
休日にぽっかり予定のない時間ができると、なぜかそわそわして、気づけばまた新しい予定を入れてしまう。SNSで友人の充実した投稿を見ては焦りを感じ、「何もしていない自分」に価値がないような気がしてくる——。この記事は、そんな感覚に心当たりのある方に向けて書いています。
結論から言うと、暇な時間に不安を感じること自体は、決して珍しい反応でも「意志が弱い」わけでもありません。人間の脳の仕組みや、現代社会特有の価値観が複雑に絡み合って生まれる、ごく自然な心理反応です。とはいえ、その不安から逃れるために予定を詰め込み続けることが習慣化すると、心身の疲労や自己理解の機会損失など、見過ごせない影響も出てきます。
本記事では、心理学・行動科学の知見を踏まえながら、「暇な時間への不安」がなぜ生まれるのか、そのメカニズムを丁寧にひもといたうえで、無理なく余白のある生活を取り戻すための実践的なヒントをお伝えします。
とくに次のような方には、最後まで読んでいただく価値があるはずです。「休日の予定が決まっていないと、それだけで気持ちが落ち着かなくなる方」「気づけば手帳やカレンダーアプリの空欄を埋めることに追われている方」「忙しくしている自分にどこか安心感を覚えつつも、心のどこかで疲れを感じている方」。一つでも当てはまる方は、ぜひこの先を読み進めてみてください。
おすすめ1. 「暇な時間」があると不安になる心理とは

1-1. 何もしない時間は、実は脳にとって「負荷」がかかる状態
一見すると、予定のない時間はリラックスできて楽なはずだと思われがちです。しかし実際には、私たちの脳は「何もしていない状態」を持て余しやすいことが、複数の心理学研究で示されています。
その代表例が、バージニア大学の心理学者ティモシー・ウィルソンらが2014年に学術誌『Science』で発表した実験です。この研究では、参加者に何もせず一人で座って考え事をするだけの時間を数分間与えたところ、多くの人がその状態を苦痛に感じ、中には「何もしないでじっとしているくらいなら」と、自分に軽い電気ショックを与えるボタンを押す選択をした参加者もいたと報告されています。この結果は、「静かに自分の思考と向き合う時間」が、私たちが想像する以上に心理的な負荷を伴うことを示す象徴的な事例として、その後も心理学分野で頻繁に引用されています。
つまり、「暇な時間=リラックスタイム」というのは必ずしも実感と一致せず、多くの人にとって、予定のない時間は「何を考えればいいかわからない」「自分と向き合うのが落ち着かない」という、ある種の緊張状態を引き起こしやすいのです。
1-2. 「自分と向き合う時間」への漠然とした恐れ
予定がなくなると、普段は仕事や用事に紛れて意識しないで済んでいた感情や悩みが、ふと頭をもたげてきます。「このままで良いのか」「将来どうなるのか」といった、答えのすぐには出ない問いに向き合わざるを得なくなるのです。
実存心理学の分野では、人が根源的に抱える不安として「死」「自由」「孤独」「無意味さ」という4つのテーマが古くから語られてきました。忙しく予定を詰め込んでいる間は、こうした根源的な問いから意識をそらしていられますが、暇な時間ができるとその蓋が外れ、漠然とした不安として表面化しやすくなります。多くの人が「暇になると考えすぎてしまう」と感じるのは、この構造が背景にあると考えられます。
1-3. 「生産的でなければならない」という無意識の思い込み
現代社会、とくに都市部で働く人の多くは、幼い頃から「頑張ること」「成果を出すこと」を評価される環境で育ってきました。その結果、「何もしていない時間=価値を生んでいない時間」という感覚が、無意識のうちに刷り込まれているケースが少なくありません。
この感覚が強い人ほど、ソファでゴロゴロしているだけの時間や、目的のない散歩の時間に対して、「こんなことをしていていいのだろうか」という罪悪感に近い感情を抱きやすくなります。結果として、その不快感から逃れるために、無意識に予定を入れて「生産性」を確保しようとするのです。

1-4. SNSが増幅する「取り残される不安」
もう一つ見逃せないのが、SNSの影響です。友人や知人の「充実した週末」「意識の高い自己投資」の投稿を目にすると、「自分だけ何もしていない」という比較意識が刺激されます。心理学ではこれを俗に「FOMO(Fear of Missing Out/取り残される恐怖)」と呼びますが、この感覚が強いと、暇な時間そのものよりも「暇にしていることを他人にどう見られるか」という視線への不安が、予定を詰め込む動機になっている場合もあります。
興味深いことに、コロンビア大学の研究者らが2016年に学術誌『Journal of Consumer Research』で発表した調査では、現代のアメリカ社会において「忙しさ」自体が一種のステータスシンボルとして機能している傾向が報告されています。かつては「余暇を楽しめること」が豊かさの象徴とされた時代もありましたが、現在は「予定でスケジュールが埋まっていること」が、有能さや需要の高さを示す記号として受け取られやすくなっているというのです。こうした社会的な価値観も、「暇=悪いこと」という感覚を後押ししていると考えられます。
1-5. 日本社会に特有の背景も影響している
海外の研究や事例に加えて、日本ならではの文化的背景も「暇不安」を強める要因として無視できません。
まず挙げられるのが、長時間労働を前提とした働き方が根強く残ってきた歴史です。「休むこと」よりも「働いていること」「動いていること」に価値が置かれる職場文化の中で育つと、休日にじっとしていることへの居心地の悪さが自然と身についてしまいます。近年は働き方改革によって状況は変わりつつありますが、意識の面での変化には時間がかかるものです。
また、単身世帯の増加や地域コミュニティのつながりの希薄化により、「予定がない=誰とも予定を合わせていない」という孤独感と結びつきやすくなっていることも一因として考えられます。かつては近所付き合いや大家族の中で自然に生まれていた「予定のない時間の過ごし方」を、現代では一人で確立しなければならない場面が増えているのです。
さらに、「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉に象徴されるように、限られた時間をいかに効率よく使うかを重視する価値観が若い世代を中心に広がっています。効率や成果を重視する意識が強いほど、「目的のない時間」そのものが落ち着かないものとして感じられやすくなる傾向があります。
おすすめ2. なぜ「予定を詰め込む」という行動に向かうのか

暇な時間に不安を感じるところまでは同じでも、その先の行動パターンは人によって異なります。ここでは、「予定を詰め込む」という選択に向かいやすい心理的な背景を、もう少し具体的に見ていきましょう。
2-1. 不安を「回避」するための行動としてのスケジューリング
心理学における不安への対処には、大きく分けて「問題に向き合って対処する(問題焦点型コーピング)」と「不快な感情そのものを避ける(回避型コーピング)」の2種類があるとされています。予定を詰め込む行為は、多くの場合この回避型コーピングにあたります。
つまり、「暇な時間に生まれる漠然とした不安や自己嫌悪」という不快な感情そのものと向き合うのではなく、その感情が生まれる「隙間」自体をなくしてしまうことで、一時的に不安を感じずに済むようにしているのです。回避型の対処は短期的には効果を感じやすい一方、根本原因が解消されるわけではないため、同じパターンが繰り返されやすいという特徴があります。
2-2. 「忙しい自分」に自己価値を紐づけている
予定を詰め込みやすい人の中には、「頑張っている自分」「求められている自分」であることに、自己肯定感の多くを依存させているケースが見られます。この場合、スケジュール帳が埋まっていること自体が「自分には価値がある」という感覚を支える材料になっているため、予定のない状態は、単なる暇つぶし不足ではなく、自己価値が揺らぐような感覚として体験されやすくなります。
2-3. コントロール感を取り戻したいという欲求
先の見えない未来や、コントロールしきれない人間関係の悩みなど、私たちの生活には思い通りにならないことがたくさんあります。その中で「スケジュールを埋める」という行為は、数少ない「自分の意思で完全にコントロールできる領域」です。将来への漠然とした不安が強い人ほど、予定表という目に見える形でコントロール感を確保しようとする傾向があると考えられます。
2-4. 「もったいない」という時間への強迫的な意識
「時は金なり」という価値観が強く内面化されていると、予定のない時間そのものを「浪費」や「機会損失」として捉えやすくなります。この意識が強すぎると、休息や余白の時間にすら「これは本当に有意義な使い方だろうか」と自問してしまい、心から休むことができなくなってしまいます。
おすすめ3. あなたの「暇不安」はどのくらい?セルフチェックリスト

以下の項目に、いくつ当てはまるか確認してみてください。あくまで自己理解のための簡易的な目安であり、医学的な診断ではありませんが、傾向をつかむ手がかりになります。
- 休日の予定が決まっていないと、それだけでそわそわする
- スケジュール帳やカレンダーアプリの「空白」を見ると落ち着かない
- 誘いを断って一人の時間ができると、なんとなく罪悪感がある
- 「何もしていない自分」を他人にどう思われるか気になる
- 気づけば、休むための予定まで詰め込んでしまっている
- SNSで他人の充実した予定を見ると焦りを感じる
- 一人で静かに座っていると、考えなくてもいいことまで考えてしまう
- 「暇だ」と感じる瞬間そのものが苦手だ
3つ以上当てはまる方は、暇な時間に対する不安がやや強く出ているサインかもしれません。次の章では、こうした状態を放置した場合に起こりやすい影響について見ていきます。
4. タイプ別に見る「暇不安」の現れ方

「暇不安」といっても、その現れ方や背景にある心理は人によってさまざまです。ここでは、よく見られる3つの傾向を、架空の人物像として整理してみました。自分に近いパターンがないか、確認しながら読んでみてください。
タイプA:達成型(「頑張っている自分」で安心したいタイプ)
平日は仕事に全力投球し、休日も資格の勉強やジムでのトレーニングなど、常に何かしらの「成長」につながる予定を入れていないと落ち着かないタイプです。周囲からは「意識が高い」「向上心がある」と評価されやすい一方で、本人の内側では「頑張っていない自分には価値がない」という不安が原動力になっているケースが少なくありません。達成すること自体よりも、「達成し続けていないと不安になる」状態が続くと、休息を取ること自体に罪悪感を覚えるようになり、疲労が抜けにくくなっていきます。
タイプB:社交型(「一人でいること」への不安が強いタイプ)
友人との予定や飲み会、イベントなど、常に誰かと一緒にいる予定でスケジュールを埋めたがるタイプです。一人の時間ができると、寂しさや孤独感が強く刺激され、それを紛らわせるために次々と予定を入れてしまいます。人とのつながりを大切にすること自体は良いことですが、「一人でいる自分」を落ち着いて受け止められない状態が続くと、人間関係そのものが「不安を埋めるための手段」になってしまい、かえって関係の質が浅くなってしまうこともあります。
タイプC:完璧主義型(「無駄な時間」を許せないタイプ)
限られた時間をいかに効率よく使うかを常に意識し、予定と予定の間の「隙間」すら「もったいない」と感じてしまうタイプです。移動時間にも音声学習を入れたり、休憩時間にもタスクを詰め込んだりと、常に何かを「消化」していないと落ち着きません。効率を重視する姿勢は仕事において強みになる一方、プライベートにまでその基準を持ち込みすぎると、心から休むタイミングを見失いやすくなります。
いずれのタイプにも共通しているのは、「予定を詰め込む行動そのもの」が問題なのではなく、その裏にある「不安を埋めたい」という気持ちに、本人自身が気づきにくいという点です。次の章では、この状態を放置した場合に起こりやすい影響について見ていきます。
おすすめ5. 「暇不安」を放置するとどうなるか

予定を詰め込むこと自体が、直ちに悪いわけではありません。目標に向かって計画的にスケジュールを組むことは、むしろ望ましい面もあります。問題となるのは、「不安から逃れるためだけに」予定を詰め込む状態が慢性化してしまうケースです。
5-1. 慢性的な疲労とバーンアウト(燃え尽き症候群)
休息すべき時間にまで予定を入れ続けると、心身が回復するタイミングを失い、疲労が蓄積していきます。これが長期化すると、仕事や趣味に対する意欲そのものが枯渇してしまう、いわゆるバーンアウト状態に至るリスクが高まります。皮肉なことに、「不安を避けるための忙しさ」が、かえって心身のパフォーマンスを下げてしまうのです。
5-2. 自己理解の機会を失う
何もしない時間は、実は自分の本当の気持ちや価値観に気づくための重要な機会でもあります。常に外部の予定に意識を向け続けていると、「自分が本当にやりたいこと」「本当に大切にしたい人間関係」といった内面的な問いに向き合う時間そのものが失われてしまいます。結果として、忙しくしているわりに、人生の満足感や方向性が定まらないという感覚に陥る人も少なくありません。
5-3. 人間関係の質の低下
予定を「量」で埋めることに意識が向きすぎると、一つひとつの人間関係や体験に十分な意識を向けられなくなることがあります。次の予定を気にしながら人と会っていると、目の前の相手との時間に集中しきれず、関係の深まりを感じにくくなってしまうケースもあります。
5-4. 慢性的な不安感の固定化
回避型の対処は、その場では不安を軽減してくれますが、根本的な原因には触れていません。そのため、「予定が埋まっている間は平気だが、少しでも隙間ができるとまた不安になる」というパターンが繰り返され、結果的に不安そのものが解消されないまま長期化しやすいという指摘もあります。
6. 暇な時間と上手に付き合うための具体的な方法

ここからは、「暇不安」と無理なく付き合っていくための実践的なアプローチを紹介します。いきなりすべてを変える必要はありません。できそうなものから、一つずつ試してみてください。
6-1. 「何もしない時間」を、あえて予定に組み込む
逆説的ですが、まずは「何もしない時間」をスケジュール帳に書き込んでみることをおすすめします。「17時〜18時:とくに何もしない」と明記するだけで、その時間は「予定のない不安な空白」ではなく「意図的に確保した余白」という意味づけに変わります。同じ時間でも、意味づけが変わるだけで感じ方は大きく変わるものです。
6-2. 予定を入れる前に「なぜそれをしたいのか」を一呼吸おいて考える
新しい予定を入れそうになったとき、「本当にやりたいからか」「それとも、暇な時間が怖いからか」を一度立ち止まって自問してみましょう。すべての予定を減らす必要はなく、動機を意識するだけでも、無自覚な詰め込みにブレーキがかかりやすくなります。
6-3. 短時間から「余白」に慣れる練習をする
いきなり丸一日予定を空けるのはハードルが高いという方は、まず5分、10分といった短い時間から始めてみましょう。タイマーをセットして、その間はスマートフォンを見ずにただ座る、外の景色を眺める、といった小さな「余白」の練習を重ねることで、少しずつ「何もしない時間」への耐性が育っていきます。
6-4. ジャーナリング(書く習慣)で頭の中を整理する
暇な時間にふと浮かんでくる不安や雑念は、頭の中だけで処理しようとすると堂々巡りになりやすいものです。ノートに数分間、思いついたことをそのまま書き出す「ジャーナリング」は、頭の中を可視化し、感情を客観的に眺める助けになります。「何が不安なのか」が言語化されるだけでも、気持ちが軽くなることがあります。

6-5. マインドフルネスで「今この瞬間」に意識を戻す
呼吸に意識を向けるシンプルな瞑想や、五感を使って「今、目に見えているもの」「聞こえている音」に注意を向けるマインドフルネスの練習は、未来への不安や過去への後悔から意識を「今」に引き戻すのに役立つとされています。暇な時間に浮かんでくる不安の多くは、「まだ起きていない未来」に関するものです。今この瞬間に意識を戻す練習を重ねることで、暇な時間そのものへの抵抗感が和らいでいくケースが多く報告されています。
6-6. 「忙しさ=価値」という思い込みを見直す
自分の価値を「どれだけ予定が埋まっているか」で測っていないか、一度立ち止まって考えてみましょう。ノートに「予定がなくても価値を感じられる自分の側面」を書き出してみるのも一つの方法です。友人との深い会話、丁寧に淹れたコーヒーを味わう時間、読みかけの本をゆっくり読む時間——こうした「量」ではなく「質」に紐づく体験に目を向けることで、忙しさだけに依存しない自己肯定感を育てていくことができます。
6-7. タイプ別に見る、おすすめの取り組み方
先ほど紹介した3つのタイプ別に、とくに取り入れやすい対処法をまとめました。自分の傾向に近いものから試してみてください。
| タイプ | 特徴 | とくにおすすめの対処法 |
|---|---|---|
| 達成型 | 「頑張っている自分」で安心したい | 予定に「何もしない時間」を明記する/休息にも意味づけを与える(「回復のための時間」と位置づける) |
| 社交型 | 一人の時間への不安が強い | 短時間から一人時間に慣れる練習/ジャーナリングで孤独感の正体を言語化する |
| 完璧主義型 | 「無駄な時間」を許せない | マインドフルネスで「今この瞬間」に意識を戻す/効率の基準をプライベートに持ち込みすぎない |
もちろん、複数のタイプが重なっている方も多いはずです。表はあくまで目安として、自分に合いそうな方法を柔軟に組み合わせてみてください。
6-8. 信頼できる人に「暇な時間の使い方」を話してみる
一人で抱え込むと、同じ思考パターンをぐるぐると繰り返しがちです。家族や友人に「実は予定がないと落ち着かなくて」と話してみるだけでも、客観的な視点をもらえたり、「自分だけではなかった」という安心感につながったりすることがあります。
おすすめ7. 専門家への相談を検討したいサイン

セルフケアを試みても改善が見られない場合や、以下のような状態が続く場合は、心療内科・精神科、あるいは公認心理師・臨床心理士によるカウンセリングなど、専門家のサポートを検討することをおすすめします。
- 予定のない時間に、強い動悸や息苦しさなど身体症状を伴う不安を感じる
- 予定を詰め込みすぎて、慢性的な不眠や食欲不振が続いている
- 「休むこと」に対して強い罪悪感があり、意識的に休むことができない
- 気分の落ち込みが2週間以上続いている
- 不安のコントロールが難しく、日常生活や仕事に支障が出ている
こうしたサインが見られる場合、それは意志の弱さの問題ではなく、専門的なサポートが助けになる状態である可能性があります。一人で抱え込まず、早めに相談先を探すことも、自分を大切にする行動の一つです。
8. 「暇な時間」を、不安の対象から楽しみの対象へ

ここまで、暇な時間に不安を感じる心理的なメカニズムと、その対処法について見てきました。最後に大切な視点をお伝えします。それは、「暇な時間への不安をゼロにすること」がゴールなのではなく、「暇な時間との付き合い方の選択肢を増やすこと」がゴールだということです。
予定を詰め込むこと自体は悪ではありません。目標に向かって計画的に時間を使うことは、充実感につながる大切な行為でもあります。大切なのは、「不安だから埋める」という一つのパターンしか持っていない状態から、「今日はあえて余白を楽しんでみよう」「今日はしっかり予定を入れて動いてみよう」と、状況や気分に応じて選べる状態へと変化していくことです。
余白のある時間は、最初は落ち着かなく感じるかもしれません。しかし、少しずつ付き合い方に慣れていくことで、それはやがて「何もない時間」から「自分と静かに向き合える貴重な時間」へと、意味を変えていくはずです。
おすすめ9. 実は見落とされがちな、余白の時間がもたらすメリット

不安を伴うからこそ避けたくなる「暇な時間」ですが、実はそこには見過ごされがちな効用もあります。最後に、余白の時間が持つポジティブな側面についても触れておきます。
9-1. 退屈は創造性を刺激する
イギリスの心理学者サンディ・マンらの研究をはじめ、「退屈な状態」が創造的な発想を促す可能性を示す研究がいくつか報告されています。単調で刺激の少ない作業をしたあとの方が、その後の課題でより自由で創造的なアイデアが出やすくなったという実験結果もあり、常に情報や刺激で埋め尽くされた状態よりも、ある程度「何もしていない」時間があるほうが、脳が自由に情報を組み合わせ、新しい発想を生み出しやすくなると考えられています。忙しく予定を詰め込み続けている状態は、実はこうした創造的な思考が生まれる余地そのものを奪ってしまっている可能性があるのです。
9-2. 記憶や感情の整理が進む
何もしていないように見える時間でも、私たちの脳は決して休んでいるわけではありません。むしろ、外部からの新しい情報が入ってこない状態のときに、脳は日中に経験した出来事や情報を整理し、記憶として定着させる働きを活発化させるとされています。ぼんやりと過ごす時間は、いわば脳内の「片付け」の時間でもあるのです。予定を詰め込み続けて常に新しい情報を入力し続けていると、この整理のプロセスが十分に働かず、かえって頭の中が散らかったような感覚が続いてしまうこともあります。
9-3. 意思決定の質が上がる
一日の中で下す判断の数には限りがあり、判断を重ねるほど、その質は徐々に低下していく傾向があることが行動科学の分野で指摘されています。これは「決断疲れ」と呼ばれる現象です。予定をぎっしり詰め込んだ状態は、絶えず小さな判断(次は何をするか、どう移動するか等)を求められる状態でもあり、気づかないうちに決断疲れを蓄積させている可能性があります。適度な余白を挟むことは、その後の重要な判断の質を保つことにもつながります。
9-4. 「本当にやりたいこと」に気づくきっかけになる
常に予定に追われていると、「やるべきこと」に意識が向きがちになり、「本当はどうしたいのか」という内側の声に気づきにくくなります。余白の時間にふと浮かんでくる「あれをやってみたい」「あの人にもう一度会いたい」といった思いは、忙しさの中では見過ごされがちな、自分にとって本当に大切なものへのヒントであることも少なくありません。
このように、暇な時間は単なる「不安の温床」ではなく、うまく付き合うことができれば、創造性や自己理解を育む貴重な資源にもなり得ます。不安との付き合い方を少しずつ学びながら、余白の時間が持つこうした恩恵にも、ぜひ目を向けてみてください。
よくある質問(FAQ)

Q1. 暇な時間に不安を感じるのは、性格の問題なのでしょうか?
A. 性格そのものというより、育った環境や社会的な価値観、思考のクセが積み重なって生まれる心理パターンと考えられています。生まれ持った性質だけで決まるものではなく、対処法を実践することで少しずつ変化させていくことができます。
Q2. 予定を詰め込むこと自体は、やめるべきなのでしょうか?
A. 予定を詰め込むこと自体が問題なのではなく、「不安から逃れるためだけに」詰め込んでいる状態が続くことが課題です。目的や充実感を伴う予定であれば、無理に減らす必要はありません。
Q3. 一人の時間が苦手なのですが、どこから練習すればいいですか?
A. いきなり長時間の余白をつくるのではなく、まずは5分程度の「何もしない時間」から試してみることをおすすめします。慣れてきたら少しずつ時間を延ばしていくと、無理なく続けやすくなります。
Q4. どのタイミングで専門家に相談すればいいですか?
A. 不安に強い身体症状を伴う場合や、不眠・食欲不振が続く場合、気分の落ち込みが2週間以上続く場合などは、早めに心療内科や心理カウンセリングへの相談を検討することをおすすめします。
Q5. 子どもがいる家庭でも、同じような「暇不安」は起こりますか?
A. 起こり得ます。とくに子どもの習い事や学校行事のスケジュール管理に追われる保護者の方の中には、自分自身の余白の時間まで「有効活用しなければ」というプレッシャーを感じやすい方も見られます。まずは1日5分でも、家事や育児から離れて「何もしない時間」を意図的に確保することから始めてみましょう。
Q6. 「暇不安」と「ただの飽き性」は違うものですか?
A. 異なる傾向です。飽き性は特定の物事への興味が長く続かない状態を指しますが、「暇不安」は予定の有無そのものに対する不安が中心にあります。ただし、退屈さを紛らわせるために次々と新しい物事に手を出すという点では、行動として似た形で現れることもあります。
Q7. 予定を詰め込む習慣は、完全になくすべきなのでしょうか?
A. 完全になくす必要はありません。目指したいのは「予定を詰め込む」か「余白を持つ」かを、不安に流されるのではなく、そのときどきの気分や目的に応じて自分で選べるようになることです。両方の選択肢を持てている状態が、もっとも心理的に安定しやすいと考えられています。

まとめ
- 暇な時間に不安を感じるのは、脳の仕組みや現代社会の価値観が背景にある自然な反応であり、意志の弱さではない
- 予定を詰め込む行動の多くは、不安を回避するための無意識の対処法である
- 詰め込みすぎが慢性化すると、バーンアウトや自己理解の機会損失、人間関係の質の低下といった影響が出やすい
- 「あえて余白を予定に組み込む」「動機を一呼吸おいて確認する」「ジャーナリングやマインドフルネスを取り入れる」など、小さな実践から少しずつ改善できる
- 身体症状や日常生活への支障が続く場合は、専門家への相談を検討する
暇な時間への向き合い方は、誰もがすぐに変えられるものではありません。長年かけて身についた思考のクセや価値観は、一朝一夕で変わるものではないからです。だからこそ、焦らず、今日紹介した方法の中から一つだけでも、試しに取り入れてみてください。たとえば今週末、あえて1時間だけ何も予定を入れない時間をつくってみる。それだけでも、小さな第一歩になります。その小さな一歩の積み重ねが、忙しさに頼らなくても安心できる自分へと、少しずつつながっていくはずです。
参考
本記事の作成にあたり、以下のような心理学・行動科学領域の考え方を参考にしています。より詳しく知りたい方は、あわせて調べてみることをおすすめします。
- ティモシー・ウィルソンらによる「一人で静かに考える時間」に関する実験研究(2014年、学術誌『Science』掲載)
- 実存心理学における「死・自由・孤独・無意味さ」という人間の根源的な不安に関する考え方(アーヴィン・ヤーロムらの議論を含む)
- 「忙しさの誇示」に関する消費者行動研究(2016年、学術誌『Journal of Consumer Research』掲載)
- ミハイ・チクセントミハイの「フロー理論」における、没入体験と時間感覚の関係
- 認知行動療法(CBT)における「回避行動」と不安の維持メカニズムに関する基本的な考え方
- マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)で紹介される、今この瞬間への注意の向け方

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