な力によるものではなく、幼少期に形成された対人関係のパターンが、環境を変えても引き継がれやすいという、発達心理学的にごく自然なメカニズムとして理解することができます。
5-3. 一方で、「因果応報がない」ように見えるケースも存在する
しかし、研究データを公平に見るならば、すべての加害者が不幸な人生を歩むわけでは決してありません。
- 学業成績や経済的な成功を収め、社会的には「勝ち組」に見える元加害者も一定数存在する
- 加害行為そのものを忘れている、あるいは「子どもの頃のことだから」と軽視し、罪悪感をほとんど抱かずに生きている人物も存在する
- 被害者側が、その後も長期にわたって心身の不調や対人関係の困難を抱え続ける一方で、加害者側が表面的には何の支障もなく日常生活を送っているように見えるケースは、決して珍しくない
このギャップこそが、被害者やその支援者にとって最も納得しがたい部分であり、「世の中には因果応報など存在しないのではないか」という強い無力感や怒りにつながることもあります。これは正直な事実として認める必要があります。研究データが示す「確率としてのリスク上昇」は、あくまで集団としての傾向であり、個々人の人生を保証するものではないのです。
5-4. なぜ私たちは「因果応報」を信じたいのか
社会心理学には「公正世界仮説(Just World Hypothesis)」という概念があります。これは、人間には「この世界は基本的に公正であり、良い行いは報われ、悪い行いは罰せられるはずだ」と信じたいという根源的な心理的傾向がある、という考え方です。この信念は、理不尽な出来事に直面したときに、世界への信頼感を保ち、自分自身の安全感を維持するための、いわば心の防衛機制として機能しています。
被害を受けた方が「いつか加害者にも報いが訪れてほしい」と願う気持ちは、極めて自然で、決して責められるべきものではありません。同時に、その願いが必ずしも目に見える形で叶うとは限らないという現実を理解しておくことも、長期的に自分自身の心を守るうえで大切な視点になります。因果応報を「待つ」ことに人生の重心を置きすぎると、かえって被害者自身が過去の出来事に縛られ続けてしまうリスクがあるためです。
6. 加害者の自覚と更生――変われる人と変わらない人の違い

研究データが示す「確率としてのリスク」は、決して運命ではありません。実際には、子ども時代に加害行為に関わったとしても、その後の人生で大きく行動パターンを変容させ、健全な対人関係を築いている人も数多く存在します。心理学的には、こうした「変化できる人」には、いくつかの共通点があるとされています。
6-1. 加害行為への明確な認識と内省
最も重要とされるのが、自分の過去の行為を「あれは間違いだった」と明確に認識し、正当化思考を手放すプロセスです。前述の「中和の技術」――「相手にも原因があった」「あの程度は普通のことだった」といった自己正当化を続けている限り、行動パターンの修正は起こりにくいことが指摘されています。逆に、何らかのきっかけ(自分自身が傷つく経験をした、信頼できる第三者から率直なフィードバックを受けた、心理療法やカウンセリングを通じて内省を深めたなど)によって認識が変わると、その後の対人関係の築き方も大きく変化しうることが報告されています。
6-2. 安定した対人関係・サポートの存在
加害行動の背景に、家庭内の不安定さや、健全なロールモデルの不在があった場合、成人後に安定した友人関係やパートナーシップ、信頼できるメンターとの出会いを経験することが、行動修正の重要な転機になることがあります。人は、自分を否定せず、かつ問題行動には率直に向き合ってくれる関係性の中でこそ、変化への動機づけを得やすいとされています。
6-3. 専門的な支援へのアクセス
特に「加害・被害者」タイプのように、加害行為の背景に未処理の心理的な傷つきがある場合、カウンセリングや心理療法などの専門的な支援を受けることが、行動パターンの根本的な見直しにつながるケースが報告されています。加害行為を「性格の問題」として固定的に捉えるのではなく、「学習された行動パターンであり、新しい学習によって修正可能なもの」として捉える視点が、本人にとっても周囲にとっても、建設的な変化を支える土台になります。
おすすめ7. 被害者側へのその後の影響との比較
公平な視点を保つために、被害者側のその後の人生についても触れておく必要があります。イギリスで実施された、出生から半世紀にわたる大規模な追跡調査では、子ども時代にいじめ被害を受けた人々は、成人後の精神的健康、対人関係、経済状況など、複数の領域において、有意ではあるものの決して大きすぎはしない規模の悪影響を受けていることが報告されています。研究者らは、この影響の大きさが、児童養護施設への措置や、家庭内での複合的な逆境体験を経験した場合の影響と同程度であったと指摘しており、いじめ被害が「学校だけの一時的な問題」ではなく、人生全体に及ぶ可能性のある重大な経験であることを裏付けています。
興味深いのは、研究データを総合すると、加害者側にも被害者側にも、それぞれ異なる形でその後の人生へのリスクが存在するという点です。加害者は犯罪歴や反社会的行動、対人関係における支配パターンの継続といったリスクを抱えやすく、被害者は抑うつ・不安・身体的な健康問題といったリスクを抱えやすい――いじめという出来事は、関わったすべての人に、何らかの形で長期的な影響を及ぼしうる、決して「軽い問題」ではないということが、これらの研究全体から見えてきます。
8. 加害者が更生するために必要なこと

ここでは、加害者本人が変化していくために有効とされるアプローチを、研究知見に基づいて整理します。
- 早期の介入:加害行動が固定化する前、できるだけ早い段階で大人が介入し、行動の問題点を明確に伝えることが、その後の行動パターンの修正可能性を高めるとされています。
- 共感性を育てるプログラム:学校現場で実施される「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)」などのプログラムは、他者の感情を理解し、適切に対応する力を育てることを目的としており、いじめ加害行動の減少に一定の効果が報告されています。
- 家庭環境への働きかけ:加害行動の背景に家庭内の暴力や不安定なしつけがある場合、子ども本人へのアプローチだけでなく、家庭全体への支援(親へのペアレントトレーニングなど)が、根本的な改善につながることが指摘されています。
- 正当化思考への直接的な働きかけ:「相手にも原因がある」といった認知の歪みに対して、第三者が客観的な事実を提示し、責任の所在を明確にすることが、本人の内省を促すきっかけになります。
- 罰だけに頼らない対応:厳罰のみで対応した場合、表面的な行動は収まっても、根本的な認知や対人関係パターンは変わらず、形を変えて問題が再燃するリスクが指摘されています。行動の背景にある要因への理解を伴った対応が重要とされています。
9. 周囲(保護者・教師・社会)ができること
加害者本人の変化を支えるためには、周囲の大人の関わり方も極めて重要です。
- 保護者:わが子の加害が発覚した際、感情的に否定したり、逆に過度にかばったりするのではなく、事実を冷静に確認し、子ども自身に行為の影響を理解させるプロセスに伴走することが求められます。家庭内のコミュニケーションパターンそのものを見直す機会と捉えることも重要です。
- 教師・学校:加害者を一方的に「悪い子」とラベリングするのではなく、行動の背景にある要因(家庭環境、過去の被害経験、発達特性など)にも目を向けながら、被害者の安全確保を最優先にしつつ、加害者への教育的支援を並行して行う視点が必要です。
- 社会全体:いじめを「子ども同士の些細なトラブル」として矮小化せず、加害・被害双方のその後の人生に長期的な影響を及ぼしうる、重大な対人関係上の問題として捉える社会的な認識が、予防のための土台になります。

10. まとめ
本記事では、いじめ加害者の生育歴、心理的特徴、そしてその後の人生について、研究知見をもとに整理してきました。重要なポイントを振り返ります。
- いじめ加害行動の背景には、家庭内の温かさの欠如、一貫しないしつけ、家庭内暴力への曝露、そして加害者自身が過去に被害を受けた経験など、複数の生育歴的要因が関わっている
- 加害者には、共感性の働き方の歪み、平均的またはそれ以上の自己肯定感、支配欲求、認知の歪みといった心理的特徴が共通して見られることが多い
- 縦断研究のデータでは、いじめ加害に関わった人物は、その後の人生で犯罪歴・反社会的行動・対人関係における支配パターンの継続といったリスクが、統計的に高くなる傾向が示されている
- これは「因果応報」という神秘的な現象としてではなく、幼少期に学習された対人関係のパターンが、その後の人生にも引き継がれやすいという、心理学的に説明可能なメカニズムとして理解できる
- ただし、すべての加害者が同じ道をたどるわけではなく、自覚・内省・適切な支援によって、行動パターンを大きく変容させていく人も数多く存在する
いじめという出来事は、加害者・被害者のいずれにとっても、子ども時代だけで完結する問題ではなく、その後の人生に長く影響を及ぼしうる、重大な対人関係上の経験です。だからこそ、応報感情だけに焦点を当てるのではなく、なぜ加害行動が生まれるのかという構造を理解し、早期の介入と適切な支援によって、加害・被害双方の連鎖を断ち切っていく視点が、社会全体にとって何よりも重要だといえるでしょう。
主な参考情報源
- Olweus, D. (1993). Bullying at School: What We Know and What We Can Do. Blackwell Publishing.
- Takizawa, R., Maughan, B., & Arseneault, L. (2014). Adult Health Outcomes of Childhood Bullying Victimization: Evidence From a Five-Decade Longitudinal British Birth Cohort. American Journal of Psychiatry.
- Ttofi, M. M., Farrington, D. P., Lösel, F., & Loeber, R. (2012). School bullying as a predictor of violence later in life: A systematic review and meta-analysis of prospective longitudinal studies. Aggression and Violent Behavior.
- Lereya, S. T., Samara, M., & Wolke, D. (2013). Parenting behavior and the risk of becoming a victim and a bully/victim: A meta-analysis study. Child Abuse & Neglect.
- Farrington, D. P. (1993). Understanding and preventing bullying. Crime and Justice.(ケンブリッジ非行発達研究)
- González-Cabrera, J. ら(2021). Long-Term Profiles of Bullying Victims and Aggressors: A Retrospective Study. Frontiers in Psychology.

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