「周りの人が何を考えているのか、さっぱりわからない」 「そもそも、自分が今どう感じているのかもわからない」
こうした感覚を抱えてこのページにたどり着いたあなたに、最初にお伝えしたいことがあります。それは、あなたの感受性が壊れているわけでも、人として何かが欠けているわけでもないということです。
他人の気持ちがわからない、自分の気持ちがわからない。この悩みは、心理学では「感情の認識」「共感」「自己理解」「メンタライジング」といったテーマとして、長く研究されてきました。そして多くの場合、その背景には、育ってきた環境、強いストレス、感情を言葉にする習慣の有無、体の感覚への気づきやすさ、考え方のクセ、あるいは生まれつきの特性など、いくつかの理由が重なっています。
大切なのは、「わからない」という状態そのものを責めることではありません。なぜわかりにくいのかという仕組みを知り、自分に合った方法で少しずつ「わかる」感覚を育てていくことです。感情を読み取る力や、自分の内側に気づく力は、生まれつき固定されたものではなく、練習によって変化していくことが知られています。
この記事では、次のことを丁寧に解説します。
- 「気持ちがわかる」とは心理学的にどういうことか
- 他人の気持ちも自分の気持ちもわからなくなる7つの原因
- 自分の気持ちと他人の気持ちが「つながっている」理由
- 今の状態を確かめるセルフチェック(診断ではありません)
- 自分の気持ちがわかるようになる7つの方法
- 他人の気持ちを理解しやすくなる6つの方法
- 専門家に相談したほうがよい目安と、相談先
- よくある質問(FAQ)
記事の最後には、参考にした研究や文献も掲載しています。気になった部分から読み進めていただいて構いません。
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1. 「気持ちがわからない」は珍しいことではない

1-1. 悩んでいるのは、あなただけではありません
「他人の気持ちがわからない」「自分の気持ちがわからない」と聞くと、特別な人の悩みのように感じるかもしれません。しかし実際には、多くの人が人生のどこかで同じ感覚を経験しています。
たとえば、次のような場面に心当たりはないでしょうか。
- 友人や同僚が怒っているのか、ただ疲れているだけなのか、見分けがつかない
- 「あなたはどうしたいの?」と聞かれても、答えが浮かんでこない
- 周りが感動して涙ぐんでいるのに、自分だけ何も感じない気がする
- 嬉しいはずの出来事なのに、嬉しいのかどうかが自分でもわからない
- 相手に気持ちを聞かれて、「別に」「大丈夫」としか言えない
- 人と話したあと、どっと疲れるのに、何が疲れたのかが説明できない
- 恋人や家族から「何を考えているかわからない」と言われる
こうした経験は、決して珍しいものではありません。感情を言葉にしにくい傾向(後ほど詳しく説明する「アレキシサイミア」など)は、一般の人口の1割前後に見られるという報告もあります。つまり、教室や職場に10人いれば、そのうちの1人くらいは、似た悩みを抱えている可能性があるということです。
1-2. 「わからない」にはレベルがある
ひとくちに「気持ちがわからない」といっても、その中身は人によって大きく異なります。ここを整理しておくと、自分に合った対処法を選びやすくなります。
① 感情はあるが、ぼんやりしていて言葉にできない モヤモヤした感じや、胸のざわつきはある。けれど、それが「悲しい」のか「悔しい」のか「寂しい」のかが区別できない状態です。多くの人がこのタイプに当てはまります。
② 感情に気づくのが遅れる その場では何も感じなかったのに、帰宅してから、あるいは数日後に、急に「あのとき本当は嫌だった」と気づく状態です。感情の気づきに時間差があるタイプです。
③ 感情が薄く、平坦に感じられる 喜びも悲しみも、どこか遠くの出来事のように感じられる状態です。強いストレスや疲労、気分の落ち込みのなかで起こることもあります。
④ 感情はあるが、他人の感情を読み取るのが難しい 自分の気持ちは比較的わかるのに、相手の表情や声のトーンから気持ちを推測するのが苦手というタイプです。
⑤ 自分の感情も他人の感情も、どちらもわかりにくい 今回のキーワードにあたるのが、このタイプです。実は、自分と他人の両方が同時にわかりにくいというのは、決して偶然ではありません。その理由は、第4章で詳しく説明します。
自分がどれに近いのか、読み進めながら照らし合わせてみてください。複数に当てはまることも、状況によって変わることもよくあります。
1-3. 「わからない」は、欠陥ではなく「状態」です
もうひとつ、大切な視点があります。それは、気持ちがわからないという状態は、その人の性格や価値の問題ではなく、さまざまな要因で変化する「状態」であるという捉え方です。
たとえば、睡眠不足の日は、普段よりイライラしやすく、人の表情の読み取りもうまくいかなくなります。大きなショックを受けた直後は、感情が麻痺したようになることがあります。長い間「感情を出してはいけない」環境で過ごした人は、感情に気づく習慣そのものが育ちにくくなります。
このように、「わからない」には必ず理由があり、理由があるということは、状況や関わり方を変えれば変化の余地があるということでもあります。
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2. そもそも「気持ちがわかる」とはどういうことか?心理学の基本

原因を理解するために、まず「気持ちがわかる」という働きが、心理学ではどのように説明されているのかを見ていきましょう。ここを知っておくと、自分がどの部分でつまずきやすいのかが見えてきます。
2-1. 他人の気持ちがわかる力:「共感」の2つの種類
心理学では、他人の気持ちを理解する働きである「共感」を、大きく2つに分けて考えるのが一般的です。
認知的共感(頭で理解する共感) 相手の表情、言葉、状況から、「この人は今、こう感じているだろう」と推測する働きです。「相手の立場に立って考える」ことに近く、論理的な推論の要素が含まれます。
情動的共感(心で感じる共感) 相手の喜びや悲しみを、自分も同じように感じ取ってしまう働きです。悲しんでいる人を見ていると、こちらも胸が苦しくなる、といった反応です。
「他人の気持ちがわからない」と感じる人の中には、情動的共感はむしろ強いのに、認知的共感(相手が何を感じているかを言葉で整理すること)が苦手な人もいれば、その逆の人もいます。また、情動的共感が強すぎて、相手の感情と自分の感情が混ざってしまい、「どちらの気持ちなのか」わからなくなる人もいます。
つまり、「共感できない」と一括りにされがちな悩みも、中身はひとつではないのです。
2-2. 「心の理論」と「メンタライジング」
他人の行動の背景に、その人なりの考え・信念・感情・意図があると理解する能力を、心理学では「心の理論(Theory of Mind)」と呼びます。この言葉は、1978年にプレマックとウッドラフが霊長類の研究の中で用いたことで広く知られるようになりました。
また、精神分析や発達心理学の分野では、ピーター・フォナギーらが「メンタライジング」という概念を発展させました。これは、自分や他人の行動を、その背後にある心の状態(感情・欲求・信念など)と結びつけて理解しようとする働きのことです。
ポイントは、メンタライジングが「自分の心」と「他人の心」の両方に向けられる働きだということです。自分の心の状態に目を向けることが苦手な人は、他人の心の状態を想像することにも、難しさを感じやすい傾向があります。この点は、後の第4章でもう一度取り上げます。
2-3. 自分の気持ちがわかる力:「内受容感覚」と「感情の粒度」
では、自分の気持ちがわかるとは、どういうことでしょうか。ここでは2つのキーワードを紹介します。
内受容感覚(ないじゅようかんかく) 心臓の鼓動、呼吸、胃の不快感、筋肉の緊張、体温など、体の内側の状態を感じ取る感覚のことです。感情は、頭の中だけで起こるものではなく、体の反応と深く結びついています。「緊張している」とわかるのは、心臓がドキドキしている、手が冷たい、胸が詰まる、といった体の変化に気づくからです。内受容感覚への気づきやすさには個人差があり、これが感情の認識しやすさにも関わるとされています。
感情の粒度(エモーショナル・グラニュラリティ) 自分の感情をどれだけ細かく区別できるか、という力です。心理学者のリサ・フェルドマン・バレットらが提唱しました。感情の粒度が高い人は、「嫌な気分」を「焦り」「失望」「不安」「苛立ち」「虚しさ」のように細かく区別できます。一方、粒度が低いと、「なんとなく嫌」「しんどい」「むかつく」程度の大きなくくりでしか感じ取れません。
研究では、感情の粒度が高い人ほど、感情をうまく調整しやすい傾向があることが示されています。感情を細かく区別できると、「いま自分に必要なのは休息なのか、話を聞いてもらうことなのか、環境を変えることなのか」が判断しやすくなるからです。
2-4. 「気持ちがわかる」までの流れ
ここまでの内容を、ひとつの流れにまとめてみましょう。
- 刺激が入る(出来事、相手の表情や声、状況など)
- 体が反応する(心拍、呼吸、筋肉の緊張、表情の変化など)
- 体の反応に気づく(内受容感覚)
- ぼんやりした感じが生まれる(快・不快、高ぶり・落ち着きなど)
- 言葉でラベルを貼る(「悔しい」「寂しい」など、感情の粒度が関わる)
- 状況と結びつけて意味づける(「あの言葉を言われたからだ」)
- 他人の同じ状況に重ねて推測する(共感・メンタライジング)
「気持ちがわからない」というとき、この流れのどこかでつまずいている可能性があります。体の反応に気づきにくいのか、言葉にするのが難しいのか、意味づけが偏っているのか。つまずく場所によって、効果的な対処法は変わります。
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3. 他人の気持ちも自分の気持ちもわからなくなる7つの原因

ここからは、気持ちがわかりにくくなる代表的な原因を7つ紹介します。多くの場合、ひとつだけが原因ということはなく、複数が重なり合っています。「これだけが原因だ」と決めつけず、「自分にはどれが近そうか」という視点で読んでみてください。
原因①:感情を抑える習慣・育った環境の影響
最も多く見られる背景のひとつが、感情を表に出さないことが「正解」だった環境で長く過ごしてきたケースです。
たとえば、次のような環境です。
- 「泣くな」「男(女)なんだから我慢しなさい」と言われて育った
- 親が不機嫌になりやすく、顔色をうかがう習慣が身についた
- 自分の気持ちを話しても、否定されたり、取り合ってもらえなかった
- きょうだいや家族の世話に追われ、自分の感情は後回しにしてきた
- 「いい子」「しっかり者」であることを期待され続けた
こうした環境では、「自分の感情に気づくこと」よりも、「周囲の機嫌や期待を読み取ること」のほうが生き延びるうえで重要になります。その結果、他人の様子には敏感なのに、自分の気持ちは感じ取れない、という状態が生まれやすくなります。
心理学の研究でも、感情を意識的に押し隠す「表出抑制」を習慣的に用いる人は、感情の体験が乏しくなりやすく、周囲との親密さも築きにくい傾向があることが報告されています(Gross & John, 2003)。感情を抑える習慣は、短期的には場を乱さないという利点がありますが、長く続けるほど、自分自身の感情に鈍くなっていくというコストを伴います。
もうひとつ見逃せないのが、「他人の顔色を読む力」と「他人の気持ちがわかる力」は別物だという点です。顔色をうかがうのが得意な人は、相手の「機嫌」や「怒りの気配」には敏感でも、それが相手のどんな気持ち(不安なのか、疲れなのか、期待なのか)から来ているのかまでは、読み取れていないことがあります。
【事例】※複数の相談例をもとにした架空のケースです(特定の個人ではありません) 30代のAさんは、子どもの頃、両親の口論が絶えない家で育ちました。家の空気が悪くなりそうな気配を察知して、先に笑顔で場を和ませるのが習慣になっていたそうです。大人になった今、職場では「気が利く人」と評価される一方で、自分が何を食べたいか、休日に何をしたいかを聞かれると、頭が真っ白になってしまうといいます。「他人の機嫌は読めるのに、自分の気持ちは全然わからない」と話していました。
原因②:アレキシサイミア(失感情症)の傾向
「自分の気持ちがわからない」を語るうえで、欠かせないのがアレキシサイミア(alexithymia)という概念です。日本語では「失感情症」や「失感情言語症」と訳されます。
この言葉は、1970年代に精神科医ピーター・シフネオスが、心身症の患者に共通して見られる特徴を表すために提唱しました。ギリシャ語で「感情(thymos)を表す言葉(lexis)が欠けている(a-)」という意味に由来します。
アレキシサイミアの傾向がある人には、主に次の特徴が見られるとされています。
- 自分の感情を識別することが難しい(「どんな気持ちなのかわからない」)
- 自分の感情を言葉で説明することが難しい(「うまく言えない」)
- 外の出来事や事実に注意が向きやすく、内面への関心が薄い(「気持ちより、何が起きたかを話しがち」)
- 感情と体の感覚を区別しにくい(「胃が痛いのか、不安なのか、わからない」)
重要なのは、アレキシサイミアは精神疾患の診断名ではなく、「パーソナリティの特性(傾向)」として扱われる概念だという点です。つまり、ある・なしの二択ではなく、人によって程度が異なります。研究では、一般の人口の約1割程度に、強い傾向が見られると報告されています。
アレキシサイミアの傾向を測る質問紙として、世界的に使われているのが「トロント・アレキシサイミア尺度(TAS-20)」です。1994年にバグビー、パーカー、テイラーらによって開発されました。ただし、こうした尺度はあくまで研究や臨床の補助であり、ネット上のチェックだけで「自分はこうだ」と決めつけるものではありません。
そして、この記事のテーマである「他人の気持ちがわからない」とも、アレキシサイミアは深く関わっています。この点は、第4章で詳しく解説します。
原因③:体の感覚(内受容感覚)に気づきにくい
感情は、体の反応と切り離せません。ところが、現代の生活では、体の声を無視する習慣がつきやすい環境にあります。
- 空腹や眠気を我慢して作業を続ける
- 肩こりや頭痛を「いつものこと」として放置する
- 常にスマートフォンやパソコンを見ていて、体の感覚に注意を向ける時間がない
- 「疲れた」と感じる前に、次の予定に動き出してしまう
こうした習慣が長く続くと、体からのサインに気づく感度が下がります。内受容感覚の研究では、心拍をどれだけ正確に感じ取れるかといった「内受容の正確さ」と、そのことに自分で気づいている度合い(気づき)は、必ずしも一致しないことが示されています(Garfinkel et al., 2015)。
また、感情の認識しにくさと、内受容感覚の働きには関連があるのではないかと考えられており、体の感覚を丁寧に感じ取るトレーニングが、感情の理解を助ける可能性が研究されています。
「イライラしているのに気づかず、肩がガチガチになっていた」「不安なのに、胃の痛みとしてしか感じられない」といった経験があるなら、このタイプの可能性があります。そのような人にとっては、感情を「頭」で考えるのではなく、まず体の感覚を拾い上げることが近道になります(具体的な方法は第6章で紹介します)。
をしている人_202605041551-1024x572.jpeg)
原因④:強いストレス・疲労・うつ状態による「感情の麻痺」
次に見落とせないのが、一時的に、あるいは一定期間、心のエネルギーが落ちているために、感情が感じにくくなっているケースです。
人は、強いストレスや心身の疲労が続くと、感情を感じること自体を無意識に遮断して、自分を守ろうとすることがあります。たとえば、次のようなときです。
- 長時間労働や人間関係の緊張が長く続いている
- 大きな喪失(死別、失恋、失職など)を経験した
- 睡眠不足や慢性的な疲労が続いている
- 育児や介護で、休める時間がほとんどない
- 気分の落ち込みが続き、何をしても楽しく感じない
うつ病の症状として、「喜びや興味の喪失」「感情が平坦になる感覚」「何も感じないという感覚」が挙げられることがあります。もしこのタイプの変化が、以前の自分とは明らかに違う形で最近現れているのであれば、それは性格の問題ではなく、心身が休息や支援を必要としているサインかもしれません。
この場合、感情を理解するための「練習」よりも先に、休息、睡眠、環境の調整、そして必要に応じた専門家への相談が優先されます。無理にトレーニングをしようとすると、かえって負担になることがあります。
「以前は感じられていたのに、最近感じなくなった」「2週間以上、ほとんどの日に気分が沈む・何にも興味が持てない」といった変化がある場合は、第9章の相談の目安もあわせて確認してください。
原因⑤:感情を表す言葉(感情語彙)が少ない
意外に見落とされがちですが、感情を表現する言葉の引き出しが少ないことも、自分の気持ちがわからない大きな理由になります。
私たちは、「言葉を持っている感情」を、よりはっきり感じ取る傾向があります。心理学者バレットの「構成された情動理論」では、感情は体の反応そのものというより、体の感覚を、これまでの経験や知識(言葉や概念)をもとに意味づけすることで「構成される」と考えられています。この考え方に立つと、感情を表す言葉を知っているかどうかが、感情の体験の細やかさに影響する、ということになります。
日常的に使う感情の言葉が、「ムカつく」「しんどい」「やばい」「微妙」「普通」くらいに限られていると、実際には次のような違う感情が混ざっていても、すべて同じ大きな箱に入ってしまいます。
- 期待が外れた「失望」
- 認められなかった「悔しさ」
- 状況をコントロールできない「焦り」
- 自分だけ取り残された「寂しさ」
- 恥をかいた「恥ずかしさ」
- 理不尽さへの「憤り」
これらはどれも「嫌な気持ち」ですが、必要な対応はまったく異なります。「悔しさ」なら努力や再挑戦が、「寂しさ」なら人とのつながりが、「憤り」なら境界線を引くことが助けになるかもしれません。
さらに、感情語彙の不足は、他人の気持ちを推測する場面でも不利に働きます。相手の表情を見ても、「怒っている」と「悲しんでいる」「焦っている」を区別するための選択肢が頭の中に少ないため、読み取りの精度が落ちてしまうのです。
感情語彙は、大人になってからでも増やすことができます。具体的な方法は第6章で紹介します。

原因⑥:思い込みや認知のクセ(読心術・投影・自分基準)
3つ目は、気持ちの「感じ取り方」ではなく、気持ちの「解釈の仕方」に偏りがあるケースです。他人の気持ちがわからないと悩む人の中には、実は「わからない」のではなく、「間違った推測を、確信に近い形で持ってしまっている」人も少なくありません。
認知行動療法の分野では、次のような考え方のクセ(認知の歪み)が知られています。
読心術(マインドリーディング) 相手が何も言っていないのに、「きっと私のことを嫌っている」「呆れているに違いない」と決めつけてしまうクセです。根拠が表情の一瞬の変化や、返信の遅さなど、ごく小さなことであっても、頭の中で結論にまで飛躍してしまいます。
投影 自分の感情や考えを、無意識のうちに相手のものとして見てしまうクセです。たとえば、自分が不安なときに、相手も同じように不安がっていると感じたり、自分が怒りを抑えているときに、相手が怒っているように見えたりします。
自分基準での解釈 「自分ならこう感じるはず」という基準で他人を見てしまうクセです。たとえば、「自分なら、この状況でこんなことを言われたら嬉しい」と思って伝えた言葉が、相手には負担になることがあります。感じ方の違いを「理解できない」と受け取って、「この人の気持ちがわからない」と感じることもあります。
全か無か思考 「完全にわかる」か「全然わからない」の二択で捉えてしまうクセです。少し読み取れなくても、「やっぱり自分は人の気持ちがわからない人間だ」と結論づけてしまいます。
これらは誰にでもあるクセですが、強く出ると、「相手の本当の気持ち」ではなく「自分の頭の中の相手」と向き合ってしまう状態になります。その結果、現実の相手とのズレが大きくなり、「他人の気持ちがまるでわからない」という感覚につながります。
このタイプの場合、「感じ取る力」を鍛えるというより、推測と事実を分けて、確認する習慣を身につけることが効果的です(第7章で詳しく解説します)。
原因⑦:発達特性・トラウマ・愛着など、背景にある要因
最後に、少しデリケートですが、生まれつきの特性や、過去の体験が関わっている場合があります。ここでは、あくまで一般的な情報として、慎重にお伝えします。
発達特性との関連 自閉スペクトラム症(ASD)の特性をもつ人の中には、他人の表情や声のトーン、暗黙のルールから感情を読み取ることに難しさを感じる人がいます。ただし近年の研究では、「ASDの人は共感できない」という単純な見方は見直されてきています。たとえば、ASDの人の約半数にアレキシサイミアの傾向が見られるというメタ分析(Kinnaird et al., 2019)や、「共感の困難さは、ASDそのものではなく、併存するアレキシサイミアの度合いと関連している」という研究結果(Bird et al., 2010)があります。つまり、他人の感情への反応の違いは、「感情を認識する力」の個人差による部分が大きい可能性が指摘されているのです。
また、ADHDの特性がある人は、衝動性や注意の向けにくさから、感情に気づくのが遅れたり、感情の波に飲み込まれてしまったりすることがあります。
感覚の敏感さ 音、光、人の気配などに強く反応しやすい人(HSPという言葉で知られる気質)は、他人の感情を「感じすぎる」あまり、自分の感情と他人の感情の区別がつかなくなり、疲れてしまうことがあります。なお、HSP(Highly Sensitive Person)は医学的な診断名ではなく、心理学者エレイン・アーロンが提唱した気質の概念です。
トラウマや愛着の影響 幼少期の強いストレスや、安心できる養育者との関係が築きにくかった経験は、感情を調整したり、感じ取ったりする力の発達に影響することがあります。強いトラウマ体験の後には、心が自分を守るために、感情を切り離す(解離のような反応が起こる)ことも知られています。
おすすめ【大切な注意】 ここで挙げた特性や背景は、「あなたはこれに当てはまる」と判断するためのものではありません。自己判断でラベルを貼ることは、かえって自分を縛ってしまうことがあります。 気になる場合は、診断ができる医師や、心理の専門家に相談するのが安全です。また、診断がつかなくても、「わかりにくさ」を軽くする方法は十分にあります。
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4. 自分の気持ちと他人の気持ちは「つながっている」

ここまで読んで、ひとつ疑問に思ったかもしれません。「なぜ、自分の気持ちも他人の気持ちも、同時にわからなくなるのだろう?」ということです。
その答えは、自分の感情を理解する力と、他人の感情を理解する力は、脳と心の中でかなり共通した仕組みを使っているからです。
4-1. 自分の感情が土台になる
私たちは他人の感情を推測するとき、無意識のうちに「もし自分がこの状況だったら、どう感じるか」を手がかりにしています。これは「シミュレーション」と呼ばれる考え方に近いものです。
つまり、自分の中に「悲しい」「悔しい」「不安」といった感情の経験と、その言葉や感覚のストックが豊富にあるほど、他人の感情を推測するための材料が増えることになります。逆に、自分の感情をあまり認識せずに生きてきた場合、そのストックが少なく、他人の感情を推測する際にも「材料不足」になりやすいのです。
4-2. 研究が示すこと
神経科学の研究にも、この関係を示唆するものがあります。たとえば、他人が痛みを感じている場面を見たとき、脳の「島皮質」と呼ばれる領域が活動することが知られています。この領域は、自分自身の体の内側の状態を感じ取るときにも重要な役割を果たしています。
そして、前述のバードらの研究(2010年)では、他人の痛みを見たときの島皮質の反応の強さが、自閉症傾向の強さではなく、アレキシサイミア(自分の感情の認識しにくさ)の強さと関連していたことが報告されています。この結果は、「自分の感情の認識のしにくさ」が、「他人の感情への反応のしにくさ」に関わっている可能性を示唆しています。
ただし、研究結果はあくまで一定の条件下での知見であり、すべての人にそのまま当てはまるわけではありません。また、「他人の気持ちがわからない」背景には、第3章で見たように、認知のクセや環境など、他の要因も深く関わっています。それでも、「自分の気持ちを理解する力」と「他人の気持ちを理解する力」が相互に影響し合っているという見方は、悩みを整理するうえで非常に有益です。
4-3. 希望のある話:片方を育てると、もう片方も変わりやすい
この関係には、前向きな側面もあります。両方が連動しているということは、自分の気持ちに気づく練習を重ねることが、他人の気持ちへの理解を深めることにもつながりうるということです。
「他人の気持ちがわからないから、人とうまく関われない」と思うと、解決策が見えにくくなります。しかし、「まずは自分の気持ちを少しずつ言葉にしてみよう」であれば、ひとりで、今日から、小さく始めることができます。
次の第5章でいまの状態を確認したあと、第6章で自分の気持ちを育てる方法、第7章で他人の気持ちを理解する方法を、順に解説していきます。
5. セルフチェック:あなたの「わかりにくさ」はどのタイプ?

ここで、今の自分の状態を整理するための簡単なセルフチェックを行ってみましょう。
【ご注意】 このチェックは、診断や医学的な評価を行うものではありません。自分の傾向を振り返り、対処法を選ぶための「ヒント」 として使ってください。点数の高低で、自分の価値や状態を判断しないようにしてください。
チェックリスト(当てはまるものに印をつけてください)
【A:自分の気持ちの気づきやすさ】
- □ 「いまどんな気持ち?」と聞かれると、答えに詰まることが多い
- □ モヤモヤはあるが、悲しいのか怒っているのか区別がつかない
- □ 感情に気づくのが、数時間〜数日遅れることがよくある
- □ 好きな食べ物や休日の過ごし方など、自分の好みを答えるのが難しい
【B:体の感覚との結びつき】
- □ 空腹・眠気・疲れに気づくのが遅れ、限界まで我慢してしまう
- □ 強い緊張やストレスを、頭痛・腹痛・肩こりなど体の不調として感じることが多い
- □ 体の感覚と気持ちの違いが、よくわからない
【C:他人の気持ちの読み取り】
- □ 相手の表情や声のトーンから、気持ちを読み取るのが苦手だと感じる
- □ 相手が怒っているのか疲れているのか、判断がつかないことがある
- □ 「どうしてそんなことで泣くの?」「なぜ怒るの?」と思うことがよくある
- □ 逆に、他人の感情を感じすぎて、自分の気持ちと混ざってしまう
【D:考え方のクセ】
- □ 相手の沈黙や短い返信を、「嫌われた」と結論づけてしまうことがある
- □ 「自分の気持ちがわからない人間は、おかしい」と自分を責めがちだ
- □ 「普通はこう感じるはず」という基準で、自分や他人を判断しがちだ
【E:最近の変化】
- □ 以前より、明らかに感情が平坦になった、または何も感じにくくなった
- □ 2週間以上、気分の落ち込みや強い疲労が続いている
- □ 眠れない、食欲が大きく変わった、何にも興味がわかない
結果の見方(目安)
Aに多く当てはまる場合 感情の言語化や粒度に課題がある可能性があります。第6章の「感情ラベリング」「感情語彙リスト」「感情日記」が役立ちます。
Bに多く当てはまる場合 体の感覚への気づきを育てることが近道かもしれません。第6章の「体の感覚から入る方法」「フォーカシング」「マインドフルネス」から始めてみてください。
Cに多く当てはまる場合 他人の感情の読み取りに難しさがあるタイプです。第7章の具体的な方法を試しながら、場合によっては特性について専門家に相談することも選択肢になります。
Dに多く当てはまる場合 感じ取る力よりも、解釈のクセが影響している可能性があります。第7章の「推測と事実を分ける」習慣が効果的です。
Eに複数当てはまる場合(特に注意) 心や体が疲れ切っているサインかもしれません。トレーニングよりも先に、休息と、必要に応じた専門家への相談を優先してください(第9章を参照)。
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6. 自分の気持ちがわかるようになる7つの方法

ここからは、実践編です。まずは「自分の気持ち」から取り組みます。第4章で見たように、自分の気持ちへの気づきは、他人の気持ちを理解するための土台にもなるためです。
最初にお伝えしたいのは、一度にすべてをやろうとしなくてよいということです。7つの方法のうち、「これならできそう」と思えるものをひとつだけ選び、1〜2週間ほど続けてみてください。感情への気づきは、筋トレのように少しずつ育っていくものです。
方法①:まず「体の感覚」から入る(ボディスキャン)
感情がわからないとき、いきなり「いま何を感じている?」と頭で考えても、答えは出にくいものです。そこで、感情の入り口である「体の感覚」から拾い上げることから始めます。
やり方(所要時間:3〜5分)
- 椅子に座るか、横になって、楽な姿勢をとります
- 目を閉じるか、視線を一点に落とします
- 呼吸に意識を向け、お腹や胸が動く感じを数回味わいます
- 次に、頭、顔、首、肩、胸、お腹、腕、手、腰、脚、足先の順に、ゆっくり注意を移していきます
- それぞれの部位で、「温かい/冷たい」「重い/軽い」「緊張している/ゆるんでいる」「痛い/ムズムズする」といった感覚を、評価せずに観察します
- 最後に、「いちばん気になった場所はどこか」を確認します
大切なのは、「正しく感じ取れたか」を気にしないことです。「何も感じない」という日があっても、それも立派な観察結果です。「今日は、感じにくいな」と気づけただけで、十分に練習になっています。
ポイント: 胸のあたりがぎゅっと重いなら「悲しみ・不安」、喉の奥が詰まるなら「言えない気持ち」、胃のあたりがざわざわするなら「緊張・焦り」というように、自分なりの「体と感情の対応表」を少しずつ作っていくと、気づきの精度が上がっていきます。
方法②:感情に「ラベル」を貼る(感情ラベリング)
感情を言葉にする「感情ラベリング」は、心理学的にも効果が確認されているシンプルな方法です。
2007年に、リーバーマンらがカリフォルニア大学ロサンゼルス校で行った脳画像研究では、怒りや恐れなどの感情を伴う表情の画像を見ているとき、その感情を言葉で表現(ラベリング)すると、感情を司る「扁桃体」の活動が低下することが報告されました。つまり、感情を言葉にすることには、感情の強さを和らげる働きがある可能性が示されたのです。
やり方
- 嫌な気持ち・モヤモヤを感じた瞬間に、「いま、私は〇〇を感じている」という形で、心の中で言葉にします
- ぴったりくる言葉が見つからなければ、「〇〇に近いかもしれない」「〇〇と△△が混ざっている感じ」でも構いません
- 言葉にしたあと、感情を消そうとせず、「そう感じているんだな」と一度受け止めます
例
- 「いま、私は焦りを感じている。上司に呼ばれたときから、胸がそわそわしている」
- 「悔しさと、ちょっとした恥ずかしさが混ざっているかもしれない」
「ぴったりの言葉」を探すこと自体が、感情への注意を向ける練習になります。
方法③:1日3行の「感情日記」をつける
感情日記は、続けやすさと効果のバランスがよい方法です。書く量が多いと続かないので、1日3行だけにします。
フォーマット(例)
- 今日いちばん心が動いた出来事:(例:会議で意見を言ったら、うなずいてもらえた)
- そのときの体の感覚:(例:肩の力が抜けた、胸が少し温かくなった)
- 感情にラベルを貼ると:(例:ほっとした、少し誇らしい)
3行が難しい日は、「しんどかった」の一言でも構いません。大切なのは続けることと、書いた内容を評価しないことです。
数週間続けると、「自分はこういう場面で疲れやすい」「こういう言葉をかけられると嬉しい」といった、自分の感情のパターンが見えてきます。このパターンの理解は、自分を知る大きな手がかりになります。
また、ポジティブな感情にも目を向けることがポイントです。「嬉しかったこと」「ほっとしたこと」を意識的に書き残すと、感情の幅が広がり、感情の粒度も高まりやすくなります。

方法④:感情語彙を増やす(感情の輪・感情リストの活用)
原因⑤で見たように、感情語彙の少なさは、自分の気持ちがわかりにくい理由のひとつです。そこで、感情を表す言葉のストックを意識的に増やします。
感情語彙を増やす具体的な方法
- 「感情の輪(Feelings Wheel)」を使う:心理学者ロバート・プルチックの感情モデルなどをもとにした、感情を円状に整理した図です。ネットで検索すると、日本語版も見つかります。中心に基本的な感情、外側に細かな感情が配置されており、「なんとなく嫌」を細かく分けるヒントになります
- 「感情リスト」を手元に置く:スマホのメモに、感情の言葉を50〜100個ほど書いておき、日記のときに見返します
- 小説・エッセイ・漫画を読む:登場人物の気持ちが、どんな言葉で描かれているかに注目すると、自然に語彙が増えます
- 「〇〇な気持ち」の引き出しを意識する:ニュースや映画を見たとき、「この人は、悲しいというより『やるせない』感じだな」と、少し細かく言い換える練習をします
感情語彙の例(ネガティブ) 焦り、不安、緊張、失望、落胆、悔しさ、苛立ち、憤り、嫉妬、羨望、虚しさ、寂しさ、孤独、後悔、罪悪感、恥ずかしさ、気まずさ、疲労感、あきらめ、無力感
感情語彙の例(ポジティブ) 安心、ほっとする、嬉しい、楽しい、わくわく、誇らしい、感謝、満足、穏やか、おだやか、愛おしい、すっきり、希望、達成感、心地よさ
「感情は、言葉を知るほど、感じ分けられるようになる」。これが感情語彙を増やすことのいちばんの意味です。
方法⑤:フォーカシングで「ぼんやりした感じ」に寄り添う
「何か引っかかるのに、言葉にならない」という感覚に向き合うための方法として、心理学者ユージン・ジェンドリンが開発したフォーカシングがあります。
ジェンドリンは、人の体の内側には、まだ言葉になっていない「フェルトセンス(体で感じられる意味のある感じ)」があると考えました。これは、感情や状況についての、ぼんやりしているけれど確かな「からだの実感」のことです。
簡易版のやり方(5〜10分)
- 静かな場所で、楽な姿勢をとり、体の内側に注意を向けます
- 「いまの自分の状態はどんな感じだろう?」と、やさしく問いかけます
- 胸やお腹のあたりに感じられる「感じ」に、注意を向けます(重い、ざわざわする、詰まる、空っぽなど)
- その感じに合う「言葉・イメージ・動作」が浮かぶまで、焦らず待ちます(例:「どんより」「石が乗っている」「引っ張られる感じ」)
- 浮かんだ言葉を、その感じに当てて確認します。「ぴったり」と体がうなずく感じがあれば、それが手がかりです
- 最後に、「教えてくれてありがとう」と、その感じに感謝して終わります
フォーカシングは、「正解を探す」のではなく、体の実感と言葉のズレが少しずつ合ってくる過程そのものを味わう方法です。うまくいかなくても気にしないで大丈夫です。
方法⑥:小さな「好き・嫌い」「選択」の練習をする
「自分の気持ちがわからない」人は、日常生活の中で、自分の好みや意見を後回しにしてきたことが少なくありません。そこで、ごく小さな選択から、「自分の気持ちを基準に選ぶ」練習をします。
練習の例
- 今日の飲み物を、「自分がいちばん飲みたいもの」で選ぶ(「みんなが頼んでいるから」ではなく)
- メニューを見て、「正直いまどれが食べたい?」と、体に聞いてみる
- 2つの選択肢のうち、「どちらにワクワクするか/どちらに気が重くなるか」を感じてみる
- 1日1回、「いやだな」と思ったことを、心の中でだけ認める(行動に移さなくても構いません)
- 友人からの誘いに、「行きたい」「行きたくない」「どちらでもない」を一度自分に聞いてから返事をする
最初は、「どちらでもいい」と感じることが多いかもしれません。それも自然なことです。繰り返すうちに、「何となくこちらのほうが落ち着く」という、微細な好みの手応えが出てきます。その小さな手応えが、自分の気持ちを知る手がかりになります。
方法⑦:マインドフルネス瞑想で、感情との「距離感」を育てる
マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に、評価や判断を加えず、ただ気づいている」状態を育てる実践です。感情や思考を「自分そのもの」ではなく、「いま浮かんでいるもの」として眺める力を養います。
簡単な呼吸の瞑想(所要時間:3〜10分)
- 背筋を軽く伸ばして座り、目を閉じるか、視線を斜め下に落とします
- 呼吸の感覚(鼻を通る空気、お腹の動き)に注意を向けます
- 考え事や感情が浮かんだら、「考えているな」「不安が出てきたな」と心の中で名前をつけます
- そして、また呼吸に注意を戻します
- これを繰り返します
呼吸から気がそれることは、失敗ではなく、「気がそれたことに気づく」こと自体が練習です。この「気づく」経験を重ねることで、感情が現れたときにも、飲み込まれずに気づけるようになっていきます。
注意点: 過去にトラウマ体験がある方や、強い不安・抑うつがある方は、瞑想によって苦しい感覚が強く出てくることがあります。その場合は無理をせず、中断して、専門家に相談しながら進めてください。
練習を続けるコツ:「できたかどうか」ではなく「気づけたかどうか」
最後に、これらの練習を続けるための考え方をお伝えします。
- 「感じなければ」と思わない:感じ取れない日があって当然です。「今日は感じにくいな」と気づけたら、それで十分です
- 1日1分からでよい:まとまった時間が取れなくても、トイレや通勤中に、体の感覚を30秒確認するだけでも練習になります
- 効果を急がない:感情への気づきは、数日では変わりにくいものです。2〜3か月単位で、「以前より少し気づけるようになったかも」と振り返るくらいが現実的です
- 記録する:「前より言葉が増えた」「体の反応に気づく回数が増えた」など、小さな変化をメモしておくと、成長が実感できます
・【書籍】人の気持ちがわかる人、わからない人
・【書籍】自分の気持ちをきちんと伝える技術
・【書籍】上手に「自分の気持ち」を出す方法
・【書籍】自分の気持ちがわからない沼から抜け出したい
7. 他人の気持ちを理解しやすくなる6つの方法

次は、「他人の気持ちがわからない」への対処法です。ここで最初に押さえておきたい大前提があります。
他人の気持ちを、100%正確に読み取れる人は、誰もいません。
心理学の研究でも、人が他人の感情を推測する正確さは、思われているほど高くないことが知られています。つまり、「わからない」のは自然なことであり、目指すべきは「完璧に読み取る」ことではなく、「わからないなりに、相手を理解しようとする姿勢と、確認する技術を身につける」ことです。
方法①:「事実」と「解釈」を分けて観察する
他人の気持ちを考えるとき、多くの人は、観察した事実とそれに対する解釈を一気に混ぜてしまいます。ここを分けるだけで、読み取りの精度が上がり、思い込みも減らせます。
例
- ❌ 「あの人は私に怒っている」(解釈)
- ✅ 「あの人は、挨拶に返事をしなかった。眉間にしわが寄っていた」(事実)
事実を書き出したあと、「その事実から考えられる可能性」を3つ以上あげてみます。
- 私に怒っている
- 別のことで悩んでいて、余裕がない
- 体調が悪い
- 単に気づいていなかった
- 急いでいた
候補が複数見つかるだけで、「自分のせいだ」と決めつけにくくなります。これは、認知行動療法でも使われる考え方です。
方法②:相手の「表情・声・しぐさ」に注目するトレーニング
非言語的なサインを読み取る力は、意識的に練習することで磨くことができます。ただし、「この表情はこの感情」と決めつけすぎないことが重要です。
観察のポイント
- 表情: 目元(細まっているか、見開いているか)、口元(上がっているか、下がっているか、引き結ばれているか)、眉の動き
- 声: 普段より高い/低い、早口/ゆっくり、声が小さい/大きい
- しぐさ: 腕を組む、目をそらす、そわそわ手を動かす、体の向き
- 普段との違い: その人の「いつも」と比べて、どこが違うか
特に大切なのは、「普段との違い」に目を向けることです。人によって、もともとの表情や話し方は異なります。普段から無表情な人が、さらに静かになったとき、それは何らかのサインかもしれません。
日常でできる練習
- 映画やドラマを、音を消して少しだけ見て、登場人物の気持ちを推測する。その後、音を戻して答え合わせをする
- 人の表情を見て、感情の名前をつける練習をする(街中で、ただ観察する)
- 信頼できる人に、「いまの私の表情、どう見える?」と聞いてみる
方法③:わからないときは、質問して「確認」する
他人の気持ちがわからなくて悩む人にとって、最も効果的で、最も見落とされがちな方法が、「直接、聞く」ことです。
「察して理解する」ことが理想だと思い込んでいる人は多いのですが、実際には、察することが難しい場面ほど、質問して確認するほうが、お互いにとって負担が少ない場合がよくあります。
質問の例
- 「いま、どんな気持ちか聞いてもいい?」
- 「もしかして、疲れてる? それとも何か気になることがある?」
- 「私の言い方で、嫌な思いをさせてしまったかな?」
- 「どうしてほしいか、教えてもらえるとありがたい」
質問をするときは、次の点に気をつけましょう。
- 尋問のようにならない:「どうして怒ってるの?」より、「何か気になることがあった?」のほうが、相手が答えやすくなります
- 相手が答えたくないときは、無理に聞かない:「話したくなったら、いつでも聞くよ」と伝えるだけでも十分です
- 答えを否定しない:相手が「大丈夫」と答えたなら、一度それを受け取り、必要なら少し時間を置いて、再度声をかけます
「察する」より「確認する」。これは、決して冷たいことでも、能力が低いことでもありません。むしろ、相手を勝手に決めつけず、尊重している態度です。

方法④:自分の経験を「手がかり」にする
第4章で見たように、他人の気持ちを推測するとき、私たちは自分の経験を手がかりにしています。ここでは、それを意識的に活用します。
やり方
- 相手の状況を、具体的に思い浮かべます(例:「大切なプロジェクトが失敗したとき」)
- 自分に似た経験がないかを探します(例:「受験に失敗したとき」「大事な発表で失敗したとき」)
- そのときの自分の気持ちを、思い出します(例:「悔しかった、恥ずかしかった、周りに合わせる顔がなかった」)
- それを「仮説」として、相手に当てはめてみます(「もしかして、同じような気持ちかもしれない」)
- ただし、「自分と同じとは限らない」と、必ず付け加えます
ここで大切なのは、自分の経験は「答え」ではなく「仮説」であるという意識です。第3章の「自分基準での解釈」「投影」に注意しながら、あくまで確認の入り口として使います。
自分の感情の経験が少ない、と感じる場合は、小説、映画、ドキュメンタリー、体験談などを通じて、他人の経験を「疑似体験」する方法も有効です。物語に触れることは、他者の内面を想像する力を育てる助けになる、という研究もあります。
方法⑤:傾聴の基本を身につける
相手の気持ちを理解するうえで、土台となる技術が「傾聴」です。特別な才能は必要なく、型を覚えれば誰でも練習できます。
傾聴の基本スキル
- うなずき・あいづち: 「うん」「そうなんだ」「なるほど」など、聞いていることを示す
- 繰り返し(オウム返し): 相手の言葉の一部を、そのまま返す(例:「仕事が大変だったんだね」)
- 要約: 相手の話の要点を、短くまとめて確認する(例:「つまり、準備不足だったのに、急に任されて困ったってことかな」)
- 感情の反映: 相手の話から感じ取れる気持ちを、言葉にして返す(例:「それは悔しかったね」「不安になるよね」)
- アドバイスを急がない: 解決策を出す前に、まず気持ちを受け止める
注意: 感情の反映は、「当たっているかどうか」を気にしすぎなくて大丈夫です。「〜かな?」「〜という感じ?」と、仮説として添えることで、外れても修正してもらえます。むしろ、外れたときに相手が「いや、実は〜」と本音を話してくれることもあります。
方法⑥:「わからない」を前提に、相手を尊重する
最後に、最も大切な心構えです。
他人の気持ちは、基本的には「わからない」もの。この前提に立つと、気持ちが楽になり、関わり方も変わります。
「わからなければいけない」と思うほど、焦りや自己否定が強まり、相手の様子も見えにくくなります。逆に、「わからないから、教えてもらおう」「わからなくても、大切に思っていることは伝えよう」と考えると、関係の質が変わってきます。
「わからない」と素直に伝える言い方の例
- 「正直に言うと、いまどう感じているのか、うまく想像できなくて。もう少し教えてもらえるかな?」
- 「力になりたいけど、どうしたらいいのかがわからなくて。何かしてほしいことはある?」
- 「うまく言葉にできないけど、あなたの話を聞きたいと思っているよ」
こうした言葉は、「理解してくれようとしている」という誠実さを相手に伝えます。気持ちを完璧に当てることよりも、理解しようとする姿勢のほうが、関係を深めることが多いのです。
場面別ヒント:職場・恋愛/家族・友人関係
職場の場合
- 相手の感情を推測するより、事実・期待・期限・困りごとを確認するほうが、実務的に効果的です(例:「この件、いつまでに、どの程度まで仕上げればよいですか?」)
- フィードバックを受けたとき、感情的な意味より具体的な行動の指摘に注目すると、受け止めやすくなります
- 「察してほしい」職場文化に疲れたら、確認の質問を自分のスタイルにすることも一案です
恋愛・家族の場合
- 「言わなくてもわかってほしい」と期待し合うと、すれ違いが増えます。定期的に「最近どう?」と気持ちを共有する時間を作ると効果的です
- 自分が気持ちを言語化しにくい場合は、「いまはうまく言えないけど、言葉にできたら話すね」と先に伝えておくと、相手の不安を減らせます
- 感情を伝える練習として、「〇〇があって、△△と感じた」(事実+感情)という形を使ってみてください
友人関係の場合
- 気持ちを推測して気疲れしてしまうなら、「相手の気持ちを背負わない」ことも大切です。相手の感情の責任は、相手自身にあります
- 相手との距離感が合わないと感じたら、無理に合わせ続けず、自分が楽な関係の頻度や距離を探っていきましょう
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8. やりがちなNG行動と、よくある落とし穴

気持ちがわからないことに悩む人ほど、真面目に改善しようとして、かえってしんどくなるパターンに陥ることがあります。ここでは、特に多い落とし穴を紹介します。
NG①:「感じなければ」と無理に自分を追い込む
「ちゃんと感じられる人間にならなきゃ」と強く思うほど、緊張が高まり、体の感覚はますます鈍くなります。感情は、コントロールして出すものではなく、安全な状態になると自然に気づけるものです。リラックスして、観察する姿勢を大切にしましょう。
NG②:自分を責める、人と比較する
「みんなは普通にわかるのに、自分だけ…」という比較は、自己否定を強め、感情をさらに感じにくくします。他人の内面は見えないので、比較の対象が「他人の表面」になっていることを思い出してください。
NG③:ネットの診断やラベルで決めつける
「自分はアレキシサイミアだ」「ASDに違いない」「サイコパスかもしれない」など、ネットの情報だけで自己診断し、不安を強めてしまうケースがあります。ここで紹介した概念は、あくまで理解を深めるヒントです。気になる場合は、専門家に相談してください。
なお、「他人の気持ちがわからないことに悩み、罪悪感を抱いている」という時点で、他人への関心や配慮が十分にある証拠です。悩むという行為そのものが、「冷たい人間」ではないことを示しています。
NG④:感情を「ないもの」にして、乗り切ろうとする
つらい感情を感じないようにして生活を続けると、短期的には楽でも、長期的には感情の気づきがさらに鈍くなり、心身の不調として現れることがあります。ネガティブな感情も、あなたに何かを伝えようとしているサインです。
NG⑤:一気に変わろうとして、続かなくなる
感情日記、瞑想、質問の練習…と、いくつも同時に始めて、数日で挫折してしまうことがよくあります。ひとつだけ、小さく、続けられる形で始めることが、結果的には最短ルートです。
NG⑥:相手に「察して」を求めすぎる/自分が「察しすぎる」
気持ちがわかりにくい人は、「察して」と求められてしんどくなったり、逆に、周囲に合わせて察しすぎて疲れ果てたりします。お互いが言葉で確認し合う関係を、少しずつ目指していきましょう。
9. 専門家に相談する目安と相談先

セルフケアで試せることは多くありますが、ひとりで抱え込まなくてよいことも、同じくらい大切です。次のような場合は、専門家への相談を検討してみてください。
相談を考えたほうがよい目安
- 気持ちがわからない状態が長く続き、仕事・学業・家事・人間関係に支障が出ている
- 以前は感じられていた感情が、急に感じられなくなった
- 2週間以上、ほとんど毎日、気分の落ち込み、強い疲労感、興味や喜びの喪失が続いている
- 不眠、過眠、食欲の大きな変化、動悸、頭痛、腹痛などの体の不調が続いている
- 強い不安、パニック、フラッシュバック、現実感のなさ(自分や周囲が遠く感じる)がある
- 過去のつらい体験(虐待、いじめ、事故、災害など)が、いまも生活に影響している
- 発達特性(ASD・ADHDなど)の可能性について、きちんと知りたい
- 「消えてしまいたい」「生きているのがつらい」という気持ちがある
特に最後の項目に心当たりがある場合は、ためらわずに、すぐに相談してください。
どこに相談すればよい?
医療機関(精神科・心療内科) 気分の落ち込み、不眠、強い不安、発達特性の評価など、医学的な見立てが必要な場合の相談先です。初診で何を話せばよいか不安な場合は、「いつから、どんな困りごとがあるか」を事前にメモして持っていくとスムーズです。
カウンセリング(公認心理師・臨床心理士など) 感情の整理、生育歴の振り返り、対人関係の悩みなどに向き合う場です。医療機関内のカウンセリング、民間のカウンセリングルーム、大学の相談室、職場の相談窓口(EAP)など、さまざまな形があります。
公的な相談窓口 費用の負担が少なく、相談しやすい窓口もあります。
- 精神保健福祉センター・保健所: 各都道府県・政令指定都市に設置されており、こころの健康に関する相談ができます
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556): 住んでいる地域の公的な相談窓口につながる電話番号です
- よりそいホットライン(0120-279-338): 24時間対応の無料電話相談です
- いのちの電話・各種SNS相談: 電話が苦手な場合は、LINEなどのSNS相談を設けている団体もあります
※ 電話番号や受付時間は変更されることがあります。ご利用の際は、厚生労働省や各団体の公式サイトで最新情報をご確認ください。
もしいますぐ命に関わる危険があると感じたときは、迷わず、119番(救急)または110番に連絡するか、近くの人に助けを求めてください。
受診・相談で伝えるとよいこと
専門家は、あなたの状態を理解するために、次のような情報を知りたがります。メモにまとめておくと、短い時間でも伝えやすくなります。
- いつから、どんな困りごとがあるか(「自分の気持ちがわからない」「他人の気持ちがわからない」を、具体的な場面とともに)
- 生活への影響(仕事・人間関係・睡眠・食事など)
- これまでに試したこと(この記事の方法など)
- これまでの経験(育った環境、過去のつらい出来事など。話せる範囲で構いません)
- 服用中の薬や、通院中の病気
「気持ちがわからない」という相談そのものが、専門家にとって決して珍しいものではありません。「うまく説明できない」ままでも、相談して大丈夫です。
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10. 身近な人が「気持ちがわからない」と悩んでいるとき

この記事を、家族やパートナー、友人など、身近な人の様子が気になって読んでいる方もいるかもしれません。最後に、周囲の人ができることをお伝えします。
してあげたいこと
- 「どう感じてる?」と、せかさずに聞く:答えが出てこなくても、待つ姿勢が安心感につながります
- 選択肢を示す:「悲しい? 悔しい? それとも疲れた?」と、いくつかの候補を示すと、答えやすくなる人もいます
- 感情を言葉にした経験を、肯定する:「話してくれてありがとう」と伝えます
- 「どうしてわからないの?」と責めない:本人も、わからなくて困っていることがほとんどです
- 自分の気持ちも、言葉にして伝える:「私は〇〇と感じたよ」という言葉が、感情の言語化のモデルになります
避けたいこと
- 「普通はこう感じるでしょ」と、基準を押しつける
- 「冷たい人」「何を考えているかわからない」といったレッテルを貼る
- 感情を無理に引き出そうとする
- 本人の変化を、すぐに期待する
大切にしたいのは、「わからない」ことを一緒に面白がれるくらいの余裕です。感情を言葉にする練習は、本人だけでなく、周りの人にとっても、お互いを理解し直すきっかけになります。
11. よくある質問(FAQ)

Q1. 他人の気持ちがわからないのは、サイコパスなのでしょうか?
A. 他人の気持ちがわからないことに悩み、罪悪感を抱いているのであれば、一般にサイコパスの特徴(他人の苦痛への関心の乏しさ、罪悪感の欠如など)とは異なります。気持ちがわからない状態は、本記事で見てきたように、環境、ストレス、感情の認識しにくさ、認知のクセなど、多くの要因で起こります。なお、サイコパスという用語は医学的な診断名ではなく、安易に自己判断すべきものでもありません。不安が強い場合は、専門家に相談してください。
Q2. 自分の気持ちがわからないのは、病気ですか?
A. 気持ちがわかりにくいこと自体は、病気ではありません。アレキシサイミアも、診断名ではなく「特性(傾向)」の概念です。ただし、うつ病や不安障害、PTSDなどの症状のひとつとして現れることもあるため、日常生活に支障が出ている、あるいは急な変化がある場合は、医療機関への相談が安心です。
Q3. 「感情がない」ように感じます。本当に感情がないのでしょうか?
A. 多くの場合、感情が「ない」のではなく、「気づきにくい」「言葉にしにくい」「抑え込まれている」状態です。体の反応(動悸、胃の不快感、肩の緊張など)が出ているのに、それが感情だと認識できていないケースも多くあります。第6章の方法で、体の感覚から少しずつ気づく練習をしてみてください。
Q4. 大人になってからでも、気持ちがわかるようになりますか?
A. はい、変化の可能性は十分にあります。感情ラベリングやマインドフルネス、感情日記、心理療法などによって、感情の認識や調整が改善する可能性が、さまざまな研究で検討されています。もちろん、個人差があり、変化のスピードも人それぞれですが、年齢に関係なく、練習によって「気づく力」は育てられます。
Q5. 他人の気持ちがわからないと、人間関係はうまくいきませんか?
A. 必ずしもそうではありません。他人の気持ちを完璧に読み取れなくても、確認する、質問する、誠実に伝えることで、良い関係を築いている人はたくさんいます。大切なのは、読み取りの「正確さ」より、「理解しようとする姿勢」と「確認するコミュニケーション」です。
Q6. 感情を表に出すのが苦手なだけで、感じてはいるのだと思います。それでも「気持ちがわからない」に当てはまりますか?
A. 「感じてはいるが表現が苦手」と、「そもそも気づきにくい」は、別の状態です。前者は、表現の練習や、安心して話せる関係づくりが助けになります。後者は、体の感覚への気づきや、感情ラベリングが役立ちます。両方が重なっている人も多いので、自分の状態を、第1章のタイプ分けで確認してみてください。
Q7. 家族に理解されず、つらいです。どうすればよいですか?
A. 「わかってもらえない」と感じる状況は、とてもしんどいものです。まずは、家族に「いま感じにくい状態で、困っている」と、正直に伝えてみることが、第一歩になります。難しい場合は、カウンセラーなど第三者に話すことで、気持ちの整理や、家族への伝え方を一緒に考えることができます。
Q8. 子どもが「自分の気持ちがわからない」と言います。どうすればよいですか?
A. 子どもは、感情を表す言葉をまだ多く持っていないため、「わからない」と感じるのは自然なことです。「悲しかった?」「悔しかった?」と、いくつかの選択肢を示して、感情の言葉を一緒に増やしていくと効果的です。絵本や遊びを通して感情を学ぶ方法もあります。長く続く場合や、生活への影響が大きい場合は、学校のスクールカウンセラーや、児童精神科などに相談してみてください。

12. まとめ
ここまで、「他人の気持ちがわからない」「自分の気持ちがわからない」という悩みを、心理学の視点から詳しく見てきました。最後に、大切なポイントを振り返ります。
この記事の要点
- 「気持ちがわからない」は珍しい悩みではなく、欠陥ではなく「状態」。さまざまな要因で変化しうるものです
- 気持ちがわかるには、体の反応への気づき、言葉でのラベリング、状況との結びつけ、他者への推測といった複数のステップがあり、つまずく場所は人それぞれです
- 主な原因には、①感情を抑える環境 ②アレキシサイミア傾向 ③体の感覚への気づきにくさ ④ストレス・疲労・うつ状態 ⑤感情語彙の不足 ⑥認知のクセ ⑦発達特性・トラウマ・愛着があり、多くは複数が重なっています
- 自分の気持ちを理解する力と、他人の気持ちを理解する力は、つながっています。そのため、自分の気持ちを育てることが、他人理解の土台にもなります
- 自分の気持ちには、体の感覚・ラベリング・感情日記・語彙・フォーカシング・小さな選択・マインドフルネスで近づけます
- 他人の気持ちには、事実と解釈の区別・観察・質問・自分の経験の活用・傾聴・「わからない」を前提とした尊重で近づけます
- 無理をせず、ひとつだけ、小さく、続けられる形で。そして、つらいときは専門家に頼ることも大切な選択です
「自分の気持ちがわからない」「他人の気持ちがわからない」という感覚は、ときに孤独で、不安なものです。けれども、その感覚に気づき、「なぜだろう」と調べ、「何とかしたい」と思ってこの記事を読んでいること自体が、自分や他人の心に、すでに向き合い始めている証拠です。
今日からできる最初の一歩は、とても小さなものでかまいません。
- 夜寝る前に、「今日、いちばん心が動いたこと」をひとつだけ思い出してみる
- 胸やお腹に手を当てて、「いま、どんな感じがするかな」と30秒だけ感じてみる
- 感情の言葉を、ひとつだけ新しく覚えてみる
そのどれかひとつから、始めてみてください。感情への気づきは、一朝一夕には変わりませんが、続けた分だけ、確実に深まっていきます。
あなたのペースで、あなたなりの「わかる」を、ゆっくり育てていけますように。
参考文献・出典
本記事は、以下の学術論文・書籍・公的機関の情報などを参考に作成しました。(※公開前に、最新のURL・書誌情報をご確認ください)
アレキシサイミア(失感情症)関連
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公的機関
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- 各都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センター 公式サイト


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